第三十六話「砂被り姫の危機」後編
バタバタと、執務室の向こう側から音がする。
何事かと察知したカイロが扉を開けると、ノックしかけた侍従が、勢い余って部屋の中へ転がり込んできた。
「し、失礼しました! 緊急の伝令にて、無礼ながらお伝えいたします!」
侍従曰く、国境の村が襲撃され、現在応戦中ということだ。村から逃げ出した通信使が代わる代わる伝令を伝え、ようやく辺境伯の下に連絡が来た。
襲撃は連絡が今日の午前、日が昇った時間帯。現在は昼前なので、おおよそ五、六時間ほど前か。
「襲撃者の正体は?」
「恰好、武器共に帝国の者とは思えないもので、その――」
「なんだ、誰だというのだ」
「……メイベリアンではないかと、逃げてきた通信使は話していたそうです」
侍従の言葉に、アレクは眉間にしわを寄せた。
メイベリアンの恰好――などと言われて正確に答えられるのは、この国にカイロとロゼッタの二人しかいないだろう。それ以外は戦場で見た戦装束か、鎧姿、もしくは伝え聞く想像でしかない。
「憶測を立てるなと言っても、無理からぬことだな」
「それで、その村は今!?」
かぶりを振るアレク。ロゼッタは侍従をさらに問いただす。
「村の門を閉じ、防御に徹していることでしょうし、他の村にも伝文は伝わっているはず。国境の砦も近いので、二時間持ちこたえれば救援が来ているはずの距離です。おそらく、今はもう無事であるかと」
その言葉に、ロゼッタはほっとする。
救援を派遣はするが、無事である可能性が高いなら、それに越したことはない。
「国境付近……襲撃者が誰であるか、考えたくもない話だ」
「お父様、それよりも騎士団への通達と、現地の調査に、私が!」
「確実な情報が欲しい。頼めるか」
「はい。カイロさん、お父様のことお願いしますね」
それから十分ほどの準備を経て、ロゼッタは出発した。彼女の他に調査員を三名、アレクの私兵である騎士団三十名が走り出す。
彼らを見送ったカイロは、メイベリアンの土地へ向かう準備を始めた。
「まもなく母さんも動き出すかと思います。狙うのなら、このタイミングでしょう」
「メイベリアンへの警告を、頼めるか。カイロくん」
この場にいた誰もが、今回の騒ぎは単なる野盗の仕業とは思っていない。この状況で騒動を起こして得をする人物がいる以上、確証はなくても確信だけは持てる。
「だが本当に護衛はなくていいのか? ロゼッタもそうだが、君も奴と因縁があると聞く」
「森まで馬の脚なら止まらずに辿り着けますし、森には入れれば襲われる心配もありません。むしろ、心配なのはロゼッタ――娘さんのほうです」
カイロの言葉に、アレクは肩をすくめる。
「お転婆というか、退くことを知らん娘だ。できうる限り助けてやってくれ」
「もちろん、最初からそのつもりですから」
ずっと昔、約束した少女のために、カイロは故郷の仲間の下へ駆け出した。
彼女に迫る悪意を、打ち破るために。
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