第四十一話「砂被り姫の再出発」前編
和平協定の締結から、一か月。
国内は新たな同胞の誕生を祝う雰囲気に流されるまま、様々な催しが各地で行われていた。
尤も、メイベリアンというのがどんな者で、どこに住んでいるのかさえも知らない。ただ自分たちが騒げる要因が一つ増えた、という程度に過ぎない。
一方で『ル・ビュー』では、新たな発掘品が運び込まれる機会が増えていた。
「……あのですね、メイベリアン系の遺物は、内地で見つかるはずないんです。あなたの言う遺跡は確かに歴史が古く、交流のあった可能性はあります。でもそこ、そもそもとっくに調べ尽くされた遺跡なんです。しかも、すでに封鎖もしてある場所ですよね。なら、今すぐ警備隊に不法侵入で通報されるのがいいか、メイベリアン遺物と偽った金品を売りさばこうとした詐欺師として通報されるのがいいか、決めてください」
メイベリアンとの和平協定締結後、国内でこのような詐欺師が増えた。
何せ詳細のよくわからない隣人が、何でも金細工を大量に帝国に献上したと言う。皇帝は彼らを対等な友として歓迎し、東方はこれから始まる貿易の機運に熱を帯びていた。
その中でこうした詐欺や遺跡への不法侵入が増えるのは、ある意味仕方ないことだろう。
「ロゼッタさん、店先にいた者たちも捕まえておきましたよ」
「わぁ、さすがハリエさん! カイロさん、これ、盗品でしたか?」
「いや。リストに照らし合わせてみたけど、被害報告があるものじゃなかった。詐欺師ではあるけど盗人ではないみたいだ」
ハリエは古代機人、常人よりも力持ちであり、頑丈だ。逃げようとする詐欺師たちの腕をひねり上げ、手早く縛り上げてしまった。おかげでカイロもロゼッタも、何の心配なく作業に手中できる。
「メイベリアン研究者が数少ないから、価値のわかる人間が私たちしかいない……だったらそこに偽物を持ってくるリスクを考えないんですかね」
「研究が進んでいない分野だと高を括ったんだろう。そろそろ少なくなってほしいけど」
ハリエに連れていかれた詐欺師たちを見送る二人は、目の前に残った金細工に視線を落とす。
「芸需品としての価値はあるよ。でもそれは素材が金製だからというだけで、どこかの名工が作ったわけでもなければ、特別な出土品ってわけでもない」
「とりあえずこれは返してあげないとですね」
鑑定品を全て袋に詰め直していく。
その中で、カイロはぽつりと呟いた。
「皆がメイベリアンに関心を持ってくれたのは嬉しいけれど、求めた方向じゃなかったね」
「花や草木に興味を持つきっかけが、きれいだからという理由だけはありません。どれが薬に、毒になるのか。そう言った視点から興味を持つ人だっているんです。まだあきらめちゃだめですよ」
苦笑を浮かべるロゼッタに、カイロはその通りだと頷く。しかし、目の前の金細工を見つめる目は若干疲れ気味であった。
「早く父さんからの連絡が来るといいんだけど」
そう呟いたとき、店の扉が叩かれる。わざわざノックするのは、客ではない。扉を開けて立っていたのは、郵便物の配達員だ。
「帝都国立博物館より、骨董品店『ル・ビュー』店主宛てにお手紙です」
手紙を受け取ったカイロは、配達員へのお礼もそこそこに、店の中へ駆け戻る。
彼らの本懐を果たす時が来たのだ。
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