第四十六話「砂被り姫の幸福」後編
アミーポーシュ領にある骨董品店『ル・ビュー』に、新しい店員が入ってから一年半ほどが経った。
今日も、ロゼッタとカエルムは、様々な客に対応していた。
「……では、こちらの置物でどうでしょうか。帝国暦二百年代に造られたもので、保証書と鑑定書もありますので、確認されますか?」
「メイベリアン製金細工の発注とは言いますけど、そもそも彼らは販売品として造っているわけではないんです。金細工は友好の証か、何かしらの契約の証明なんです。帝室に献上された金細工も、和平協定締結の証として送ったもの。余計な欲求は身を滅ぼしますよ」
一般的な客人もいれば、分不相応な仕入れを求める者もいる。かつてはメイベリアン系金細工と偽って売ってきた者もいれば、今は直接買い付けようとする者もいる。
帝国とメイベリアンの協定では、許可のない者の越境を許してはいない。だからこそ伝手のある人間を頼るのだが、そもそも仕入れようとする物が間違っている。
「「ありがとうございました」」
客足が途絶えた時、疲れた様子のカイロが椅子に腰かけた。
「メイベリアンを甘く見すぎなんだよな。他の街の商人は……」
「ふふっ、マリヤちゃんみたいな良識的な商人だけじゃないですからね。その分、アミーポーシュ領ではマドレーヌさんの目が光っていますし」
そんな店主に、ロゼッタは紅茶を差し出す。「ありがとう」という言葉と「おいしい」という言葉が、淹れた甲斐を感じさせる。
「今需要があるものを一つでも多く仕入れるのは商売の基本ですから」
「僕だって、もう少し数を増やして資金を貯めたいけどさ……」
商売はそんな簡単なものではない。特に売りもあれば買いもある骨董品店は、大きな金が入りづらい。
「でも、明日の遺跡調査は確定しているんですから、ここが踏ん張り時ですよ」
「そうだね。今回の調査で結果を出せれば、僕らの論文を学会に出せる」
メイベリアンとの和平締結から一年ほど。最初に調査を始めたころに比べて、資料の数は格段に増えている。
旧帝国以前にまで遡れる同族論、不和の火種になるとは思えない。それがどのような結果を今の帝国とメイベリアンにもたらすのかもわからない。
だが、調和を高める要因となるには、少し圧力が足りない。
「それでも、僕たちの第一歩だ」
「これから先の、私たちの未来への」
カイロの背後に立つロゼッタは、青年の肩に手を置く。
その上に重ねられた青年の手から、あの遺跡で動けなくなった時に感じていた暖かさを思い出す。暗く閉ざされた空間でも、幸福な未来を思い描けた。
「今日は早めにご飯食べて、早めに休もう」
「はい。マドレーヌさんも、今度の調査は特に楽しみにしていらっしゃいますし、遅れられませんね!」
お互いの薬指に輝く指輪が、あの日諦めなかった結果だ。
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