第二十四話「砂被り姫の里帰り」後編
帝国とメイベリアンが和平を実現するための障害は、いくつかある。
まず、帝国側から提案することができない。帝国議会の決定で、辺境伯および周辺城塞の城主には、当該防衛地域に関する交渉についての全権代理とされている。ただし、帝国からの和平交渉、停戦交渉の開始だけは、禁止されている。
つまり、敵方に譲歩するな、という意志表示だ。
相手側から申し入れがあった場合の交渉は自由にしていいと言うことだから、面子を保つのに帝国も苦心しているらしい。
「それで、私にメイベリアンたちへ和平交渉をそちらからしてください、などと手紙でも書かせるつもりか? これから侵攻しようとする相手に」
「それができたらこの屋敷にいたころにお願いしていました」
つまり、あくまで和平交渉は相手側から申し入れられたものである点を維持させる。そのうえで、メイベリアンの侵攻をさせず、帝国の軍が派遣される前に終わらせる。
最低限、不可侵条約だけでもいい。領土も賠償金も、何もなかったとしても、平和だけは。
「お前が望むことは、大方理解しているつもりだ。メイベリアンとの争いを終わらせたいと思っているのは昔から変わらないなら、どうする? どうやって彼らに交渉のテーブルを用意してもらうのだ」
「単純な話です。私が、直接メイベリアンたちのもとに行って説得します」
思った以上に、強引なやり方だった。
「待て待て! 本気か、本気で言っているのかロゼッタ!?」
「私はいつだって本気で物事に取り組みます。じゃなきゃメイベリアンの研究なんてやっていられませんよ」
「これを聞いてなお連れてきたのかね、男爵夫人!」
「うーん、だって言っても止まりそうにないし」
場合によって独断で国境線を跨いで超えただろう。
「遠足や散歩の範囲ではないんだぞ。まして、相手が歓迎してくれる保証もない」
「だとしても、行かなければ何も変わりません」
すでに娘の心は決まっている。そうアレクは判断したのか、ため息をついて反論をやめた。
どちらにしろ、追放された者の行動を、父親面して止める権利など自分にはないのだから。
それでも、視線をロゼッタではなく、その後ろへ向けた。
「彼は、男爵夫人からの手紙で少し聞いているが、考古学者なんだとか」
「え、ええ。彼はカイロ・ベアーガ。私の今の店主で、相棒です」
少し誇らしげに言うロゼッタの姿に、アレクは少しだけ肩を落とす。
それが寂しさの表れだとわかるのは、この場ではマドレーヌだけだった。
「メイベリアン、なのだろう。しかも混血だ。先ほどの少年もだ。その薄い色の髪は、メイベリアンの混血に現れる特徴だからな」
「そ、その通り、です……」
突然会話の矛先が向いたことに動揺するカイロ。
彼の様子を気にせず、アレクは続ける。
「君はこの戦いを望まないんだな?」
「もちろんです。僕も彼女と同じで、帝国とメイベリアンが戦ってほしくない。僕にとってどちらも故郷で、壊れてほしくないものが、たくさんあります」
それは一人の人間としての言葉と、考古学者としての言葉が混ざったものだ。
「お願いします。これ以上、無駄な争いの歴史を、増やさないためにも!」
ロゼッタの言葉に、アレクは頷いた。
それを見た彼女は後ろの青年に手を掲げ、掌を打ち付け合った。打てば響く鐘のようなその音は、まるで福音のように部屋の中で木霊した。
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