第十九話「砂被り姫のフィールドワーク②」前編
ロゼッタとカイロは、旧帝都へ向かう馬車に揺られていた。
途中ハリエの作ってくれた弁当をつまみながらの移動であるが、到着するまでの間に二つの宿を利用することになった。
そして、旧帝都の周りに設置されたキャンプの中へと入り、馬車を降りた。
「ご苦労であった。そなたらが、アミーポーシュ男爵夫人が推薦された、若き考古学者の二人であるな」
到着した二人を迎えたのは、金髪の青年だった。ロゼッタたちを若き考古学者と呼んだ彼自身も、同じくらいの年齢に見える。
誰だろうと思いながらカイロが応える。
「あの、失礼ながらどちら様でしょうか。私たちは、メルウィング閣下から招致を受けて、こちらに参りましたが――」
「なら問題ない。卿らの目の前にいるのが、シャルル・メルウィングだ。面倒だからフォンは付けずに呼んでくれ」
柔和な笑みを浮かべた金髪の美丈夫。上級将軍であるとは思わせない庶民的な恰好をしており、階級章らしきものもつけていない。
もしつけていれば、真っ先にロゼッタが気づいたはずだ。
皇帝の覚えめでたい今を時めく高級軍人に、なんて物言いをしてしまったのか。寒気が背中を走るカイロの肩を、シャルルは笑顔で手を置いた。
「そう畏まるな。卿よりも一つ二つ年上のはずだが、些細な違いだ。気楽にシャルルと呼んでくれればいい。部下ではない卿にまで、敬称を強要するつもりはないのだ」
「あ、ありがとう、ございます?」
非常にフランクというか、気楽というか、カイロはそれまで聞いていた印象とは違うと思っていた。戦闘狂、気難しい軍人――持っていた勝手なイメージが消えていく。
悪くない人だ、そう思えばこそ、発掘に安心して従事できる。
「アミーポーシュ夫人とは、一人二人介しての友人でな。この度の陛下のお戯れをお話したところ、二人のことを推薦してくださった」
「それで、突然帝国中枢から、僕らにお声がかかったんだね」
「あいかわらずあの人の人脈と影響力はおかしいですね」
明らかに男爵の権威を超えている。
「だがそれで助かった。俺は殴ったり壊したりするのは得意だが、どうも調べものは苦手でな。諜報や偵察も、その手のことは全て部下に任している」
「今回、旗下の方々は参加されていないんですか?」
ロゼッタは周りを見るが、この場にいるのは、メイベリアン遺跡でも見たような工夫たちばかりだ。宮廷から派遣されたのであろう観測師が数名いるが、軍人だとわかる見栄えの良い者は、目の前のシャルル以外いなかった。
「今日は奴らも休暇だ。俺について行きたいとだだをこねた者もいたが、せっかくの休みなのだ。俺も少しは部下以外の者とも触れ合わねばな」
「噂通り、シャルル閣下は相当部下から慕われているようですね」
カイロもシャルルについては事前に調べてはいた。何より強調されているのは、彼の部下たちからの支持であろう。
まるで彼自身が皇帝であるかのような熱狂的な支持によって成立する用兵は、濁流が押し流すように敵を蹴散らす。
兵の中には彼を戦場の皇帝と呼び、その軍事行動すべてが皇帝親征かのように扱われる。
「部下以外からそういうことを聞くと、少々気恥ずかしい。そんな遠い場所のことはよいのだ。二人は考古学者なのであろう。この旧帝都の状況について、現状でどの程度把握している?」
少し顔を赤らめたシャルルは、ごまかすように話を二人に振った。
そのことに、数分後少し後悔した。
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