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勇者の装備

 僕とナノルルが工房に戻ってみると、どうも表が騒がしい。


「あれは……勇者パーティ、か?」

「私にもそう見えます。しかし、勇者が迷惑行為をするとは到底考えられません」


 ナノルルの工房にいる従業員はナノルルに頼み込んで働いている。その殆んどが何らかの職人で例外なくナノルルと契約を交わしており、ニュイのようなケースは珍しいくらいには忠実に規則を守っている。決して揉め事を起こすような真似はしない。

 また、聖剣も聖級魔法も悪人が使える代物じゃない。だからこそ僕とナノルルが疑問符を浮かべていた。


「だから!親方はオーダーメイドは受け付けてないんです!ここはあくまでも親方が気ままに造った既製品のみを販売しているだけなんです」

「ですが、私達人間の国から武具製作依頼は受けていると聞きます。少なくとも多少の要望なら通るのでしょう?オーダーメイドほどの専用装備でなくとも構いません」


 魔族と人間が戦争をしている今、人間の国からの依頼を受けてしまったら人間の国に与するようなものだ。なので聖女のユティナスはナノルルが人間側だと思っているようだ。


「国の依頼はあくまで、指定した条件にあった物を造った場合に売って欲しい、という事です。それに親方は両方からの依頼を受けていますが、今まで一度も誰かに言われて装備を造ったことはありません。その権利があるのは親方のマスターだけなんです」


 ナノルルは付与の出来、製品との相性が合っているのかを確認する為に適当に造っているのは確かだが、お金稼ぎの側面もあるので需要がありそうな武器や防具を優先していたのは事実だった。


「それでも、お願いします。一刻も早く、アイツのもとへ行かないといけないんです」


 ハロフィムが頭を下げる。剣聖のその姿勢を見て従業員が怯んだ。


「私からもお願いします。私達の装備を……どうか」


 ヴィロナもハロフィムに続く。そしてユティナスも。


「あれ、ひとり足りない?」

「賢者が不在……まるでマスター達みたいですね」

「そうだね。あのとき、エヴァン達は間に合わなかったけど、ルフトの勇者パーティはどうだろうね?」


 僕が抜けたことで結果的に早く魔王を討伐出来た訳だが、欠員になったままでもっと時間がかかっていた可能性だってあった。実際、偶々僕の魂が吸血鬼の身体に入り、ソフィアが眷属になってくれたから生きていられているけど普通なら死んでいた。


「まあ、賢者がいない理由が同じとは限らないから、考え過ぎかもね」


 裏口から工房に入り僕は奥に隠れることにする。

 僕が生きていることとナノルルの関係者だと言うことは未だに公表していない。だからハンターのクランにも全く顔を出せていなかった。


 ルフトに来てすぐに服用した飲み薬で少し年齢を上げているからスカイ学院に通っていた頃とは雰囲気が多少異なるだろうけど、顔見知りにはあまり会いたくなかった。



 ナノルル視点


 マスターの姿が見えなくなると勇者パーティの方へ足を向けた。


「あ!すみません親方。すぐに帰しますので」

「いえ、少し話をする為に来たのでその必要はありません」

「「「本当ですか!?」」」

「はい。どうぞこちらへ」


 私が貴族や商人、高位冒険者やハンターなどと話す応接室へ3名を連れて行く。


「本日はどのようなご要件でしょう?」

「私達の装備を用意して頂きたい。それも出来るだけ早く」


 ヴィロナの端的な物言いから焦りが窺える。その姿勢もどこかソワソワしている。


「それはここにいる3名の、と受け取ってもよろしいですか?」


 3人は顔を見合わせた後、私の言葉を肯定するように一斉に頷いた。


 賢者ウィレムアの装備が十全に整っている可能性は否定出来ないが、一緒に来ないとは考えにくい。


「私達が欲しいものは──決して壊れることのない破壊不能が付与された防具です」

「それがどのような代物なのか理解していますか?」

「はい。勿論です」


 勘違いする人が多いのだが、ヴィロナが求める破壊不能という付与はあくまで壊れないだけで絶対防御という訳では無い。例えば温度や衝撃などは中身に伝わる。


「では次の質問です。──何を成す為に求めるのか、です」

「あまり他言したくはありませんが、分かりました。私達が欲している理由は──破天から仲間を取り戻す為です」


 ヴィロナの口から出た状況はかつてロノアの勇者パーティが陥ったものとあまりに似ていた。


 破天の称号を持つ者の名はハイネ。魔王最強の矛とも呼ばれる四天王の一角を担う者だ。


「分かりました。では、お断りさせて頂きます」 

「「「っ!?」」」


 ここまで話させておいて断るのか、と言いたげな3人の事などお構い無しに私は続ける。


「まず、防具全てに付与ともなれば相応の時間が必要です」


 付与にも難易度があり、破壊不能は小さなナイフでさえルフトでは付与出来る者がいるかどうか分からないくらいには難しい。だからヴィロナ達は私を訪ねたのだろう。


 しかし、時期が悪かった。今月はマスターが滞在する月。これ以上仕事を増やしてマスターとの時間を削ることは避けるに決まっていた。いくら私とて片手間に出来るような簡単な付与ではない。借りにもマスターが使って下さっている6本の短剣に使っている付与なので相応の準備が必要なのだから。


「完成を待っていては賢者を助けることは現実的ではないでしょう」

「「「っ!」」」


 3名が一斉に息を呑む。


 恐らく私ならすぐに付与出来ると思われたのだろうが、見当違いも甚だしいことだ。


「既製品で気に入ったものがあれば購入して頂いても構いませんが、破壊不能が付与されたものは無いでしょう」

「ご忠告ありがとうございます。それでは、私達はこれで失礼します」


 私は3人を見送る。既に彼女達が破天に挑んだことを示すかようなボロボロの防具を身に付けていることに気づいていながら。 

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