表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/100

第四十二話「砂被り姫の後始末」後編



「シュテサル……!」

「参加者の中に、紛れ込んでいたのか」


 階段の上にいたのは、宮廷伯息であり、今やお尋ね者となったシュテサルだった。

 驚愕する二人の視線に、どこか恍惚とした笑みを浮かべる。


「さすがに四十人も労働者がいれば、一人くらい増えても気づかれないものだな」

「わざわざこんなところに来てまで、することが私を足蹴にすることですか!?」


 ロゼッタの問いかけに、シュテサルはゆっくりと息を吐いた。ランプに照らされた顔にしわが刻まれ、浮き上がった血管が溝を作る。


「そんなことで満足するわけないだろう! 馬鹿か貴様! お前のせいで俺が何を、どれだけ、どこまで失ったと思う!? 想像できるか? 俺の物だったはずの何もかもが急にお前の物ではないと告げられ、生活が一変し、下げたくもない頭を下げなくちゃならない毎日! 吐き気が止まらない!! 金を稼ぐために苦心するなど、不快の極み!!」


 唾を吐き出すほどに怒りを込めて、シュテサルが叫んでくる。これまで帝都の名のある貴族として暮らしてきた彼にとって、家を失うことは人生を失うことに等しい。

 これまでも騒動はいくつも起こしてきたのだろう。それも全て自分の有利なように解決できてきたはずだ。だが、今回はそれがうまくいかなかった。結果、取り返しのつかない事態にまで発展してしまった。


「婚約破棄はお互い納得の結果ですし、その後のあなたの醜態は、あなた自身の選択でしょう? それに、結果的に追放されて、自分で生きていくためにきちんと働いています。宮廷伯の地位とて、労働の対価でしょう?」

「働く意義が違う! 偉大なる帝国のためにあることと、平民どもと同じ場所に立つことは文字通り天地の差がある! 俺は! 次の!! 宮廷伯だったんだぞ!!!」

「その地位を、一時の感情でかなぐり捨てたのはあなたです」


 この状況でも、ロゼッタは決して挫けず、阿ることはない。敗北が国家の危機に直結する辺境伯の娘として育てられた気概は、追放されて数か月、一欠けらも失われていない。

 むしろ、反論されたシュテサルのほうが、威圧されていた。だが、自分が有利な立場にあると思えば、薄ら笑いを浮かべて、平静を保つ。


「だったら、その気高さでここから脱出するといい。ほら、これをやろう」


 そう言ったシュテサルは、何かを下に向けて放り投げる。拳大の、何か丸いもの。ころころと転がったそれは、煙を放ち、高い音を立てる。


「西側が帝国との戦争で使った毒花兵器があるそうでな。残った私財で、ようやく一つ買えたんだ。ゆっくり、苦しんでくれ」

「ま、待て!」

「後始末はオーディムにでも任せるとしよう」


 カイロが階段を駆け上がり、シュテサルを止めようとする。だが、扉は無惨にも閉じられていく。ランプは階段から落ちた時に壊れてしまった。下階層に通じる扉が閉じられると、暗闇に包み込まれる。

 扉を押し上げようとカイロは踏ん張るが、先ほど開いたはずの扉があかない。

 上に何か乗っているのか。それとも先ほど言った毒花とやらのせいか。


「母さんたちが、助けに来てくれるまで、耐えられるかな……」


 カイロの言葉に、ロゼッタは答えられなかった。




少しでも気に入っていただけたら幸いです。




評価、感想、ブックマーク、どんなものでも大歓迎ですので、お気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ