第四十話「砂被り姫の入城」後編
ズン、ズン、とクマが帝都の大通りを闊歩する。
ずらりと並んだ兵士たちは、目の前を通り過ぎる異郷の戦士たちを、冷や汗を垂らしながら見守っていた。
いつ、この戦士たちが気分を変えて襲い掛かってくるかもしれない――。
「心配性なんですよね。普段帝都に他の国の軍隊がいることはありませんし、武装した集団がいることだって、早々ありません」
集団の最後尾、メイベリアンたちを見守るようにウマを歩かせるロゼッタは、轡を並べるカイロにそう告げた。
「傭兵とか古代迷宮の探索者とかは、帝都に寄る理由はないからね」
「開拓先がない場所に、開拓者は必要ないですから」
帝都近辺はすでに開拓がほぼほぼ完了し、帝都周辺に存在する古代迷宮は発掘しきっている。ただ東西の中継点であり大規模な食糧生産地の中心にある。
帝国を維持し発展させていくにはよい場所だが、開拓者にはあまり魅力のない場所だ。
「だから少し帝都の兵は緩んでいるんです。ちょうどいい機会ですから、気を引き締めてもらいましょう」
「にこやかに自分たちの首都を危険に晒すなぁ……」
とはいっても、今回帝都に来たのは和平の使者だ。武器こそ装着したままだが、こうして完全武装状態で歩いているのも、お互いに敵対するつもりはないと言うことの証明だ。
帝国西側諸国も、東側と連携して帝国を強襲するなどということは考えないだろう。
それを最初に提唱したのが、北メイベリアンだとは、知らぬ方がいい。
「城に着けば、あとは陛下たちの仕事だ。通訳の仕事は、まだ残っているけど」
「そういえば、シャルル閣下も今回の式典には参加されるそうですね」
「あの人も東に行ったり西に行ったり大変だな……出迎えまで担当されて」
城門の前に立つ、金髪の美丈夫に気づいた。
以前会った時とは違い、完全武装の兵士を率いるその姿は、まさしく天下の大将軍。
城門の前に辿り着いたカ・イリは、自らクマの上から降りてシャルルの前に立つ。
「私は帝国西方統括元帥、シャルル・メルウィングである。城門の前に立ちし東方の隣人よ。名を名乗られたし」
「我が名はカ・イリ。西メイベリアンカ氏族を束ねるクマの戦士である」
「よくぞ参られたカ・イリ殿! 皇帝陛下より貴公の来訪を心より歓迎するとのこと。獣たちとともに、中へ参られよ!」
シャルルの言葉に従い、カ・イリたちが入城する。本来ならウマに乗って入城することすら稀な場所に、クマやイノシシが入っていく。兵士たちは怪訝な目で見ているが、シャルルが率いている以上文句も言えない。
メイベリアンのために中庭が解放され、獣たちはそこで日光の下過ごしている。
調印式も結局のところ出席するのはカ・イリを含めた数名だけだ。残ったほとんどの戦士たちは、それが終わるまでここで過ごすことになる。
「あとは、母さんたちの仕事だ」
この日、メイベリアンと帝国の間に和平協定が結ばれた。
それは森と川に阻まれていた東方貿易の開始の合図であり、新たな文化・文明の発展の兆しである。
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