第十七話「砂被り姫の心の内」前編
学会が終了した時、ロゼッタは挨拶回りをするマドレーヌを眺めていた。
自分が同じ立場だったとしても、ここまで丁寧な対応はできていないだろう。元来貴族らしい行動とは縁遠いロゼッタは、むしろ追放されたおかげでそのあたりの義務や慣習から自由だった。
「忙しそうですね、マドレーヌさん」
「先に宿に戻っていていいとは言われたけど、さすがに置いていけないよ」
こうした地味だが大切な人脈作りが、男爵位という爵位の低さに対し、貴族社会での立場の強さという対極を作り出す。
特に、自ら男爵位を継承した女性となると、帝国の歴史でもそうはいない。
「ロゼッタさんは、あまりマドレーヌ様みたいなことは興味がなさそうだね」
「興味がないと言うか、気分が乗らなくて。お父様も、先代アミーポーシュ領主殿や、国境要塞司令官殿などとは交流はよくされていましたがそれ以外とはあまり関わっていなかったので、何となく、必要ないのかな、と」
その代償のように、ロゼッタは領民との交流は多く、遺跡や歴史と向き合う機会が多くなった。
「はぁ~終わった終わった。ロゼッタ、カイロ、帰るわよぉ」
「マドレーヌ様、挨拶回りは終えられましたか」
「ようやくね。興味もないくせに話長いのよ、あいつら。ほんと、やになっちゃう。私も歴史とか考古学は一般常識程度でしか知らないけど、あいつらよりは詳しい自身あるわ」
「必要ならまたお教えしますよ。今のところメイベリアンについての講義は、当分必要なさそうですが」
カイロは肩をすくめて自嘲する。残念ながら、彼の言う通り少なくともあと数年は必要ないだろう。
「そんなことより食事よ。帝都で人気のお店を事前に予約していたの。さ、行くわよ!」
ロゼッタとカイロを両脇に抱えたマドレーヌは、軽い足取りで歩き出す。
***
「わたしだったねぇ、すこしはあおくさいれんあいしてみかったのよ……」
「マドレーヌ様って、お酒強かったはずだよね」
「私たちが飲めない分、お一人でどんどん飲んでしまったから、ペースを間違えられたんでしょうか」
マドレーヌの恰好は、貴族というより領民のような恰好であった。気楽な恰好と気楽な店、そして気の置けない中である二人がともにいるということもあり、気が緩んだのだろう。
周りを壁に囲まれた個室ということもあり、人目を憚ることもない。
「カイロさんはマドレーヌさんのお屋敷の人と違って、恋人ってわけじゃないんですよね」
「もちろん。この人は、借金を抱えていたころから何かとお世話になったし、僕の話も真剣に聞いてくれる、まぁ姉のような人さ」
カイロは自分の上着を脱ぐと、腕を枕にするマドレーヌにかける。残っている料理を少しずつ食べる二人に、沈黙が訪れる。
マドレーヌも静かなもので、先ほどのような寝言は口にせず、押し殺したような呼吸だけが聞こえていた。
「なにより僕は、メイベリアンだし」
その言葉は、妙に部屋の中に響いた。
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