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第三十七話「砂被り姫の闘争」後編



 カエルム領からメイベリアン側の森へと向かったカイロは、森の入り口に並ぶ同族の姿を見つけた。

 紫の髪を靡かせる戦士たちがウマに、中にはシカやクマ、イノシシに乗った者までいる。

 メイベリアンは騎乗物を選ばない。


「母さんたちは、それで本当に式典に出るつもり?」

「なんだ? 何か変か?」


 誇らしげに自身の氏族の象徴であるクマの上に立っている母、カ・イリ。

 ふと、カイロは自分の知り合いは何とも気の強い女性が多いものだと、頭をよぎる。


《いや、むしろメイベルの子ららしくていいかな。みんなもよく似合ってるよ》


 この中で、動物の毛皮を被っているのはカ・イリだけだ。彼女だけが、象徴のクマの毛皮をマントのようにして羽織るのだ。

 カイロの言葉に、戦士たちは鎧やつけている仮面を叩いて喜びの音を鳴らす。


「それで、帝都に向かえばいいのか? それともカエルムの屋敷に行けばいいのかい」

「皆がその恰好でいきなり帝都に行ったら大事件だよ。カエルム伯のお屋敷に行って、そこで調印式と歓迎式典、あと交易商の人たちがいるから、そことの会談があって。あ、あとアミーポーシュ領っていう僕がお世話になっている男爵夫人の領地でも歓迎会があって」

「長い長い。というか多くない?」

「これでも関係なさそうな貴族とか商人の誘いは断ったんだ。森を長く離れたくないだろうし、ちょっと今厄介なことになってるし」

「ああ、国境付近に、私たちの偽物が現れたって話かい?」

「知ってるの!?」


 突然の母の答えに驚愕する。確かに帝国の各地には、知らず知らずのうちにメイベリアンは潜んでいる。髪の色を黒く染め、メイベリアンの言葉を話さなければ、帝国人に溶け込むのは簡単だ。

 その逆に、メイベリアンの言葉の研究はあまり進んでいないから、帝国人が森に溶け込むのは難しい。


「そっか。なら急いでいこう。途中でシュテサルたちが襲い掛かってきても困るし」

「私なら、この機を逃さないね」


 母の言葉にカイロは短く声を上げる。どういうことか、問いかける目線に彼女は答える。


「敵戦力の分散は勝利の基本だ。それを相手が自らやってくれる。しかも自分の力量を甘く見てくれている。これ以上ない好機じゃないか」

「じゃあ、シュテサル……ロゼッタさんの敵は――」

「援軍必要になる、だろうね」

「急いでいかなくちゃ!」


 カイロの言葉にカ・イリは大きく頷く。振り向いたカイロに、メイベリアンたちの視線が集まった。


「お前の言葉で伝えな。何をしてほしい、誰のために戦いたいか。皆に伝えな」


 それは、族長からの号令にも似ていた。本来ならば氏族長以外が戦士団を率いることは許されない。だが、望みある者ならば、戦友たちは力を貸してくれるだろう。


《帝国の内地に君たちのフリをしたゴロツキどもがいる。メイベルの子らの名誉を穢そうとする悪鬼どもだ。君たちの力を、メイベルの子らと帝国の子らのために貸してほしい!》


 川を挟んだ向こう側。本来なら武器を持ったまま超えるはずのない境界線に、カ・イリたちは立っている。


《ロゼッタさんも、その諍いに巻き込まれている。どうか彼女のために……僕は彼女を助けたいんだ。だから力を貸してほしい!》


 ここを超えて起こるのは、真なる戦争だけだ。

 今までであれば。


《我が息子の声に応え、我らメイベルの子らは、友の助けに行くぞ! 森の隣人、草原の民のため、皆の者、走れ!》


 カ・イリの言葉に合わせて、動物たちが鳴き声を上げ、戦士たちは雄叫びを上げる。

 本来、クマもイノシシもシカも、人が乗るには適していない。移動速度だってウマに劣る。

 ――はずなのに。


「なんで僕より早いんだ……」


 走り出した戦士たちは、風のように川を超え、草原をひた走る。

 一人の青年の想いを、形にするために。




少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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