第二十五話「砂被り姫の国境越え」前編
メイベリアンの領地は、カエルム領のさらに東にある。
豊かな森林と何本もの入り組んだ河川、その先のヴェゲーゼン山脈を国境として、帝国と断絶されている。そのため文化・物質・人、あらゆる交流が途絶えている。
「唯一の交流があったとすれば、民間での話だ。僕みたいな混血が生まれたように、勝手に国境を超える人間だっているし、メイベリアン側からやってくる人もいる」
「ティーベくんのご両親のうち、どちらがメイベリアンだったんでしょうか」
「お父さんはね、ぼくと似た髪の毛だったよ」
つまり、父やメイベリアン、母は帝国人である。
密偵が相手の国で家族を持った、というところか。
「君のお父さんご両親は、この情報をどう使うつもりだったのかな」
「知らない。僕がこれを渡されたのは、川と原っぱの境目当たりで、渡してくれたのも、お父さんたちじゃないし」
「え? じゃあ、だれ?」
「今のお母さん。カ氏族のイリ様」
その言葉に、カイロの顔が青くなる。
「カイロさん?」
「ほ、ほんとに、カ・イリが、君に?」
「うん。お父さんとお母さんが森にかえってから、ぼくを育てた、今のお母さんだから」
ティーベの言葉通りなら、つまり彼の里親ということだ。
「じゃあ、どうして裸足で?」
「いつも履いてないくつだからやんなっちゃった」
思った以上に、軽い理由だった。それ以上に驚くべきことは、この国境からアミーポーシュの街まで迷わず来たことだろう。
「よく辿り着けたね。怖くなかった?」
「全然。森に比べたら明るいし、動物もいないし、お母さんはゆっくり行けって言ってたけど、一日で着けちゃった」
「……大人でも二日かかるはずなんだけどなぁ」
思った以上にタフな子だった。そもそも、森で過ごすメイベリアンたちが皆、そうなのかもしれない。
何より、カイロには思い当たる節があった。
「そっか。カ氏族に育てられたんだね」
「うん。だから、お兄ちゃん」
ティーベの言葉に、はっ、とロゼッタは気づく。
「もしかして、そのイリ様って、カイロさんのご家族ですか?」
「ああ、僕の母さん。父さんを捕まえて、交流して、僕を生んだ人。メイベリアンにある三つの氏族――カ氏族、ダ氏族、ラ氏族、三家の姫の一人なんだ」
「……じゃあ、貴族的な?」
「どちらかというと、騎士家系みたいなものかな。まさか弟ができたなんて……」
つまり、今のカイロとティーベは、血の繋がらない兄弟ということだ。
「あの、じゃあ、今ティーベくんが言った、森にかえるって――」
「メイベリアンは山岳信仰だからね。彼らにとって、死は森への還元、この大地と一つになると言うことなんだ」
「そう、なんですね」
両親が亡くなり、カイロの母に育てられ、そして現在、彼に事態の緊急性を伝える使者となった。
「いろいろ合点がいきました。どうしてカイロさんにメイベリアンの侵攻計画が伝えられたのか。逃げろではなく一緒に戦えと言われたのは、こういうことだったんですね」
「けど母さんがそれを主導したとは思えない。父さんが今帝都で働いていることだって知っているはずだし……」
メイベリアンとて一枚岩ではない。
説得の余地は、まだきっとあるはずなのだ。
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