第三十七話「砂被り姫の闘争」前編
国境の村――カエルム伯領内に存在する国境防衛のための砦に、必要な食料や物資を卸すために築かれた村だ。
むろん砦自体が城塞都市としても機能しているが、全てを賄うことができるわけではない。
その村について、ロゼッタは馬車に揺られながら地図を見る。
「今回襲撃された村は、砦からの距離が近く、普通の盗賊なら襲うようなことはしません。というより、そもそも国境線の内側にあるんですから、国境の外からやってきた人が、直接狙うことなんてできない場所です」
「旦那様は、やはり宮廷伯息の仕業であると、考えておられるようです」
調査員の言葉に、ロゼッタは肯く。
「当然の帰結ですね。だからこその、この三十名の護衛騎士なわけですし」
「どうぞご安心を。野盗の十や二十、軽く片付けて御覧に入れましょう!」
「頼もしい限りです。……ここ、メイベリアンの遺跡が近いですね」
これだけ砦が近いのなら、すでに村は救助された後であろう。もしかしたら、シュテサルの身柄もすでに確保できている可能性だってある。
「お嬢様、見えてきました」
「もう、私はすでにカエルム家の人間ではないのですけれど……どういうことです?」
「まだ、戦いが続いておるようです。馬車はここで停止いたします!」
「騎士団の皆さん! すぐに援軍に行ってください。今なら野盗たちの横を攻撃できるはずです!」
ロゼッタの指示に、三十騎の内二十騎が先行する。
連絡が届くまで六時間、ロゼッタたちが駆けつけるまで四時間。合計十時間が経っていると言うのに決着がついていない。
敵が相当強いのか、それとも数が多いのか。嫌な予感がロゼッタの中に渦巻いてくる。
「お嬢様、あの野盗どもの恰好は一体……」
調査員が渡してきた望遠鏡を覗くと、城壁を打ち砕かんとする敵兵の姿がよく見える。
イノシシの毛皮か、クマの毛皮か、しっかりと造られた鎧の上に、不相応に被っている。
まるで蛮族らしい雰囲気を出したいがためのものにしか見えない。
「メイベリアンの恰好でないことはまず間違いないです。メイベリアンに毛皮装飾の文化はありますが、それをするのは族長だけです。それに、髪の色が違います」
望遠鏡の先に見える者たちは、大半が黒い髪をしている。帝国人の大半は黒、もしくは同系統の青や茶色。そして西に行けば行くほど黒の色が濃くなっていく。
つまり彼らは、帝国東側の人間ではなく、西側の人間だ。メイベリアンと出会い、直接言葉を交わしたからこそ知っている、彼らの特徴だ。
「何がメイベリアン……彼らは決して蛮族なんかじゃない! あんな、人の皮を被った暴力なんかじゃない!」
怒りに拳を震わすロゼッタだが、その視線は敵の奇怪な動きを捕らえる。
一部の集団が、迫りくる騎士団に気づいたらしい。
しかし、その矛先は騎士団よりもむしろ――。
「さすがは勇敢で誉れ高い辺境伯の娘。自ら戦場へ来てくださると思っていたさ。ここはメイベリアンの遺跡も近いこと出しなぁ」
背後から近づく馬の足音。その上に乗った顔にロゼッタは顔をしかめる。
「シュテサル卿……やはり!」
蛮族風の恰好に身を包んだ傭兵を率いたシュテサルの姿が、そこにあった。
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