回想 その1
ナノルルが戻ってくると何事もなかったかのように仕事を始めた。
邪魔しては悪いとは思うものの席を外すことはしない。
少しして話す内容の整理を終えたのかナノルルが勇者パーティとの会話の内容を報告してくれた。
「ふーん。もう破天が動いたんだ」
移民の受け入れ期間は今月末まで。つまり、戦争開始は来月からのはずだった。
「あれほどまであからさまに破れたような装備品ともなれば間違いありません」
金属製の装備が歪んだり砕けたりするのはあり得るが、装着しているのにまるでちり紙のように破れるのは破天のものと考えて良いだろう。
「まあでも、よく今まで手を出してなかったと考えた方が良いのかな?」
「四天王と言えども魔王が制することも叶わない者を野放しにしておくほど、戦力を欲しているのでしょうか?私からすれば聖剣や聖級魔法が使えないとしても上位種のラティアス・ノルザンシル1人に敗北した者をそこまで警戒するとは思えません」
ロノアにいたエマモネスと瓜二つの白虎という種族でスカイ学院の生徒会長。使い魔と一緒とはいえ学院対抗戦で勇者パーティを手玉にとるほどの実力者だった。
勇者に聖剣があるのなら魔王には魔剣がある。1年経ったことを鑑みても勇者パーティが魔王ひとりに敗北するだろう。
「それもそっか。それで、動いた理由はなんだろうね?」
「レニーナ辺りなら何か知っているかもしれません。しかし、直接確認した方が良いかと」
レニーナは幽霊という種族で物理的干渉を一切受けないので無所属の諜報員として活躍している。彼女ならば大抵のことなら知っている。
「レニーナと入れ替わって情報を集めてからでもいいと思うけど」
眷属となら入れ替わることが出来るのでレニーナがナノルルに伝えてくれればいい話だ。
「彼女が現在何をしているのか分からない以上止めた方が良いでしょう。彼女の仕事はいつ働いているのか判断がつきませんから」
「確かに。……ナノルルの仕事が一区切りついたら出かけるって話だったよね。行きたい場所があるんだけど、ついてきてくれる?」
「はい。マスターとならばどこへでも」
ヴィロナ視点
スカイ学院を出てから丁度1年経った頃。今から数日前のことだ。
「こんなにギリギリで間に合う?後ひと月でしょ?」
ハロフィムはまだまだ目的地の見えないことに焦りもっと早く訪ねた方が良かったと文句を零す。
「しょうがないでしょ?戦争の直前だからってやたらとパーティーがあったり、旅の先々で野盗やら魔物やらを相手してたんだし。それに、ナノルルさん、オーダーメイドを受け付けてないって噂だからこれもあくまでダメ元なんだからそんなに気にしなくてもいいでしょ?」
「そりゃそうだけどさ。……魔王って強いらしいじゃん?少しでも強くなれるならやれることはしておきたいよね」
「……そうだね」
慢心するほど私達は強くない。それを教えてくれた人はもう居ない。
聖剣がないとかそんなの些細なことだった。勝てるビジョンがまだ見えない。上位種とはいえ学院の生徒会長相手にこれだ。魔王ともなれば勝てるなんて楽観的に捉えることすら出来ない。
後ひと月しかないのにこのままじゃ駄目だと思うものの、どうすればいいのか分からず取り敢えず装備品を整えようと考えたのだ。
「そうだ!この辺に黄金ダンジョンがあるって聞いたんだけど、ちょっと行ってみない?」
黄金は五段階ある内の上から二つ目。事前に地図や魔物の情報を集めている訳では無いので黄金の中でも難易度が高いのか低いのかも分からない状態で行くのは危険度が高い。
「能力が分からないのは魔族相手にするなら当たり前だし、魔王を相手にするよりは簡単そうでしょ?」
「素材も高品質のものが手に入りそうですし、私は賛成です」
「ちょっとユティナスまで何言ってるの!?そんなの街で一泊してからでいいでしょ?装備のこともあるし今は止めとこう?ねぇ、ウィレムア」
「……私もハロフィムに賛成する。道中にあるなら見てみるだけでもした方が良い」
魔物と戦ってみてから続けるのか引き返すのか決めても遅くはないのかな?
下見のようなものだと考えればそう悪い提案でもなかった。
「分かった。でも、無理そうならすぐに引くからね」
「そのくらい分かってるって」
ハロフィムは笑顔で言った。
後になって思う。この時もっと強く反対していれば、と。
ダンジョンの入口に着いたとき、もう一組もまた反対側から来ていた。
「おいおいおいおい。嬢ちゃんたちここがどこだか分かってんの?悪い事言わねぇから帰んな」
綺麗な白い髪をした男性が先に入ると主張した。
「おにーさんこそ、場所分かってる?遊びに行くようなとこじゃないよ?」
男性側は3人で、それもラフな格好で来ていた。男性はまだ動きやすそうな格好だが、両側にいる女性2人はまるで街に出歩くかの如くヒラヒラのロングスカートだ。加えて武器になりそうなものも持っていない。到底これから魔物狩りに行く格好ではない。
「俺にとってはそうなんだよ」
「ちょっと待って!私達と貴方達ほぼ同着だったでしょ?何勝手に先に入ろうとしてるの!?」
「あ?うるせぇな。親切心だろ?どうしても帰らねぇなら俺達が先行してやるって話だ。実物見なきゃ分かんねぇみたいだからよ」
ハロフィムが2回も止めているにも拘わらず止まらない。
「私達が弱いって言いたいわけ?」
「はぁ?今更気付いたのか?ったく分かったらさっさと行け。確かあっちに街にがあるはずだ」
男性はそう言って自分たちが来た方向を指した。
「なら、勝負するのはどう?」
悪い人ではなさそうだった。だから私もむざむざ死地に足を踏み入れようとする彼等を止めようとしたんだ。それが、間違いだと気づかずに。
「勝負?ジャンケンでもするつもりか?」
「そんなのじゃないよ。簡単な模擬戦だよ。準備運動くらいにならなるでしょ?」
「おい、どういう教育受けてんのか知らねぇけどよ。遊び半分に他人に矛先向けんな」
「自信ないの?」
「……俺は手加減できるほど器用じゃねぇ。大事な物、壊されたくなかったら外しておけ」




