第二十三話「砂被り姫の帰還」後編
カイロとロゼッタは、ハリエ、ティーベとともにカエルム領へ向かっていた。マドレーヌの手配してくれた馬車に揺られた快適な旅だ。
もちろん、マドレーヌ本人も同行している。
再び帝国とメイベリアンが戦火を交える。
実感の沸かない戦争の現実。そもそもある程度は平和な時代を生きてきたロゼッタに、戦争の経験ない。
「僕も、ほとんど戦争状態なんか経験したことがない。僕らの歳じゃあ、君のお父さんの尽力でほとんど小競り合いも起こっていなかったからね」
それでも、歴史を学ぶ者にとって戦争は身近だ。資料からだけでも伝わってくる悲劇を、正確に理解できている。
今ロゼッタの膝の上で眠っているティーベは、その悲劇を理解できていない。何せ、この子は自分の父のことを、一度も話題に出さない。
再会できないかもしれないという恐れが、ないからだ。
「この子のご両親はどうしたでしょうか」
「メイベリアンの諜報員か、通信使か。どうして僕のところにこんな連絡をよこしたのか」
「無事、でしょうか」
「……多分」
喋っていると悲観的な考えばかり浮かんでしまう。頭を振ったロゼッタは改めてカイロを見る。
「先に相談しておきたいんですけど、どうやって戦いを止めましょう」
「……君のお父さんから和平交渉を持ちかけることはできないのかな」
「それは許可がないんです。帝国からは、相手から申し入れられた場合を除き和平交渉をするなと言われていて。だから、膠着状態で」
戦争なんてさっさと終わらせて交易を始めたい。それが実際のカエルムの気持ちだ。けれど、数百年に渡って横たわった対立は、国の中枢の意識から簡単に取り除けない。
「つまり、メイベリアン側から和平交渉を持ちかけさせないといけない」
「そのためには、国境を越えて、彼らを説得しないといけないな」
これは、単なる里帰りではない。貴族として追放された以上、その位置に戻ることはできず、そもそも本来は街の門を潜ることもできない。マドレーヌの使者という形をとっていなければ、ここまで来ることはなかった。
領地の境も、街の門も、ほとんどマドレーヌが顔を出せば素通りできる。
そうしてやってきた街の中心には、カエルム家の紋章を掲げた邸宅があった。
「数か月ぶりの我が家はどうかしら? もう懐かしい?」
「どちらかというと、帰ってくるつもりがなかったので、気まずいです」
マドレーヌのからかい交じりの問いかけに、ロゼッタは乾いた笑いを零す。
ロゼッタが馬車を降りると、ティーベはそれに続いていく。彼女の背中に隠れるようにしながら、カエルムの屋敷を見上げた。
「それじゃあ行こうかしら、カイロ、ロゼッタ」
「はい!」
「覚悟は、できてます」
ロゼッタはティーベの手をそっと握ると、歩き出したマドレーヌに続く。
賓客の到来はすでに門番から当主にまで伝わっている。開いたドアの向こうには、少し痩せたかもしれない父と、姉の帰還に顔を輝かせた弟がいた。
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