目的
ルシア視点
プラムは太ももを負傷している上にレベル差があるから比較的素早さの高いエヴァンの方が当然速い。もし仮に逃げ切れないとしても、その場合は彼女のステータスは素早さに偏ったものになっているはずなので、エヴァン一人でもなんとか出来るだろう。
私はエヴァンが存在隠蔽を使ったところでプラムに照準を合わせて加速した。
飛翔と存在隠蔽、透過スキルが機能低下し、段々と効果が薄くなっていく。しかし、プラムが私に気づく前に私の足は彼女の背中に触れた。
ドーン!!
大きな音を響かせて着地した私の足元には地面で寝ているプラムがおり、その下には小さな窪みができていた。
「我ながら上手くいきましたね」
魔力が使えることの確認がてらプラムを拘束するために収納庫から縄を取り出した。0級魔法とか言うアンチ魔力の魔法を使える彼女の拘束にはそれが適していると判断したからだ。
「うーん。殺してはいませんけど、完全に伸びてますね」
情報収集の為に生かしたのにこれでは意味がない。いや、連れて帰れば問題ないか。
取り敢えずプラムを担ぎ、飛翔スキルを発動させようとした瞬間。その人物は現れた。
「ちょっと待ってくれないか?」
いつの間にか現れたその人物は片手には囓りかけの青林檎を持っている。
私は目を疑った。そんなことがあるわけがない、と。確かにルフトにはロノアでの知り合いに似た者がいる。スカイ学院の生徒会長であるラティアスと魔王軍のエマモネスがいい例だが、全く同じと言うわけではない。だから私は信じられなかった。彼がここにいることを。
「その子は俺の仲間なんだ」
その男は人間ではない。それは当然だ。何せ彼は──魔王軍にいたのだから。
「何故貴方がここにいるんですか?確かに貴方は死んだと聞いていました。勇者エヴァンによって」
本当はご主人様も関与しているが、表向きはエヴァンの手柄となっている。それに、私が眷属になったときには既に彼は倒されたと聞いていた。だから彼は私のことを知らない可能性がある。
「ほう。エヴァンを知っているとは、お前もロノアの住人か。俺がここにいる理由を教えたら、俺たちを逃がしてくれるのか?」
「この子を逃がしてあげます。元四天王様なら、私程度では抑えることなどできませんよね?」
「なるほど。悪くない取引だな。折角だ。トウヤも聞いていくといい。恐らくもう手遅れだろうがな」
そう言って元四天王であるポアゾム・ファーデルドは私との取引に応じた。
「俺たちがここに来た理由のひとつはルフトの勇者だが、それよりも重要視するものがある。それは──」
ルミナス視点
不味い。彼女の言うことが正しいのは真実の秘薬を飲ませたから間違いない。だからこそ私は全力で飛んでいる。
ルフトの勇者たちへの刺客である禁断の果実のグラフィアは目的を話したら姿を消した。恐らく転移系の魔法具でも持っていたのだろう。魔法具まで封じる手段は持ち合わせていないし、腕輪型の収納庫があればそれも可能だ。
「もう街に行ったの?」
スカイ学院は広い。しかし、比較的見通しがよいので早く見つかると思っていたのだが、迅速な行動により既にスカイ学院の生徒たちは校外へ脱出していた。本来なら良いことなのに今だけはそれが裏目に出てしまった。
魔物の悲鳴が何ヵ所からか聞こえる。Cランクの魔物を一般人が倒せる訳がないのでスカイ学院の生徒たちはそこにいると推測できるのだが、この街にはハンターも冒険者もいる。片っ端から確認するしかないと思い、私は近場から虱潰しに探すことにした。
4ヵ所目を一瞥するだけで通りすぎるとすぐに別の場所へと飛ぶ。
大勢でいるのにこんなに進行速度が早いなんて。もうすぐで街の外壁だけど、見過ごしてないわよね?
もしかしたらもう襲撃されていて、バラバラになっているのかもしれない。だとしたらこんな探し方ではダメだ。
不安になっている最中、ようやくスカイ学院の生徒たちを見つけた。しかし、目的の人物はいない。
「ねぇ、貴女たち。ラティアスは──生徒会長はどこに行ったの?」
「だ、誰ですか?」
「ねぇ。もしかしてルミナス様じゃない?」
「確かに噂通りの綺麗な人だけど……」
突然現れた私に対して警戒を強める生徒たち。しかし、Sランク冒険者として有名になっていたお陰でなんとかなりそうだ。
「何事ですか?」
騒動を聞きつけて現れたのはトウヤの家庭教師をしていたユハナだった。彼女と面識はなく、こちらが一方的に知っているだけだが、問答無用で追い返すような人ではないのが分かるだけでも違った。
「ラティアス・ノルザンシルはどこに行ったのか教えてもらえないかしら。緊急事態なの」
「Sランク冒険者のルミナス様ですね。彼はこの先で戦っています。どうか彼を助けてください」
私は返事をする代わりに飛翔スキルで全力で飛んだ。
検問所に冒険者カードを投げて回収もせずに頭上すれすれで通り抜ける。すぐさまラティアスを見つけることができたけれど、そのタイミングはちょうどラティアスの胸に鎌の先端が刺さっていくところだった。
本来なら間に合わなかったと嘆くのだろうが、私はむしろその逆の感想をしていた。死んでくれて良かった、と。
どうしてラティアスを殺したのだろうか。確かに私は真実の秘薬で聞き出したはずだ。禁断の果実の目的はラティアス・ノルザンシルを連れ去ることだと。ルフトでは上位種はかなり珍しいので生かして捕らえたいと言っていた。だから最悪のパターンはラティアスが誘拐されることだった。
だが、ラティアスが死ねばその使用用途は限られてくる。血液もどんどん腐っていくし、改造して駒にすることも難しいだろう。
既に勇者パーティへの刺客はいない。それも確認済みだ。だから後は──ラティアスを殺した犯人を捕らえられれば完璧だ。
「思わず殺してしまったな。魔力がすっからかんなのにここまでやるとは思わなかった」
なにせラティアス・ノルザンシルを確保する為に動いたのは禁断の果実のリーダーを務めるレシェル・ラニスフェーネなのだから。




