第三十三話「砂被り姫の氏族会議④」前編
《なぜ、あの嬢ちゃんはあんなことした》
部屋の入口を守る位置に立つダ・ニディは、隣のカ・イリに問いかけた。
ラ・オウは《我も掃除する》と言ってロゼッタ立ちを手伝いに行った。なので、若者たちのことを気にせず、ダ・ニディは問いかけることができた。
《ロゼちゃんはね、イルの幼馴染なんだ》
《あ奴が帝国に行ってからのか?》
《正確には、うちの夫がたびたび帝国側に訪問していた時から。帝国に渡ってからは、十数年ぶりの偶然の再開を果たして、今度はここまでやってきたのさ》
ダ氏族領までの道すがら、息子のこれまでを聞き違った母の尋問は、青年の心の内を根掘り葉掘りほじくり出した。
《絵物語でも見せられている気分だろうな。そりゃ》
《だからこそ、ロゼちゃんは、私らメイベルの子らのことを、本気で考えている。自分の家族や友人のことも本気だから、このダ氏族領まではるばるやってきたのさ》
それほどの想いを込めて踏み出した一歩が、ダ・ニディを凶刃から救ったのだ。
先ほど彼女の頭を撫でた手を、ダ・ニディはじっと見つめる。違う土地で生まれども、人を撫でる気持ちは変わらぬ。幼い、まだメイベルの戦士として認められぬ齢の子だ。
《面白い者がいるのだな。帝国は》
《あんたはメイベルの子らの未来を考えて戦を起こそうっていうんだろうけれど、あの子も同じ、それ以上さ。帝国とメイベルの子ら、その全てのために、戦を止めたがってる》
《此度の件を理由に戦をやめろと? それではメイベルの戦士は納得せんぞ》
《なら、ご先祖様のご意見を聞いてみることだね》
カ・イリの言葉に首を傾げるダ・ニディは、突然自分を呼ぶ声に振り向く。
《見てください! ここ、ダ氏族長、早く!》
ロゼッタが指差したのは、儀式に使う杯ではなく、その台座だ。ダ・ニディは何を言いたいのかわからず首を傾げると、カイロがそこに捕捉をいれる。
《僕たちが探していたのは、メイベルの子らと、帝国人の関係性を証明できるものです》
《そんなもの、戦ってきた戦場と武器が知っている。今更何を探そうっていうんだ》
小さな刷毛で台座を撫でると、そこには太陽を掲げる四人の絵が現れる。
儀式で重要なのは杯だ。それ以外のことは気にしたことがなかったのであろう。ダ・ニディも初めて知ったようで、食い入るように見つめる。
《こやつらが掲げるこの太陽、どっかで見た覚えが……?》
《帝国の国章です。もっとも、こちらは太陽に竜が巻きついていますが》
ロゼッタが広げたのは、帝国の旗。正式な使いとして来たことを証明するための旗に、同じ『翼ある太陽』が描かれている。
《描かれているのは、右からメイベルの子ら。ライオン、オオカミ、クマを従えた族長です。これはラ、ダ、カ、三氏族を示しています》
《そして一番左には蛇を従えた者がいます。これは、翼のない竜――つまり帝国人を示しているんです》
メイベリアン三氏族と帝国人の、異なる四者が同じものを掲げている。
並び順も、大陸の東から西に向かって、右から並んでいる。この遺跡が最低でも旧帝国時代まで遡れるのなら、その並びの意図するところは明らかだ。
「これが、私たちの探していた、メイベリアン・帝国共通起源説の証です」
《これが、僕たちの探していた、山岳の民と平原の民が兄弟である証です》
ロゼッタとカイロ、二人の言葉が族長たちそれぞれの耳に飛び込んだ。
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