異常事態
エヴァン視点
上から大きな音がしたので非常事態だと思いラティアスへの魔法をキャンセルした。
魔法の障壁を壊された者は誰一人例外なく気絶する。かなり魔力を消費しているだろうけど、魔法無しでもラティアスは十分に戦えると判断したが故の行動だった。
「何してるのよ!さっさとそいつら倒して上にいくわよ!!」
試合がまだ終わっていないが、すぐに終わらせることは可能だ。上で大きな音がしたけど実は何事もない、なんて可能性もあるのでルーエルの言う通り、サクッと終わらせて様子を見に行くのが妥当かもしれないけど──
「いや、それよりも緊急事態ならラティアス会長がいた方が都合が良いはず、ですから……降参してくれますよね?」
緊急時ではパニックになる生徒も出てくるはずだ。そこでスカイ学院の生徒会長かつ去年、一昨年と対抗戦で優勝している彼は他学院の生徒からも多少は人気があるはずだ。
「仕方ない。非常事態と言うこともある。ならば、圧倒されている我々が降参するのが筋か──皆すまない!我々は降参する!!このまま戦えば我々が敗北するのは明白だ。この学院で何か非常事態が起きているならば私は気を失う訳にはいかない!」
ラティアスの呼び掛けにチームメンバー全員が賛成した。元々ラティアスワンマンチームだったのでラティアスが勝ち目がないと言えば素直に従うのだろう。
階段を駆け上がると目の前に広がった光景に僕とラティアス以外は呆然とした。
「チッ!どうやら、貴様の判断は正しかったようだなトウヤ」
「結果論ですよ。まさかここまで大事だとは思いもよらなかったです」
「それは私にも言えることだ。貴様ら何を呆けている。早く校舎へ行くぞ!」
スカイ学院の敷地内に魔物がいた。確かにこれは非常事態だが、それは討伐してしまえばそれで終わり。生徒ならともかく、先生方が力を合わせれば大抵の魔物はどうにかなる。と言うか、Sランク冒険者のルシアとルミナスがトウヤの部屋にいるのだ。正直学院はどうでもいいが、トウヤの部屋は傷つけることは許さないことは手に取るように分かるので彼女たちが事態の収拾に協力すればどんな魔物の討伐だろうと容易いことだ。仮に彼女たちが動かなくとも僕が始末すれば良かった。
しかし事態はもっと深刻だった。ただ魔物がいるだけではない。今のスカイ学院、いやスカイ学院を含む街全体から魔物が産まれているのだ。
ダンジョンでもない場所でも魔物が産まれているのは知っている者も多い。しかし、産まれてくるそれは何一つ例外なく弱い魔物だ。決して視界の中にいるようなAランクの魔物ではない。
流石にAランクの魔物は少ないな。大体はCランクとBランクの魔物か。
教員は既に魔物と戦っているが、魔物が産まれ続けている現象をどうにかしなければジリ貧だ。
僕たちが校舎に向かった理由は情報交換だ。とにかく、どうしてこんなことになったのか把握する必要がある。それと、校舎内に魔物がいるかどうかの確認も兼ねている。校舎には戦えない生徒もいる。どこからともなく現れるCランク以上の魔物を相手に大勢の生徒を守りきれる訳がない。教師は生徒よりも少ないことは当たり前なのだから。僕らのするべきことは一人でも多く街の外へ逃がすことだ。
校舎内に入ると一年生の教室へ直行する。こんな緊急時に職員室にいる教員はいないと思うのでそれぞれ担任、副担任がついてるだろうが、負担が大きいのは間違いなく一年生だ。
そんな考えとは別に実質トウヤの奴隷のナフルルと義理の姉妹たち、数ヶ月前までトウヤに地歴公民を教え魔法を教わったユハナ、数少ない男友達のギーラン、彼女らと彼を最低限助けておけば良いと言う打算があった。
「我々は雲、嵐を見る。貴様ら雪は残りの二つを任せた」
「分かりました。気をつけてくださいね」
「ふん。私を何だと思っている。貴様には負けたが、魔力がなくともBランクの魔物なら囲まれても勝てる」
取り敢えずトウヤが面識のある教師のユハナが副担任を勤めている霧クラスに向かった。
面倒なことに余裕で校舎内でも魔物は湧いている。教室に入った瞬間に生徒を庇ったユハナに襲いかかる魔物を風魔法で上に吹き飛ばし雷魔法で仕留めた。
「ユハナ先生大丈夫ですか?」
「トウヤ様!?助けて頂きありがとうございます。ご無事でしたか」
「今はスカイ学院の教師と生徒の関係なので呼び捨てでいいです。が、それより何があったのか知ってますか?」
今のうちにユハナとナフルル、ついでにトウヤの友人のギーランにもそれぞれ結界を展開させる。正直ギーラン以外は気にいらないけど、これでも元勇者だ。魔力にも余裕があるのでクラスの皆が固まってたのでその集団を囲う結界を張った。
「結界まで……あ、すみません。何があったのか私にも分かりませが、突然大きな音がしたと思って外を見たら学院の外壁を破壊されていて、どんどん魔物が」
外壁の破壊は産まれた魔物の仕業なのか、それとも……。
「取り敢えずこの学院に留まるのは危険です。結界があるのでクラス毎にまとまって行動してください」
「トウヤさ……トウヤ君も一緒ですか?」
「いえ、僕はこれから雨も見に行くので別行動です。それでは、お気をつけて」
名残惜しそうにするユハナに背を向けると雨クラスへと向かった。
取り敢えず全学年の4クラスと個別に守りたい者に結界を張り終えたので、まだ姿を見せないルシアとルミナスを迎えに行く。
「ねぇ。何してるの?」
トウヤの部屋に入ると部屋の物を収納庫に入れてるルシアとルミナスの姿があった。
「見て分からないんですか?ここから出ていくんですよね?ならご主人様の物は全部持っていかないと」
手を休めずにルシアはそう答えた。
「……やっぱり、もう帰って来ないと思う?」
「当たり前じゃない。むしろ、何でこんなに魔物が産まれる場所に帰ってくると思うの?この学院はまるでダンジョンなのよ?」
ルミナスの言う通りだ。全員生きて逃げられたとして、ここの再利用はまずしないだろう。生徒が学ぶ環境としては適していないことは誰が見ても分かる。
「そうだよね。こんな場所、ルフトの高ランク冒険者ですら住みたくないと思う……よし、僕も手伝うよ。片付けてないところある?」
「あとはナフルルとか言う女が使ってる部屋くらいじゃないですか?あそこにご主人様の私物があるとは思えませんが」
「そこは放棄しよっか。トウヤのものがあればいいし」
すみません短いです




