第二十九話「砂被り姫の越境」後編
カ・イリに連れられて入り込んだ山を進むこと二日。途中ラ氏族の使節と合流して、ダ氏族の集落へと到着した。
《よくぞ参られた、兄弟! ダ氏族長ニディが、そなたらを歓迎しよう!》
みこしに担がれた、大柄な男性が、オオカミの金細工を首にかけて見下ろしていた。
帝国人がイメージする蛮族、というものを押し固めたような人物だが、決して愚かしい振る舞いというわけではない。
歓待する者である族長ダ・ニディとしての威厳を保ちつつ歓迎を示す祭りを執り行う。
ならば族長はもっとも派手で、感情を体で示す必要がある。それが、帝国人の文化と相いれないだけだ。
彼の首に提げられたオオカミも、ダ氏族を象徴する獣であり、長のトレードマークのようなものだ。
《カ氏族のイリ! ラ氏族のオウ! 何年振りか、我らが集まるのは!》
《八年ぶりでしょうね。ラ・オウが族長になった時の祝い以来ね》
《その時は盛大な歓待、改めて感謝いたす》
ラ氏族のオウ族長は、他の両氏族に比べて穏やかな人物だ。服装も軽装か戦闘服のような二人とは違い、布が多く、大きな袖を持つ。同じ民族だと言われても信じられないくらい、服飾文化が違う。
しかし、細かい装飾品やペイントに共通性が残っていた。首から提げたウマの金細工が、カ・イリたちと同じ意味を持つのだとわかる。
髪色は、カ氏族が紫なら、ダ氏族は赤色、ラ氏族は黄色をしており、誰がどこの部族か一目でわかる。
《そこの男! そなたがカ・イリの息子であるな。待っておったぞ!》
《ど、どうも。カ・イルです》
文化は違っても言葉は同じ。カイロことカ・イルも問題なく会話できる。
《聞いておるだろう。帝国の脅威に、我ら一丸となって挑む時が来たのだ。そなたの知識、期待させてもらうぞ! 我らメイベルの子らに栄光を!》
ガハハハッ! と剛毅に笑うダ・ニディは、粗野だが卑ではない。その考えも、メイベリアンのことを第一に考えてのことだ。
《その考え、どうか待っていただけますか。ダ氏族長ニディ》
そう呼びかけたのは、カイロの後ろにいたフードを被った人物だ。ダ・ニディはそちらを見てから、カ・イリに視線を向ける。
《……カ・イリ、そちらさんは、お前さんの従者かなんかか?》
《いいえ。でも、私のお客さんで、あんたの客でもある》
《俺の客?》
問い返した時、フードを外す。短く切りそろえた青い髪が現れ、日に焼けた肌が陽光に照らされた。
むろん、そこにいるのはロゼッタ・カエルムだ。
《その青い髪、色は多少明るめだが、帝国系の色だ。西の奴らはもっと黒かった》
《青はカエルムの特徴です。私はこのメイベルの山に一番近い、辺境伯の人間ですから》
その言葉を聞くと、ダ・ニディはみこしを降りてロゼッタの前に立つ。彼の身長は頭二つ半高い。傭兵を自ら率いるという話も、嘘ではないのだろう。
見下ろす彼の視線を、ロゼッタはまっすぐに受け止める。
「ヨウコソ! ここはワが牙城! カンゲイしよう。ロゼッタ・カエルム!」
そう言って、帝国貴族がとるような礼をとる。むろん作法的に間違っている部分もあるが、来客を無下にする気はないようだ。
踵を返したダ・ニディと入れ替わりに、母に腕を掴まれていたカイロが駆け寄ってきた。
「ちょっと、ロゼッタさん、会談の時まで君がいることは黙っておくはずじゃあ」
「いいえ。むしろここで黙っていた方が印象を悪くしていたでしょうから。見た目通り、正直に堂々としていれば、問題ありませんでしたね」
冷や汗を流すカイロに対し、ロゼッタは手ごたえを感じていた。
その様子を見て、カ・イリは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
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