第四十四話「砂被り姫の告白」前編
終わりを迎える瞬間とは、どういう感覚なのだろうか。
メイベリアンの自然崇拝では、死とは森や山、木々との一体化であり、生とは全ての母たる女神メイベルの生み出した土地を守るためのものである、とされる。
より多くの土地を、森を守り、子孫へ受け継がせること。それこそがメイベリアンの誇りである。ただし、守るにも様々な手段があり、時には火を放って森を開き、古びた木々を肥料に変えて、新たな森を作り出すこともまた、森を守るとされる。
木は切られても燃やされても死なない。新たな芽を育て、人を育てることに使われるのなら、決して、最期は訪れない。
総じて、メイベリアンにとって死とは循環の一過程にすぎず、最期はない。
「私たち、まだ、生きています?」
「オーディム、君は、何を……?」
目の前に迫ったオーディムの単眼は、二人をじっと見つめた後、第一階層に続く扉を押し上げる。弱ったカイロたちには無理でも、オーディムには簡単だった。
新鮮な空気が第二階層へ向かって入り込み、痺れた肺を刺激する。
同時に、扉の上から落ちてきた砂ぼこりが、二人の頭に飛来する。
「ぶわっ!?」
「げっほっ! ごほっ……あいつ、わざと砂を撒いてから離れていったのか……」
腕が動かないため、払うこともできない。目に入ったものは涙で流れるに任せて、砂ぼこりが収まってから、周りを確認した。
「シュテサルは……いない?」
「きっと、外で僕らが出てくるのを見張っているはずだ。気を抜かないで」
そもそも、痺れた体ではまともに動けない。そんな二人の背負ったカバンを、二人ごと持ちあげたオーディムは、ゆっくりとした足取りで第一階層から、出入り口へ続く階段を登る。
攻撃する気配がない。むしろ、まるで神殿に落ちているゴミか何かを外へ捨てに行こうとしているかのようだ。
「オーディムは、神殿を元の状態に保とうとする者だから、僕らは異物と見なされたのか?」
「じゃあ、第一階層にオーディムがいなかったのは……」
「オーディムの発生より早く引き上げていただけなのか? それとも、第二階層以降じゃないとやはり出現しないだけなのか?」
実験したわけではないから、確証はない。ただ、オーディムは敵意を向ける者に対して、積極的な攻撃を仕掛けることは知られている。そして今、二人には逃げようと言う力も、気力も、反撃するような意識さえもない。
オーディムにとっては、道端に転がったゴミと変わらないのだ。
「な、なんか複雑な気分ですね……」
「でも、助かったわけなんだよね。遺跡の管理者たちによって」
オーディムは決して人類に敵対したいわけではない。遺跡を守り管理するために遺跡そのものが生み出した存在だというのが、研究者たちの結論だ。
むしろ考古学者にとっては、ありがたい存在ですらあった。
「幸福な未来は、まだ私たちの手から、離れていないんですね」
ふいに、先ほどまで交わしていた言葉が、二人の仲に蘇る。握った掌のぬくもりが少しずつ戻ってくる。
「改めて、いいですか。カイロさん」
「もちろん。一緒にいいかな?」
カイロの言葉に、ロゼッタは小さく頷く。そして呼吸を合わせ、オーディムが階段を上がり切りそうになった時、口をそろえて言葉にする。
――好きです。
静寂などないはずなのに、お互いの言葉ははっきりと耳に届いた。
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