第三十三話「砂被り姫の氏族会議④」後編
『メイベリアン・帝国共通起源説』
帝国人の宗教観、血筋、文化。かねてよりメイベリアンとの共通性を唱える学説は存在した。
もしもこれが海や、万年雪が降り注ぎ呼吸すらままならなくなるような山脈を隔てた土地の話であったのなら、一笑に付されたことだろう。
だが、帝国とメイベリアンを遮るのは、年中緑に覆われた山と、幅は広いが底の浅い川だけだ。むしろ文化的、血統的交流がないと言い切る方がおかしい。
《帝国の国章と、メイベルの子らの遺跡で発見される遺跡には、同じ『翼ある太陽』というモチーフを使用しているという類似点があります》
《帝国は太陽信仰を中心とする多神教国家で、山岳信仰と自然崇拝の僕らとは違うもののように思えますが、帝国側の起源は自然崇拝にあり、多神教はその擬人化にすぎません》
つまり、まったく違うように見える宗教も、元を辿れば同じ自然を敬う者だと言うこと。
各地の宗教にも、同じ神を解釈の違いから、それぞれの地域での呼び方の違いから、別の神のように扱うものもある。それがきっかけで争いに発展することもあるが、
《きっかけは、旧帝国の没落か、新帝国の発生か、それともメイベルの子ら側に何か起きたのか。そこまでは判別できません。ですか、決して生まれた時からの敵ではないんです》
それこそが最も重要だ。決して先祖たちが帝国との戦いを望んでいたわけではない。この杯の台座に、『翼ある太陽』を掲げた絵を残しているのだ。この地下墳墓を作った者たちは、少なくとも、帝国人――当時なんと呼ばれていたかはわからないが――と友好的だった。
《帝国と戦うことが先祖の望みであったと言うのなら、本当の願いは、平和です! 同じものを奉ることはできなくとも、争わない道を選ぶことはできるはずです!》
精神性が同じならば、ただ仲良くなりたいと思えるのなら、生まれや育ちは違っても、友情を、友好を、愛を、育むことはできる。
《……帝国人を夫に迎えた族長に、そこから生まれた考古学者。その二人を率いたのが、長年我らメイベルの子らを押し止めてきたカエルムの娘か。どういう組み合わせなんだ、まったく》
呆れたように肩をすくめるダ・ニディは、台座に描かれた絵を指で触れる。
《山の恵みを欲するならば、大地に還りし者の声に耳を傾けよ》
それはダ氏族の掟。山で暮らし、地下墳墓を掘った時に定められた誓いだ。
《先祖の願いを、ダ氏族長ニディが聞き届けた! 我ら山の民は太陽に照らされたこの山の恵みを受ける者ならば、同じ太陽を信ずる平野の民は兄弟である! 兄弟の間に喧嘩はあれど、血を流すことは許されぬ。よって、ラ氏族長オウ、カ氏族長イリに、此度の出撃案撤回の承認を願う》
《ラ氏族長オウ、先祖に従おう》
《カ氏族長イリ、我らの母に誓って》
地下墳墓、古代迷宮と化していても、そこが先祖の眠る場所であることに変わりはない。ここでの誓いは、先祖との誓いでもある。
メイベリアンから帝国への和平締結への方針転換が、三氏族によって承認されたのだ。
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