第四十六話「砂被り姫の幸福」前編
帝国国立博物館。
帝国で最も権威ある歴史資料の貯蔵庫であり、帝国人に啓蒙をもたらす場であった。
そこに、メイベリアン領から帰還したロゼッタとカイロの姿がある。
「き、緊張しますね。さすがに……」
「なんで、こういう日に限って父さんはカ氏族領に行ってるんだ……」
「はははっ、そう緊張するな。皇帝陛下は、ただ少しメイベリアンについて知りたいと言うだけのことだ」
二人を案内しているのは、軍服姿のシャルルだ。今日は戦場ではないが、公務ということで軍服姿なのだ。
その隣には、イスマリヤの姿まである。
「みみみみっともないわよ二人とも! 一度引き受けったきゃらには、どうどうと、対応するべ、べきよ!」
「一番動揺しているやつに言われたくないなぁ」
皇帝陛下が、メイベリアンについて詳しく知りたがっている。
その話を聞いた役人たちは、まず首を傾げた。そもそもメイベリアンってどんな人たちなんだ? と。自分たちが知らないのに、教えられるわけもない。
帰郷中だったシャルルにもその話は流れてきて、どうすればいいかと軽く相談したところ、国立博物館長とその息子のことが話題に上がった。
そして、メイベリアンと頻繁に交易を行うイスマリヤの実家イェファソン商店にも声が掛かり、結果カイロ、ロゼッタ、イスマリヤの三人に白羽の矢が立った。
「陛下が来るまでまだ時間がある。少し緊張をほぐせる話でもするとしようか」
シャルルはこの中で最年長だが、まだ皆年若い。気のいい兄のような彼は、三人の緊張を理解し、話題をふる。
「我が友カイロよ。ロゼッタ殿との仲は、その後どのように発展した? 何か変化があったはずであろう」
「そ、そういえば、シャルル閣下には、まだ話していなかったね」
「その、晴れて、お付き合いさせていただくことになりまして」
恥ずかしがりながら、シャルルに報告する。イスマリヤはすでに知っていたことであり、敗北した側だ。少し不機嫌そうに、顔を横に向けた。
「それは喜ばしいことだ。皇女殿下はこの手の話がお好きだ。皇帝陛下だけでなく、他の者にもメイベリアンについて教鞭をとることがあるだろう。皇女殿下とお会いした時は、二人のこともより深く、話してもらいたいな」
「あまり赤裸々に語るのは恥ずかしいかな……」
イスマリヤは何も言わない。たとえロゼッタと彼女が友であっても、それは好敵手と呼ばれる類のものだからだ。決してそこに、哀れみも妥協もない。
「でも、皇女殿下が羨ましがるほど、幸せになるつもりです」
ロゼッタの言葉に、シャルルはポカンとする。しかし、後ろから聞こえるイスマリヤの声を殺した笑いに、彼も口角を吊り上げた。
「そうか。それはいいことだ」
「はい。シャルル閣下も、よい艶聞があった時は、教えてくださいね」
「僕らも、祝福させてもらいますから」
「ああ、楽しみにしておいてくれ」
ニカリと笑ったシャルルに、カイロとロゼッタも笑みを浮かべる。イスマリヤは少し肩をすくめるが、その時には心からの祝辞を送るだろう。
皇帝陛下がご到着された――その知らせが届いたのはすぐあとだった。
ロゼッタとカイロは小指を絡ませ合う。少しだけ熱を交換し合い、入り口から現れた人物へ向き直る。
自分たちの仕事を、知ってもらうときが来た。
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