第四十四話「砂被り姫の告白」後編
朝はどんよりとしていたはずの空は、いつの間にか快晴になっていた。
差し込む日差しが二人の顔を照らし、地上に付いたのだと言うことがわかる。
《イル! ロゼ! 無事だったかい!?》
カ・イリの声がした。心配をかけてしまっていたようだ。
オーディムの腕から、ドサリと地面に投げ捨てられた。二人仲良く顔面から地面に落ちたが、命に別状はない。助けてくれた、というより異物を捨てに来たオーディムは何事もなかったかのように遺跡の中へ戻っていく。
ありがとう、と言っても伝わらず、下手に生身で触れることもできない。
ただ、女神メイベルの思し召しだと、二人は思うことにした。
《動けないのかい? 何があった? 西の毒か?》
《そう、大陸の西側の物で、丸めた花のようなものから出る奴だ》
《ダ・ニディから聞いたことある奴だ。村の解毒剤を持ってきな! ダ氏族から貰った、一番新しい奴!》
てきぱきと支持を出すカ・イリは、カイロを愛おしそうに抱きしめる。同時に、ロゼッタのことも同じように抱きしめてくれた。
「また子離れが遅れそうだ」
「いいお母様じゃないですか」
後に、二人はカ・イリのことを褒め称えた。
視界の端に、逆さ吊りにされた男の姿が見えた。
《今来たばかりだったんだね》
《あいつが口を割るのが先か、遺跡に突撃する準備が先かってところだった。二人がオーディムに担がれてきたときは、心臓止まるかと思ったよ》
《むしろ、シュテサルの痺れ毒がまだ残っているかもしれませんし……》
オーディムと戦わなくてよかった、とまでは言わない。
これから先、何度も戦う機会が増えるかもしれない。今回は助けられたとしても、毎回こんな平和的な解決ができるとは限らないからだ。
《それで、シュテサルを捕まえたんですね》
《ああ。遺跡の前であんたたちが這いつくばってでも出てくるのを期待していたのか、油断していてね。とっ捕まえて吊るしてやった》
いつもながら、力でもって解決しなければならないことに、一切の協力ができないのは、ロゼッタもカイロも心苦しいことだった。二人とも親が親だけに、そちら側の才能があったらと思わないでもない。
《こいつのことはカエルム卿に委ねるとして、まずは二人の療養だね。お父さんが来るまで遺跡発掘はお預け。いいね?》
《はい》
二人は口をそろえて、母の言いつけに応える。
《ところで、いつまで手を握ってるつもりだい? もう離してもいいと思うけど、離したくなかった?》
その指摘に、二人は揃って顔を赤くする。けれど、手は離さない。むしろ、ぎゅっと握る。生きて帰ったということを、実感するように。
「母さん。父さんが来た時にも言うけど、僕も、こっちに定期的に戻ってくる」
「定期的に、か。帝国のお店、繁盛してるんだっけ?」
「うん。あそこを続けていきたい。それと――」
カイロの視線が、ロゼッタに向いてきた。その視線に肯き、カ・イリへ応える。
「その時は、私も一緒に居させてください。カイロさんと、一緒に」
帝国貴族の娘と、メイベリアン氏族長の息子が恋人になった。
その変化の大きさが理解できないカ・イリではない。
だが、そんなことは今の二人には関係ない。だから彼女も、母として告げる。
「おめでとう。いつだって歓迎するわ」
とびっきりの笑顔で、二人に応えた。
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