第二十六話「砂被り姫の異境巡り」後編
運ばれること数分。
その間も離れることがなかったティーベの手以外に、外部の感覚はほぼなかった。
「うぅ、ちょっと、揺れすぎて、気持ち悪い……」
地面に下ろされたロゼッタはいまだふらつく平衡感覚に苦戦し、膝をつく。
頭に被された布を外されたが、まともに目の前を見ることはできなかった。いつの間にか両腕は後ろで縛られているし、隣にカイロの姿はないし、ティーベもいないし――不安がどっと押し寄せてくる。
《こいつ、平野の人間だよな》
《カ・イルとチ・オベと一緒に歩いていたぞ》
《カ・イリ様はカ・イルとチ・オベを迎えに行けって言ってただけだし……》
メイベリアン人たちの生の会話を、ロゼッタは初めて耳にする。
帝国人は、メイベリアン人を含め、国境の向こう側の民族を、大半蛮族と呼ぶ。海洋交易で交流のある異国人は同格として扱うが、地続きの敵対者はまず貶すことから始める。
(ティーベくんの恰好を見て思ったけど、やっぱり文化レベルはあんまり差がないなぁ)
帝国人たちのイメージする蛮族というと、半裸、仮面、身体装飾――様々なものを思い浮かべる。
だが、目の前の相手は武器こそ手にしているものの、洗練された戦闘衣装、華美ではなく高貴さを表す装飾、高い芸術性を感じさせるタトゥー、どれも文化として完成していた。
《にしても、カ・イルの奴ずいぶんでかくなったな》
《あれから、十一? 十二年くらいか?》
《あいつもそんな年か……もしかして、この子あいつの恋人か?》
《だとしたら……悪いことしたか?》
《こんな若い子に手荒な真似はしたくねーし、確認して来るか?》
《単なる同僚なのでご心配なく!》
カイロの同族の間で変な勘違いが広まりそうだと思ったロゼッタは、ついメイベリアンの言葉を発してしまう。黙って言葉がわからないふりをしていればよかったものを、わかるがゆえに反論してしまった。
《……この子、今俺らの言葉で喋らなかったか?》
《なぁ、やっぱり一回カ・イリ様にも確認して来ようぜ》
《その必要はないよ。お前ら》
見張りたちはロゼッタの所在をどうしようかと相談し始めたが、それを遮る声がした。
《メイベルの娘、カ・イリ!》
《今、お考えを伺おうと……》
《早くその子の縄を解きな。カ・イルの連れだよ》
入ってきたのは、一人の女性だ。メイベリアン人の階級を表すのは首飾りだ。金で造られた装飾品が遺跡で出土したように、身分が高ければ高いほど、特別な金細工で身を固める。
そしてこの女性は、氏族でも最上位の称号を示す装飾品を身に着けていた。
吠えるクマの形をしたペンダント、その背に羽織ったマントもまたクマの毛皮であり、最高位の戦士であることを、同時に示す。
「も、もしかして、カイロさんの、お母様?」
「あんたが、カ・イルと一緒に来た子だね。あの子が待ってるよ」
膝をつき、視線を合わせた女性の顔立ちは、どこかカイロに似ている気がした。
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