第四十一話「砂被り姫の再出発」後編
翌日、すでにアミーポーシュ領を離れたロゼッタとカイロは、カエルム伯邸にいた。
「そうか。マドレーヌ殿にももう知らせてあるのか。あいかわらず行動が早いと言うか、返事くらい待つ余裕を持ってほしいと言うか……」
「すいません。でも、やはり始めるなら早い方がいいかと」
アレクにメイベリアン側の遺跡へ向かうことと、現地で集合するよう言われていた旨を伝えた。カエルム伯には派遣される学者団の逗留場所を確保の要請も出ている。
カイロたちの到着と前後して、国立博物館からの手紙が、彼の下にも届いていた。
「その派遣のことでな、ロゼッタ。お前は、カエルムの代表として向かうつもりはないか?」
「え……?」
「宮廷伯との関係から、誰が責を負わねばならなかった時とは違い、宮廷伯息がいなくなった。つまり、奴に対して誰かが責任を取り続ける必要はなくなったのだ」
「つまり、ロゼッタさんを追放し続ける理由が亡くなったと」
「そうだ。そして今回のメイベリアンとの和平協定締結の立役者はお前だ。都合のいい話だが、国としてもそのような人物を市井の人間に止めておくことは体裁が悪い」
貴族の子息であろうと、時に皇太子であろうと、国の威信や体裁というものには振り回されるものだ。そういった意味では一般人よりよっぽど束縛された人生だ。
そこから解放されたロゼッタが、あれほど無鉄砲に、自由にメイベリアンの土地へ向かうことを決意できたのは、しがらみが何もなかったからだ。
「私が、またカエルムに……」
「カイロくんも正直動きすぎた。国内のメイベリアンと思われる者たちへの監視が、少しずつ始まっている。外交において友好を結んだ相手の裏切りほど怖いものはない。ましてそれが相応の武力を持っているとなれば、警戒するのは当然だ」
「ちょっと示威行為が過ぎましたかね……」
自分たちの国の東に何がいるのか。それが今回明らかになった。今まで辺境伯が抑え込んでいた者が、戦いこそしないが帝都にまでやってきた。警戒しないほうがどうかしている。
今はアミーポーシュ領で保護されているが、マドレーヌもまた帝国貴族。必要があれば、メイベリアン側を警戒することになる。
「でも、ロゼッタさんが家に戻れるなら、いいことじゃないですか」
「ありがとうございます。でも……」
ロゼッタの視線はカイロの方へ向く。もし自分がカエルム家に戻ったら――その考えを察したのか、アレクが言葉を続ける。
「変わるのはあくまで名義だ。今の場所に居たければ、居ればいい」
優しげな笑みを浮かべるアレクに、ロゼッタは少し顔を赤らめる。
「私も、研究は続けたいですし『ル・ビュー』での生活も充実していますから」
「それがいい。一度は離れた場所だ。お前が責任を負うべきものは何一つない。むしろお前がうちを利用するくらい、許されていいことだ」
騒動の要因となったのは、自分の浅はかさが原因だ。それを自覚しているからこそ、ロゼッタには自由でいてほしかった。
「メイベリアン領へ行く手配は私が用意しておこう。遺跡発掘、楽しんでくるといい」
翌日、ロゼッタとカイロはメイベリアン領へ向けて再び出発した。
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