表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/100

第二十九話「砂被り姫の越境」前編



 ロゼッタとカイロの言葉を、ティーベを膝に乗せたカ・イリは、真剣に聞いていた。

 ティーベ――チ・オベを同席させた理由をカイロたちは聞かなかったが、その必要があると彼女が判断したのだろう。


「じゃあ、本気でダ氏族を止めに行ってくるんだね」

「僕の気持ちはここに来た時と変わらない。帝国とは戦わせない。戦わなきゃ守れない安全はある。それでも、血の流れない方法がやっぱり一番いいんだ」

「招待は受けているんだ。お前は問題ないだろう。けど、ロゼッタお嬢さんは残りなさい。いくらダ氏族のバカ面どもに理性が残っていても、危ないものは危ない」


 カ・イリの視線がロゼッタに向く。息子については了承できた。だが、その友人――相棒が危険に晒されるとなれば、彼女は親として黙っているわけにはいかない。

 息子の――本人たちは否定するだろうが――大切な人を、失わせるわけにはいかない。


「それは、一人の帝国人として、一人のメイベリアン研究者としても、譲れません」


 何より、カ・イリ自身、存外この少女を気に入っていた。

 気が強く、物事にまっすぐに向き合うその性分は、好ましい。息子を託すなら、こんな人がいいとカ・イリは思う。

 ゆえに危険に近づかせるのを戸惑ってしまう。


「お前さんに何かあれば、カエルム卿は黙っていまい。そうなれば、関係修復は絶望的だ」

「ならばこそ、帝国が本気だということを、示すべきです。今の私には何の権限も、資格もありませんけれど、平和を願う帝国人もいるのだと、ダ氏族に伝えないと!」


 もしもカイロだけで交渉に向かえば、それはあくまでカ氏族とダ氏族の対立になる。ラ氏族がどちらに付くかが重要になるだろう。

 けれど、そこに帝国の代表がいれば。たとえカエルムの名を利用してでも、説得ができれば。


「譲る気はないようだね」

「はい。何より、カイロさん一人を矢面に立たせるわけにはいきませんから。ね?」

「君はそこらへんの傭兵や騎士よりずっと勇敢で、無鉄砲だよ」


 少し呆れ気味なカイロだが、嬉しさがにじみ出ている。

 目を細めたカ・イリは、ポンと膝を叩く。


「わかった。なら私も同行する。それがロゼッタさんをダ氏族の下に連れていく条件だ」

「母さんが集落を離れていいのか」

「カエルム卿が境界を越えてくることはない。実際、ラ氏族の集落に行ったり、結構ここを離れることは多いんだよ」


 そう言ってカ・イリは戸棚から紙と筆を手に取る。

 何かをしたためると、ティーベに持たせて外に行かせる。


「カルトゥーシュを作るのか。ラ氏族への伝言?」

「今回のことは山向こうにも伝える。ダ氏族とは反対の道を行くと、正式に表明しよう」

「ありがとう、母さん」

「本当に、ありがとうございます!」


 頭を下げるカイロに合わせ、ロゼッタも頭を下げる。


「お礼はちゃんと、和平交渉の開始が決定してからにしなさい。さ、準備よ!」

「はい!」


 カ・イリの言葉に勢いよく答えた二人は立ち上がる。

 ダ氏族の集落へ向けて、翌日三人は集落を立った。




少しでも気に入っていただけたら幸いです。




評価、感想、ブックマーク、どんなものでも大歓迎ですので、お気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ