第二十五話「砂被り姫の国境越え」後編
ロゼッタ、カイロ、ティーベの三人は森の入り口なのであろう、少しだけ開けた場所に立った。獣が走っているのか、それとも人が踏み込んでいるのか。わずかだが、獣道ができていた。
これがメイベリアン人の残したものなら、山の中、さらにその奥にある彼らの集落へと辿り着けるだろう。
「緊張してきましたね。さすがに」
「メイベリアンの土地に戻るのは、何年ぶりかな」
義弟の手を握りながら、カイロは森を見る。
「この森の人たちを、説得しなくちゃいけないんですよね」
「帝国とは全く違う文化圏で育ってきた人たちだけど、基本的な精神性は、何も変わらないはずだよ」
「せいしんせい?」
カイロの言葉に、ティーベが疑問符を浮かべた。
見上げてくる小さな両目に、カイロは視線を合わせて応える。
「考え方とか、想いとか……まぁ、つまり、メイベリアンでも帝国人でも、友達になれるはずさ。ティーベは、アスワン様と、もう友達になっただろ?」
「うん。また遊びに来てねって」
ロゼッタは、弟が自分より早く異文化交流を果たしたことに笑みを浮かべる。
まだ子ども同士であるから、何のしがらみもなく接することができた。大人になればなるほど、誰かと向きあうのには問題が横たわる。
それを超えるためには、何かきっかけが必要になるのだ。
「メイベリアンの土地には、彼らの遺跡はありますよね」
「そりゃもちろん。僕も何度か潜ったことはあるけど、かなり浅くて、長い。山の中に向けて進む遺跡だったよ」
「それは、何のための遺跡として造られているんですか?」
「もともとは何かの儀式用だったと思うんだけど、あまりちゃんと調べたことがあるわけじゃないし、入り口周辺なんて、部族の子たちの遊び場だったから」
危険性は低いが、調べる価値のある場所はある。
「それが、何か?」
「どうすればいいのかな、って。メイベリアンの人たちを説得するにしても、彼らが戦わない理由を示さないと、またいつか争いが起こります」
「早い話、どちらかがどちらかを支配すれば、争いに決着はつく」
「でも、それはありえません」
「なら、仲良くできる方法を見つけないと、な」
メイベリアンと帝国――小競り合いにまで落ち着いたとはいえ、長年の敵同士だ。
もしもここでメイベリアン側から攻勢に出れば、帝国は、それこそシャルル大将軍を派遣してでも、報復に打って出るだろう。
そうなったら、血みどろの争いの時代へと逆戻りだ。
何よりそうなったら――。
「メイベリアン遺跡の研究なんて、口が裂けても言えなくなっちゃう」
「敵対勢力への傾倒――なんて言われたら目も当てられないな」
それこそ、かつてとある愚か者が言ったように、遺跡を打ち壊そうとする事態が起きるかもしれない。
守るべき遺跡も、その先に望む未来も、全てが壊れる。
「覚悟はいいね。ロゼッタさん」
「もちろんですよ。カイロさん」
そう言ったロゼッタは、一枚の布を取り出した。カイロが受け取り、持ってきた杖に括りつけて広げる。
和睦の使者の印である杖と、帝国の太陽を抱く竜の描かれた旗。話し合いに来たという意志を示してから、二人は歩き出す。
ティーベを間に挟んだ二人を、樹上から見つめる影が一つ、二つ、三つ――無数。
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