準決勝
あけおめです
エヴァン視点
僕が訓練場に入るとラティアス会長たちが既に待っていた。
「貴様がここまで来るとは思いもよらなかったぞ」
「それはお互い様ですね。僕もラティアス会長が勇者パーティを退けるとは思いませんでした」
僕はトウヤではないから彼のことはよく知らない。だけど勇者パーティが負けるなんて思えなかったので嘘は言っていない。
僕が15の時はもう魔王はいない。魔王討伐にはトウヤの協力があったとは言え、トウヤを除いた勇者パーティでも四天王の1人には勝てる実力は備わっていた。ルフトでは魔王の脅威があまり感じられないからあまり鍛えてこなかったのか?
トウヤの眷属は基本的に上位種だし、彼女らだったら勇者パーティにも勝てるだろうけど、ラティアスのチームは彼が一対一の連戦で勝利を納めている。それと同じことをロノアの勇者パーティでやれと言われたら……いや、比較対象が悪いか。僕とトウヤがいる時点で1人じゃ難しいだろう。
「ふん。舐めてもらっては困る。それにしても、あの程度が勇者パーティだとは期待はずれもいいところだ。有象無象よりも頭ひとつ抜けているのは確かだがな。私には遠く及ばない。所詮勇者パーティなど、聖剣や聖級魔法に頼りきった凡人と言うことだ」
「凡人……確かにそうかもしれませんね」
勇者パーティの全員が天才ではない。ロノアではトウヤが四天王になっても魔王討伐に協力してくれたからスムーズに事が運べただけであって、もっと時間がかかっていてもおかしくなかった。もしかしたら未だに魔王討伐を成し得ていないかもしれない。魔王を討伐するのに聖剣も聖級魔法も必須だった訳だし、それさえあれば勇者パーティでなくとも僕の師匠であるイージスさんやカレンさんレベルの者なら魔王討伐が可能だと思う。まあ、その聖剣や聖級魔法が才能にならない筈がないのでそれを除けば凡人なのは何も不思議なことはない。
勇者をやっていた者だからそれがよく分かる。
「この戦い。胸を借りるつもりで行きます」
「ああ。遠慮せず全力で来るといい」
各々がスタートの位置に着く。試合開始の合図の直後。僕は最速で3級雷魔法電気の一線をラティアスに向けて発動させた。
彼はすぐさま身体を捻り直撃は免れたが、魔法の障壁に亀裂が走り、後ろにいた後衛の1人の魔法の障壁を貫通し訓練場の壁に穴を開けた。
普通の3級魔法ではない。十二分の魔力と制御により下手な1級魔法と同等かそれ以上の仕上がりの3級魔法だ。
「貴様。実力を隠していたな。それを今ここで明らかにした理由は分からないが、面白い!その力。篤と見せてみろ!」
魔法の障壁に魔力を流し元通りに直すと更にその強度を上げた。そして風魔法を使ってまで加速し一気に距離を詰めてきた。
僕は法剣ニルボロフを取り出し振り翳された爪を受け流す。その際にニルボロフから電気が発生し爪を通してラティアスの魔法の障壁にダメージを蓄積させる。
「呼ばれなくても私の登場!」
「っ!?」
ルーエルが突然ラティアスの背後に現れ大きな声で自分の存在をアピールする。
何事かと気をとられたラティアスの隙を突いて1級の雷魔法、迸る紫電を確実に当てにいく為に広範囲で放つ。
当たりさえすれば感覚を麻痺させることで致命的な隙を生み出すことが可能な魔法。ラティアスが僕にその発動を許してしまった時点で当たることは必然的であった。
「ぐぅっ!」
迸る紫電の効果で確実に動きが悪く見える。
動揺する相手チームにとって追い打ちをかけるかのように訓練場に雪が降り始めた。
「はぁ。白虎と言えど、この程度か。勇者パーティを実質1人で退けたと聞いたから本気を出そうと決心したのに、これなら運良く勝てたようにすれば良かったかなぁ」
「貴様!その言葉覚えておくといい……!」
「……もしかしなくても声に出てましたか?えーっと、今の言葉は取り消しましょう」
「今更そんなことがまかり通ると思ったのか?」
怒った様子のラティアスの身体は次第に大きくなり、真っ白の毛で覆われ鋭く大きな牙が見える。ギラリと輝く翡翠の眼は僕を睨み付けている。
いわゆる獣化と呼ばれるスキルだろう。獣化は獣人専用スキルで、モチーフの獣になることが出来る。そうなればいつも使っていた武器は使えなくことが多いが、元々手足での攻撃がメインのラティアスにとってはただの強化スキルとなる。
ラティアスが飛びかかってくる。感覚が麻痺しているにも拘らず僕の背よりも高く飛ぶのだから流石は上位種と言ったところか。
ニルボロフを盾に受け流すけど、攻撃が重たい。なんとか2撃目をいなすと一旦距離を取ろうとする。魔法が得意なトウヤのステータスで物理攻撃を得意とするラティアスを接近戦で相手にするのは分が悪すぎる。しかしラティアスもそれが分かっているのか中々距離を離せない。
「私のこと、忘れないでよね!」
ルーエルがラティアスの上から黒いオーラを纏った爪を振り下ろす。しかしそれは人間の子供サイズの土竜によって防がれてしまった。
「ちょっ!誰よコイツ!」
「ラティアスの使い魔だよ。ルーエルはそいつの相手を頼む」
「仕方ないわね。頼まれてあげるっ!」
ルーエルは僕の使い魔ではないので魔力の供給が出来ない。長期戦になれば不利なのはこっちか。いや、初手で1人脱落させているのでファイ先輩たちは数的優位な状況で戦うことが出来ている。ルーエルが居なくなっても不利になるどころか応援がくるだろう。大変なのはルーエルが居なくなってからファイ先輩たちが駆けつけてくれるまでの間だ。
別にあの土竜が加わったところで何か変わる気がしないけど、思わぬ隠し球が飛んでくるかも分からないので手を抜くことはしない。
こんなに動き回れるなんて、迸る紫電が効いていない?いや、獣化する前は明らかに動きが悪くなっていた。例え獣化に状態異常無効化のスキルがあったとしても獣化前の状態異常の影響が大なり小なりあるはずだけど……もしかして、麻痺しててこれってことなのか?それとも、白虎の獣化は状態異常を治す効果でもあるか、その二択だろう。
このままでは埒が明かないと思い飛行スキルと透過スキルを発動する。姿が見えなくなり空中へと移動することで一方的に魔法を撃ち放題の予定だったが、ラティアスが大きくジャンプして繰り出された風魔法を伴った爪撃が僕を襲う。
くっ、ラティアスは何かこっちの居場所が分かるスキルを持っているのか?
風魔法で空を自由に飛ぶ白虎はそれはそれは厄介なものだ。
と言うか獣化は良くて超級魔法が禁止とか調整ミスりすぎでしょ!
魔法学院を名乗ってるのに禁止魔法があることに不満を抱く。地下が崩壊すると学院が沈むので仕方ない事だろうけど何級の魔法を使ったとしても問題ない会場を用意してくれても良いだろうに。
風魔法でラティアスの魔法をかき乱しバランスを崩すと力いっぱいにニルボロフを振るう。
攻撃のステータスが低いせいであまり火力が出ておらず魔法の障壁が僅かにひびが入った程度なので電気の一線で追撃する。
ラティアス以上の魔力を使った風魔法で乱しているため彼の風魔法での回避を許さない。上手く風魔法が発動しないことを悟ったラティアスは魔法の障壁に魔力を全力で注ぎ防御に徹する。
ラティアスが地面に落ちると電気の一線をもろにくらい魔法の障壁がバキバキになって元の姿に戻っていた。いつの間にか土竜が消えていることからもはや使い魔を使役するだけの魔力が残っていないのかもしれない。
「これでもう終わりです」
トドメの魔法を放つ直前に上の方で大きな音がした。
ようやくこの章の終盤にきました




