第二十話「砂被り姫のフィールドワーク③」前編
旧帝都の内部は、四百年以上前に造られたと言う経緯もあって、当時の文化が残っている。
「案外きれいなものだな。まさか、オーディムが掃除でもしているのか?」
「他の古代迷宮でも、当時の状態が克明に残っているものもあれば、冒険者によって破壊された箇所が、数日後に修復されたと言う話もあります」
「オーディムがそもそもなんなのか、未だわかっていないことは多すぎますから」
三人が進む旧帝都の最外壁は、内部が空洞だ。とはいっても壁は崩せるほど薄くはなく、ましてロゼッタたちからしてみれば遺跡を壊すなど持っての他。シャルルもそれを理解して、二人の話を聞きながら進む。
「そのオーディムが、来たようだぞ」
遺跡の奥を見たシャルルが腰の剣を抜く。同時に左手を振れば、袖に仕込んだ手斧が姿を見せる。
相対するのは、単眼しか存在しない頭と、枝のような手足。それを四つん這いで動かす姿は、トカゲやカエルを思わせる。
体表に何か靄が掛かっており、その表面の肌や鱗の色なのか、それとも靄の色なのか。
白い異形は、わずかに揺れなら近づいてくる。
「間違いない、オーディムです!」
「なんていうか、気持ち悪いですね……」
人と同じ形をしているが、中身はまったく別のものだ。
対話不可能なのは、そもそも口がないことからも見て取れる。
一歩ずつ、三人へ接近していた。
「二人とも下がっていろ。俺の出番が来たようだ」
剣と斧――異色の二刀流を構えたシャルルが、警戒しつつオーディムへ近づく。
彼自身も普段から遺跡に潜っていない限り、オーディムと相対するのは初めてのはず。白き異形の腕は武器を構えた人間のそれより長い。
オーディムはその両腕を伸ばして掴みかかろうとする。シャルルは右手の剣で受け止めると、止まった腕に左手の斧を叩き込んだ。
円を描くように攻撃し、オーディムに触れられないよう立ち回る。
「すごいな。初めてオーディムと戦ったっていう割に、ちゃんと戦う方法を学んでいる」
舞い踊るようなシャルルの姿を、カイロはそう評した。
「オーディムに人間が素肌で触れると崩れてしまうから、決して触れてはいけない、と」
「うん。だからこそ冒険者たちは防具で身を固め、盾で守りながら戦う――けど」
シャルルは盾を用いず、鎧もなく、回転を咥えてオーディムを斬り付ける。
斧の一撃を首元、脇、腿、最後に胸の中心へと叩きつけた。確実に急所と言える場所への攻撃に、オーディムはたじろぐ。
しかし、倒れるそぶりはない。
「シャルル閣下! オーディムは頭の単眼を――」
「ああ、潰さねば死なんのだろうよ!」
いまだに動く異形を剣で斬り払い距離を取ると、その単眼へ向けて斧を投げつける。吸い込まれるように突き刺さった刃に、白き異形はゆっくりと倒れていった。
そこに鳴き声のようなものはなく、ただ何かの擦れる音がこだました。
そして、異形の姿は塵に消える。
「お、終わりました?」
「オーディムの消滅現象……間違いなく、消えたね」
「ふむ。攻撃で多少動きを牽制できるが、額に撃ち込んだ方が早いな。倒し方はわかった。次はもっと早く片付ける故、心配するな」
自身満々に応えるシャルルの姿に、ロゼッタとカイロも苦笑いを浮かべる。
頼もしいのは、間違いない。
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