回想 その2
ヴィロナ視点
ダンジョンから少し離れて場所を確保する。
「ルールは1対1でいい?」
「そうだなぁ。……ダンジョンでは連携を駆使して進むだろ?だったら全員参加するのはどうだ?」
彼の言うことは分かる。個人の戦闘能力で魔物を倒せるのなら確実だけど、そうじゃなくても力を合わせれば足し算以上の結果が生まれることだってある。
しかし──
「それだと人数差が出来るけど、いいの?」
「フッ。笑わせるな。ダンジョンの魔物相手にそんなこと言ってるのか?やっぱり帰った方がいいんじゃないか?」
イラッ
「オッケー。じゃあ……」
4人でアイコンタクトを取る。
私はユティナス、ハロフィムと頷き合って、最後にウィレムアと目を合わせた。
「よし。みんな行くよ!」
メンバーを決めて前に出るが向こうは白髪の男性が前に立っていた。
「合図は……これが落ちたらでいいか?」
彼は適当に拾った石を見せて言った。
「分かった。でも、私達がやる」
叩きつけたとしても不意打ちされないだろうけど、念の為。
「いいぞ」
私は適当に石を拾って上に投げた。
石が宙を舞っている間。彼は胸元を握って目を閉じていた。見れば首元からはチェーンのようなものがあったのでネックレスとかだろうか。
ドサッ
私達は一斉に動いた。狙うは彼ではなく後ろの女性たちだ。
普通に考えて私とハロフィムの2人をひとりで止められる訳が無い。
故に後ろで傍観している2人の元にひとりは辿り着ける筈だった。
「流石にそれは看過できないな」
いつの間にか視界が反転し、背中に衝撃が来た。横を見ればハロフィムも同じように戸惑っていた。
「互いが互いを試してる気でいるってことか。面白い」
彼は笑っていた。そして、その両手には私とハロフィムが着けていた軽金属の胸当ての一部が握られていた。
「俺は事前に言ったよな?大事な物は外しておけ、って」
彼は邪魔にならないように後ろに捨てた。
私とハロフィムは距離を取る。それは彼を警戒してのことではなく──
「燃えたぎる結晶」
──仲間の邪魔にならない為だ。
周りには草木が十分生い茂っているが、ウィレムアは使い魔である黒天馬に跨りながら魔法を上手く制御して範囲を制限することで燃え移るのを防いでいた。
彼は左腕を軽く振るうとウィレムアの魔法を掻き消した。
「ッ!まだ足りない」
ウィレムアは去年ラティアスに言われたことを気にしていた。魔法により魔力を注ぎ、練度を上げた。しかし眼下の男には通じていない。
「……もっと。もっと圧縮して──」
ウィレムアが集中しようとするも空を飛んでいるにも拘わらず接近を許してしまい叩き落され魔法が放てない。
本来なら私とハロフィムで対処しないといけないのだが、片手間のようにあしらわれてしまっている。
「ハロフィムは大回りで向こう行って!」
私とハロフィムが相手にされていないなら、ひとりでもユティナスの回復があればどうにかなる。だから私はハロフィムに別行動を頼む。
金属製の防具ですら紙屑の如く破れてしまう彼でも聖剣には影響を及ぼしていない。それは優しさからなのか能力の制約からなのかは分からない。
けれど何代にも渡り継いできた聖剣はその姿を一度も変えることなかった。聖剣の能力については伝承に頼る部分が大きいけど破壊出来ない何かがあるのは間違いなかった。
「たかが模擬戦。ここで防具を失えば嬢ちゃん達は出費が痛いだろ?引いとくのが一番だと思うんだが……」
「そうかもしれない。ここまでやれば貴方が強いことくらい分かってる。でも、やられっぱなしは悔しいでしょ?」
「チッ。悪あがきを!」
ハロフィムが向こう側に着いたようだ。彼が私を殴り飛ばし大きく腕を振って駆けた瞬間、ハロフィムの傍まで移動していた。
相変わらずなんて速さ!
普通ではあり得ない破壊力と移動速度によって常に1対1で戦えるように工夫されている。
「ぐあ!」
ハロフィムがこちらに投げられた。
ユティナスも魔力が限界に近いし、私もハロフィムも防具が殆んど意味をなしていない現状、これ以上戦うのは賢い選択ではないだろう。でも、それを判断するのは次の1手を打ってからだ。
「……燃えたぎる結晶」
彼の戦術の欠点は遠距離攻撃が撃たれてしまうこと。一人ひとり相手にしているのでどうしても時間が空いてしまう。しかし、ウィレムアは使い魔に──黒天馬に乗ってることで移動しながらも魔法に集中出来ていた。
私とハロフィムで稼いだ僅かな時間でウィレムアは1級魔法を放つ。それは先程よりも更に範囲を縮小し、まるで一本の槍のようになっていた。
「……っ!」
魔力も制御もこれまでとは段違いの魔法に彼はギリギリで回避を選択した。だけど足は動いていない。
斜め上空から放たれた魔法は彼の心臓めがけて飛んでいった。しかし、綺麗にしゃがみ、首を逸して本当にギリギリ避けた。
彼の服は肩から襟が燃えて肌を晒すことを許してしまった。
そして、彼の首にかけられていたチェーンが切れた。
服の下から零れ落ちる。ロケットペンダントだ。
その瞬間。彼の圧が変わった。
あっという間にウィレムアの首を掴み取る。
「ハイネ様。それ以上は」
「……」
ギロリとハイネは女性を睨んだ。これまで関わって来なかった2人だった。
「……分かっている」
ウィレムアの使い魔が消えた。意識が途絶えたのだ。
ハイネは空中でそっと手を離した。
青い顔で落下するウィレムアを私は使い魔の戦乙女を呼び出して受け止めさせようとしたが、ロングスカートの女性が受け止めた。
「……彼女は俺が預かる」
「何を言って……」
「殺しはしない。だが、急ぐといい。俺と嬢ちゃん達は時期に敵になる」
そう言ってハイネはウィレムアを抱きながら去っていった。




