表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/100

第三十八話「砂被り姫の救援」前編



 国境付近の村で交戦状態に入ったロゼッタは、騎士たちに連れられて、防戦状態に陥った。

 シュテサルが連れてきた傭兵たちは、ほとんどが帝国の西側から来た者たちで、メイベリアンの血筋など欠片も入っていないだろう。

 それでも長年戦争を経験し、その身に傷を刻んできた者たちであることに変わりはない。


「さっさとあの小娘を捕まえろ! 十人程度の騎士に何を手間取っている!」

「戦争を知らねぇ坊主は黙ってろ! 忘れなんなよ、辺境伯の娘を無傷で捕まえりゃあ追加報酬、用意しとけ」


 騎士たちの壁の向こうから聞こえる会話に、馬車の中でロゼッタは臍を噛む。この愚か者と、自分のせいで多く者が危険に晒されている。

 そう考えると、申し訳なさで居た堪れなくなる。

 騎士たちの防御陣は、決して厚くはない。敵の数も多い。近づきつつある刃を防ぐ手立ては、彼女にはない。


「みんな伏せて!」

「報酬はいただいた!」


 馬車が大きく揺れる。飛びついた誰かが、馬車の扉を叩き、刃を突き立てる。

 調査員の一人の頭があった場所を、刃が通り抜ける。ロゼッタがとっさに引っ張っていなければ、そのまま一人の命を奪っていただろう。

 扉を開き、その目にロゼッタを捉えた。


「助けて、カイロさん……!」


 その腕が、ロゼッタへ向けて伸ばされて――。

 ――止まった。


 ロゼッタの目の前に迫りつつあった手が、ゆっくり離れていく。

 馬車の外へと勝手に放り出され、そのまま地面へ落ちて遠退いていった。助かったのだ、そう思うのも束の間。どうして、という疑問に、ロゼッタは窓の外を見た。


「お嬢様、頭を下げないと、危ないですぞ!」


 同乗者の言葉を無視して窓の外を見れば、土煙を上げて近づく影に気づく。ウマ、だけではない。シカ、イノシシに乗った者もいる。

 その髪色は、どれも紫。革製の鎧、目元を覆う木製の仮面と、金の装飾。

 先頭を走るクマの上にいるのは、誇り高きカ氏族の長。


《メイベルの子らよ、カ氏族の名に懸けて、我らの友を救うのだ!》


 雄叫びが戦場を支配する。メイベリアンの戦士たちは誰よりも早く平原を駆け抜け、悪鬼どもに飛び掛かる。

 騎士たちが唖然とする中で、シュテサルの傭兵たちは襲われ、倒れていく。

 さらに一部の戦士たちは防戦する村へと向かっていく。


「どうして、メイベリアンの人たちが、こちらに……?」

「うちの息子が、助けに生きたいと言ってね。式典前の準備運動さ」


 停止した馬車に、クマに乗ったカ・イリが並ぶ。仮面を外した女族長は、肩をすくめた。


「カ氏族長イリ! どうしてあなたがここに!?」

「今言ったでしょう。それより、ケガはない? あの子、道中もう心配で心配で、倒れっちまうんじゃないかと思ったよ」

「母さん! 余計なことはいいから……」


 母の言葉を遮ったカイロの顔は、朱く染まっていた。その顔が、ロゼッタを見つけたことで綻ぶ。旧帝都で魅せたような、心から安堵した時のものだ。


「よかった、間に合って。また、僕自身の手では、ないけれど……」

「でも、皆さんを連れてきてくれたんですよね」


 嬉しそうな顔をしながら、どこか悔しそうに頷いた。できることなら、自分が颯爽と助けたかったのかもしれない。

 尤も、そんな姿は、単なる骨董品店の店長で、考古学者である彼には、似合っていないのだろうけれど。


「ありがとうございます、カイロさん」


 助けに来てくれた。それだけで、ロゼッタには嬉しくてたまらなかった。

 そして間もなく、騒乱者たちは鎮圧された。

 紫の髪の勇者たちは、誇らしげに雄叫びを上げることもなく、粛々と立ち去っていく。

 彼女らが目指すべきは、帝都であった。




少しでも気に入っていただけたら幸いです。




評価、感想、ブックマーク、どんなものでも大歓迎ですので、お気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ