第四十三話「砂被り姫の想い」後編
一緒にメイベリアン領に来てほしい。
それを、単なる発掘調査の付き添い――などと解釈するほど、ロゼッタは人心に疎いつもりはない。
たびたびハリエやらマドレーヌやらにからかわれてきたことだ。傍から見たらそう見えることも重々承知していた。
「わ、私は……あなたの助手で、従業員です……」
「うん。君が来てくれたおかげで、研究がどれだけはかどったことか」
「研究第一で、それがライフワークです」
「むしろ、同じライフワークを共有できるんだから、最良なんじゃないかな」
階段に寄りかかった体勢で、まともに手足も動かない。そんな中でも、カイロは二人の間に手を伸ばす。ロゼッタの手は、その上に重ねられた。
「私は、カエルムの家に、帰ります。私は、あなたの言葉も、帝国とメイベリアンの関係性のために、使おうとします」
「辺境伯の令嬢として、すごく立派な対応だと思うよ。そうやってちゃんと、言ってくれるのも、誠実だからこそ、さ」
家から離れようと、彼女の本質は変わらない。たとえフォンを失おうと、彼女は貴族だ。
「一緒に居ていいですか? 小さいころの、ロゼとカイロのように」
「こちらこそ、お願いします」
それでも、その心は幼子のころのように。
重なり合った手を、二人はぎゅっと握り合わせる。
「お店、どうしましょう」
「続けたい。僕はまだあそこで、君と一緒に研究をしていたい」
「同感です!」
足先の感覚が消えてくる。時間経過の感覚さえも失われた。
それでも、掌から伝わるぬくもりははっきりと感じ取れる。このまま動けなくなったのだとしても、言葉と思いは伝えた。
後悔したとしても、何も伝えられなかった後悔はない。
「もしも、幸福な未来が、辛い今を、あってよかったんだと、思わせてくれるなら……」
「こんな状況、へっちゃらだね」
だんだん動けなくなっていく体の内、もうはっきりしているのは、耳くらいだった。
その耳に、二人の起こす音以外の音が、どこからか届く。
「……誰かいるのか?」
「え?」
突然、カイロが階層の奥へ視線を飛ばす。体がうまく動かないため、首と目だけを動かす形になるが、ロゼッタもそれを追う。
同時に、ジャリ、ジャリと砂を踏む音がする。
「誰? まさか……」
暗闇の中で、白い単眼が光る。ゆらりと揺れながら迫りくるそれは、旧帝都やダ氏族の遺跡で見た覚えのある姿だ。
「……オーディム?」
「どうして、ここにはいないはずですよね……」
近づいてきたことで、発光石の光に照らされたそれは、やはりオーディムで間違いない。
ゆらりと揺れながら近づくものに、恐怖心を覚えはするものの、どうすることもできない。
逃げ出すことも、反撃することも叶わない二人は、身を寄せ合い、これから起こることに覚悟することしかできなかった。
「大丈夫。痛みはないらしいから」
「はい。その時は、一緒に……」
二人のいる階段へ向けて、異形の存在は腕を伸ばした。
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