第四十三話「砂被り姫の想い」前編
「発光石があるんです。これで、少しは周りが見えるはずです」
ロゼッタが取り出したのは、光を吸収して溜め込む石だ。割砕くことで光を放ち、火を使わずに周りが照らせるため、博物館や図書館で重宝される。
ぼんやりとした明かりが二人を照らし、足元に転がった毒花の塊を照らす。
カイロはそれを蹴飛ばすと、意外と狭いのか、壁に当たった。とたん、カイロはその場で膝をつく。第一階層に続く扉を開けられなかったように、毒花のせいで、体が痺れているようだ。
「カイロさん、こっちへ。少しでも、花から離れた場所に」
ロゼッタは彼に肩を貸し、階段に体を預ける。固く休むのには適していないが、光源の心もとない今、安全かつ高い場所はここしかない。
そこでようやく、落ち着くことができた。同時に、罪悪感が沸き起こる。
「また、巻き込んでしまいましたね……」
「前に会った時に、地の果てまで追いかけてでも、捕らえておくべきだったね」
謝罪の言葉に、カイロは気にするなとでもいうように、苦笑を返してきた。
もう何もしないだろう。もう大丈夫だろう。そう思った矢先に奴は来た。ここから生き残ったのなら、必ず捕まえて罪を償わせる。そう決意するが、今はどうやって生き残るかが問題だ。
毒を使った以上、二人が生き残れるかどうか、そのギリギリを楽しんでいるはずだ。おそらく遠くには行っていない。
「二人で絶対に、あの顔面、腫らしてやりましょう」
「ははっ、いいね。ついでに、君の背中を蹴った、倍の痛みを、与えてやろう……」
気丈に振る舞ってみせるが、体にしびれを感じる。あの毒花の放つ花粉か何かは、相当に強力なようだ。
それでもまだ、諦めるつもりはない。
ようやく、二人の夢の第一歩を踏み出せたのだから――。
「母さんからさ、父さんとメイベリアン領に戻るつもりはないかって、聞かれたんだ」
「お父様と……じゃあ、『ル・ビュー』は?」
「マドレーヌ様には悪いけれど、閉店かな? いや、戻ると決めたわけじゃないけど、父さんは博物館の代表として、カ氏族領へ派遣調査員として越境するって決めたんだって」
「離れていても、ずっとご夫婦なんですね」
「子どもが見ていて、恥ずかしいくらいにはね」
何気ない普段通りのような会話が、不安に押しつぶされそうな心を支える。
笑いに喉を震わせるたび、肺が痛む。けれど、その痛みが暗闇の中で、自らの存在を確かにする。
「いいですね。そういう、関係性……」
愛する人と、離れていても心が繋がっている。難しいけれど、理想的な心の在り方だ。
「ロゼッタさんも、一緒に来てくれないか?」
「へ?」
ふいに告げられた言葉に、思考が停止した。
しびれの痛みも忘れ、跳ね打つ心臓の音だけが体の中に響き渡る。
もし、今自分たちを照らす光が発光石の淡く心もとないものでなければ、顔を手で覆い隠していたことだろう。
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