第二十三話「砂被り姫の帰還」前編
早朝、寝間着姿のマドレーヌの下に通されたロゼッタ、カイロ、ハリエ、そしてティーベの三人は、彼女の部屋に広がる朝食の香りに腹をすかせた。
「食べたかったら食べていいわよ。ハリエがいるから、もう食べてきたかしら」
「あ、いえ、今日はまだ」
「食べていいの、お姉ちゃん」
カイロが応えるより早く、すでにティーベの手は机の上のトーストに伸びていた。少年の問いかけに、マドレーヌは微笑みながら答える。
「もちろん。好きだけ、ジャムもたっぷり塗って食べていいわよ」
パッと顔を明るくしたティーベはハリエにジャムを塗ってもらったパンを頬張る。幸せそうな顔を眺めるマドレーヌの視線は、少年とカイロの頭を行き来する。
「確認だけど、あなたたちの子どもとかじゃないわよね。髪の色はカイロによく似てるけど」
「だったとしたら生まれたのはいつの話ですか!」
「私まだ十七なんですけど!」
「冗談は置いておいて。朝一番に駆け込んできたっていうことは、緊急な案件?」
生のリンゴを丸かじりにするマドレーヌの視線が鋭くなる。彼女は芸術や宝石に一生を捧げる感性の持ち主だが、領主としては非常に優秀だ。でなければ数十人単位のパトロンをしながらこんな優雅な朝食は摂っていられない。
問題に関する嗅覚は敏感だ。
「ま、おおむねあなたたちのことだから私に頼るのは自分たちの許容範囲外の大事。内容はメイベリアンか遺跡に関することのどちらかでしょうけど、あんな子どもを連れてきたとなると、前者の部族対立がらみでしょうね」
鋭い洞察力で、ここに来た目的の大枠を把握する。その通りと肯く二人は、先日ティーベから渡されたカルトゥーシュを出す。
「あら、純金製」
「メイベリアンの重要事項を伝えるときの慣習なんです。金のメダルは特に重要なことを伝えるという意志でもあります」
へぇ、と呟くマドレーヌだが、その関心は目の前の純金にしかない。
なので、構わず続ける。
「問題は、そこに書かれている内容です。メイベリアンが、再度帝国への侵攻を企図しています。その伝文を持って、あの子は僕の家に駆けこんできました」
「……それは、私に見せていいものじゃないんじゃない? あの子にこれを託した人は、カイロ、あなたが部族のために行動してくれると思ったからでしょう。私は、帝国領主としてこれを差し押さえなくちゃいけない。このままだと、あなた反逆罪よ?」
マドレーヌの言葉に反論などない。彼女の行動言動全てが正しい。たとえ情報を知らされただけだとしても、それが帝国の危機に繋がるのなら国民の義務としてするべきことがある。
それをないがしろにするのなら、反逆罪も妥当なところだ。
「帝国とメイベリアンが戦うことを、僕らは望んでいません」
「もし戦いが起ころうと言うのなら、止めないと!」
前のめりになる二人に、マドレーヌは少し身を引いて聞く。
若さゆえか、その純粋さゆえか、まっすぐな言葉と気持ちを伝えてくる。遺跡を守りたいという思いもあるだろう。
だが、何より二人とも、帝国とメイベリアンの間に争いが起こることを忌避している。
「だからってどうするのよ。攻められたら守る。守るなら撃退する。撃退するなら徹底的に。防衛線の鉄則よ」
「つまり、僕らがすべきことは――」
すでに、彼らの中では明白だ。
「戦いが始まる前に、メイベリアンたちを止めに行きます」
ロゼッタの言葉に、マドレーヌはため息をついた。
それでもどこか嬉しそうなのは、彼女の悪癖なのか。
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