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第十五話「砂被り姫の思い出」後編



 結局、二人は起床してから数時間、研究テントの中で過ごした。

 遺物の調査、修復、記録、やることはいくつもある。


「はぁぁい、二人とも元気ぃ?」


 骨董品店と同じく勝手知ったる我が家の如く、マドレーヌはテントを開いた。

 その傍らには古代機人(エンシェイド)のハリエを伴っており、布に包まれた荷物があった。


「ハリエちゃんお手製の朝食を持ってきてあげたから、一緒に食べましょう」

「あらあら、夢中で話してて、聞こえてませんね」


 ハリエの持ってきたのはサンドイッチにソーセージ、ゆで卵、搾りたてのジュースだ。朝から栄養を付けられるようにとサンドイッチには厚めのカツが挟まれており、たっぷりの野菜も顔をのぞかせていた。

 だが、そんな二人の声に気づかないロゼッタとカイロは、変わらず言葉を交わす。


「メイベリアンたちは神聖刻術(ハイエグリミー)に神秘性を見出しているんだ。だから彼らの碑文(エピグラフ)にその結果や研究成果が描かれることも多い」

「父も言っていました。彼らと戦うときに最も注意するべきは最前線で戦う兵士ではなく、その後方で守られている神聖刻術師(ハイエグリミスト)たちだって」

「そうか。君のお父さんは国境線の経験者だったね」


 お互いの経験と知識を合わせて議論を深めていく。

 すでに日は登り、作業員たちは朝食を摂って今日の仕事に備えていることだろう。


「二人とも、いい加減落ち着きなさいな!」

「「うわっ!?」」


 マドレーヌの手が二人の頭を掴む。間近で議論を交わしていた二人の顔が触れ合うほどに近づきそうになり、とっさに背を逸らす。

 勢いが付きすぎてロゼッタは転び、カイロはテントの柱に後頭部をぶつけた。まさかそこまでびっくりされるとは思っていなかったマドレーヌは、申し訳なさと違和感を覚える。


「そんなに驚くなんて、本当に聞こえていなかったのね」

「お、おはようございます、マドレーヌさん」

「おはよ……ございます……」


 後頭部を抑えながら立ち上がったカイロは、ロゼッタに手を差し出して引っ張り上げる。

 その様子を見るマドレーヌは、少し不敵な笑みを浮かべた。


「あらぁ? カイロってば、いつの間にそんな紳士的なことができるようになったの?」

「茶化さないでください。それより、何の御用です」

「朝ごはんよ。あなたたち、ちゃんと寝てる?」


 そう言われると、カイロとロゼッタの胃は空腹を訴えた。

 さすがに先日の夜から現在まで約十二時間、脳も体も栄養を求めていた。

 テントの外には簡単なイスとテーブルが置かれており、そこにロゼッタたちが座る。


「それで、何か二人の間に変化があったの?」


 ロゼッタとカイロは、飲み込みかけていたものを吹き出す。

 あまりにも典型的な反応と対応に、むしろマドレーヌのほうが呆気にとられる。隣のハリエは人間らしく口元を隠して笑う。

 顔を赤くしたロゼッタとカイロの反論の言葉はない。どうやら何か変化があったことは間違いない。ただそれが――。


「何、恥ずかしい過去でも打ち明けあった? だめよ、簡単に弱みを見せちゃ」

「……ちょっとだけ、お互いの小さいころのことを話しまして」

「似たような幼少期だったんだなぁ、と」


 仔細を省いたが、おおむねそのようなものだ。肩をすくめたマドレーヌは、サンドイッチを手に取ってイスを立つ。


「二人はゆっくり食べていきなさいな。私はハリエと少し見て回ってくるから」


 二人の返事を待たずに立ち上がったマドレーヌは、足早にテントを離れ、準備を始めている作業員たちに声をかける。そんな中、ハリエしか周りにいなくなった時、彼女に言葉を漏らす。


「あれは、十歳の子どもが、幼馴染と手をつなぐのを恥ずかしがっているようなものね」

「あなたの好きな、恋、ではないと?」

「そんなものにうつつを抜かせるのなら、あの二人はメイベリアンに拘ってなんてないわ」


 そう、マドレーヌは二人の変化を一蹴した。




少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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