第二十八話「砂被り姫の暗中模索」後編
帝国の国章と同じデザインの紋様を、メイベリアンが掲げている。
それが意味するところに考えが至った時、ロゼッタは口角を吊り上げた。
「これですよ! 私たちが探していたもの、砦跡の水源信仰の遺跡は、祖先崇拝とは違ったから刻まれていなかった!」
「宗教施設でのみ使われる紋章であるのだとしたら、なおさら特別な意味があるはずだ」
「同一の象徴を信仰していたのなら、少なくとも」
「帝国人とカ氏族は、同じ文化を共有していた」
大陸の各地で散見される神話や逸話、英雄譚には、ある程度の同一性が見られる。それは個々に発生した寓話や創作物の場合もあるが、伝承や噂の不正確な伝達が齎した、同一起源の昔話、という例も多い。
シンボルや建築様式、文化、作法、そう言ったものにも、異なる地域でありながら似通ったものになるのは、人々の移動と伝達が関与している。
「むろん、それで全てを片づけることはできないし、むしろどこかに唯一の起源が存在するっていう考えは危険だと思う。でも、二つの異なる種族で交流があったことを、否定する理由にもならない」
「カイロさんたちのご先祖様が、ちゃんと残してくれたから、今私たちはそれを発見できた。本当に、ありがとうございます」
目の前に座るミイラはもちろん微動だにしない。それでも、ロゼッタはお礼を言いたくなった。
「けど、このミイラを維持するために、遺跡の内部の空気が冷たく、乾いたものになるように神聖刻術を施したら、古代迷宮化したんじゃ世話ないよ」
「そこはまぁ、代償ということですから」
しかし、これ以上は時間が押している、長居していい場所ではない。できることなら隅から隅まで調べ尽くしたいが、護衛の兵士たちの視線も痛くなってきた。
個人の心を変えるには、他人の言葉だけでは足りない。その人に強い影響力を持ち、上から叩きつけるように意見をぶつけられる存在がいる。
たとえ、それが物言わぬ幽霊であったとしてもだ。
「ダ氏族の集落に、遺跡ってありますかね?」
「メイベリアンは遺跡と山を、生活と宗教観から切り離すことはできない。確実にあるはずだ。あとはそれが、どれだけ古い遺跡かということだけ」
遺跡の最奥から踵を返した二人は、来る時よりも早い足取りで集落へと戻っていく。
「母さんに確認をとらないと。今回の訪問で、ちゃんと不戦の立場をとってもらうことと」
「メイベリアンと帝国の間の平和協定への考えに賛同していただいていること」
「それに遺跡の紋様のことも、きちんと伝えないと」
どんなにはっきりした縁も、当事者が認識しなければないのと同じだ。メイベリアンが帝国と明確な交流をしてこなかったから、四百年以上誰も二者の繋がりを知らなかった。
「これで、心置きなくダ氏族の下へ向かえます」
「絶対に、侵略なんかさせやしない」
知られざるものならば、広めればいい。
遺跡の外に出た二人を出迎えたティーベに連れられて、ロゼッタとカイロはカ・イリのもとに向かう。
深い霧の中にいたような二人は、ついに光明を見出したのだった。
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