第十五話「砂被り姫の思い出」前編
幼いころ、ロゼッタはカイロと会っていた。
その事実に、二人ともまるでリンゴのように顔を赤くしていた。
「あ、あの、先ほどのことは」
「お、お互いに、聞かなかったことに」
幼いころの友人のことを誇らしげに語ったかと思えば、その相手は目の前にいた。
自分以外の友人がいたことに嫉妬のような表情を見せたかと思えば、それは自分だった。
不思議な縁でできた繋がりを喜ぶ前に、恥ずかしさで倒れそうだった。
――マドレーヌさん、お願い来て。
――今だけはマドレーヌ様の茶化しが欲しい。
似たような思考で助けを求めるが、あの男爵夫人は現在ぐっすり夢の中だ。
ようやく登り始めた朝日だけが、二人を見守っている。
仮眠室にいることが居た堪れなくなった二人は、ひとまず研究テントの中に向かおうとする。せめて遺跡研究のことを頭に詰め込めば、先ほどの話は忘れられるはずだ。
「それで、その、この数日で発見された砦跡の痕跡から、ここに彼らが暮らしていたのは、やはり旧帝国時代以前だと考えるのが、打倒だよね」
「アミーポーシュ領とカエルム領は、帝国では古参貴族に入りますから、ここに砦があったら、真っ先に対立しているはずです」
「やはり、メイベリアンが山に向かったのは、旧帝国時代か」
それはつまり、新旧帝国と、メイベリアンとの交流が希薄だった証拠と言える。帝都が他民族に占領されていた半世紀にわたる亡国期に築かれた砦の可能性も残るが、それにしては古すぎる。
二人が目指す証明に、この遺跡では些か物足りない。旧帝国との交流があったという遺物は、未だ見つかっていない。
「まぁ、そう何でもかんでもうまくいくわけもないし、少なくとも、メイベリアンの活動範囲が、旧帝国時代にはここまであった――ということだけは確定したんだ」
「そうですね。それだけは喜ぶべきことでしょうか」
永遠に閉ざされた関係性ではなかった。そこがわかったのなら、さらなる研究と発掘で、わかっていない部分を埋めていけばいい。
「……なので、その」
「う、うん。これからも、がんばろう」
話題が尽きた。そもそもお互いに話せることなど、メイベリアン遺跡のことしかない。
そのせいで恥ずかしい勘違いや感情を見せてしまった以上、二人の感情は元の位置へと戻ってくる。
そのせいか、普段より三割ほど、距離が遠い。
「ロゼッタさん」
「なんですか、カイロさん」
「……お互い、忘れろっていうのは、ちょっと無理そうだからさ」
「はい。ちょっと、思い出すだけで自分の言動が恥ずかしく……」
決して二人は、誰かに祝福されるような関係でもない。
お互いに向ける感情は、友人以上ただの同志。それ以上もそれ以下もない。考古学に魂を注ぎ込む若者でしかない。
「なるべく、普通にできるようにがんばるけれど、一つ、決めておかない?」
「な、何でしょう」
「マドレーヌ様には、何も言わないでおこう」
「……その方が賢明ですよね」
確かに茶化してほしいと思いはしたが、一生揶揄われるネタになるのも困りものだ。
無言のまま、二人は同意した。
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