聖剣の代償
ラミューラ視点
いつからだろう。こんなにも言葉遣いが悪くなったのは。昔はもっと丁寧に話していたはずだ。
聖剣を最も上手く扱えるという理由だけで剣聖という称号を賜り、多少の剣技は身に付けたもののエヴァンには程遠い。聖剣がなければただの劣化もいいところだった。
ストレスが原因なのかは分からないが、剣聖として勇者パーティで活動していく中で段々と言葉遣いが荒くなっていることに気が付いたのはトウヤに指摘されてからだ。
あれは確か……そう、トウヤが勇者パーティを去る少し前だったか。
「ラミューラ。ちょっといい?」
夕食を終えて席を外そうとしているとどことなく神妙な様子のトウヤに声をかけられた。
「別に良いけど」
パーティを結成してもうすぐ3年になる。仲良しと言う程ではないが、邪険にするほど仲が悪い訳ではないのでトウヤに促されるままに宿屋から出た。
そのまま町を出て近くの森を進んでいくと小さな池が見えた。月が水面に写り綺麗な景色だ。トウヤは大きめの石に腰かけると私も付近の石に座った。
「こんなところまで連れて来て、どうかした?」
「少し気になることがあってさ。……その聖剣、ラミューラはどう思う?」
私がいつも身に付けている二振りの剣を見ながらそう聞いてきた。
「どうって、うーん。凄い剣、とか?」
「あはは。確かに凄い剣だね。でもそういうことじゃなくてさ」
「?」
「ラミューラはさ。随分変わったよねこの3年くらいで」
話題が変わった。さっきの質問は何だったのか。
「唐突だなぁ。……それだけ経てば誰だって変わるものじゃない?」
「それはそうだけどほら、最初はちょっとお嬢様みたいだったけど、今は見る影も無いよね」
「そう?私には分からないけど」
嘘だ。本当は薄々気づいていた。ほんの少しずつだけど確実に自分が変わっていることを。それでも好き勝手に私のことを言う彼の言葉を少しでも否定したくて、嘘を吐いた。
「エヴァンやリリアーナは3年前もあんな感じだよね?」
「そうかな?2人とも成長してるんだから多かれ少なかれ変わってるところはあるでしょ」
エヴァンは元々正義感が強く正に勇者だと思うくらいの人格者だ。それは今も変わらない。
リリアーナもトウヤに恋してるという点以外は特に変わらない。いや、2人とも成長してるから全く昔のままという訳では無いけど根本にあるものは揺らいでいないのだ。
それに比べて私はどうだろう。口調も仕草も変えた。いや、そういうことじゃない。今の私には人々の為に何かをするという志が失われていっている気がするのだ。それは私を形作る根本的な何かと等しい気がする。
「そうだけど、そうじゃなくてさ。何て言えばいいかなぁ。本質が変わらないって言うのかな?その人らしさみたいなものだよ」
「あんまり分からないや。もしかしてそれを言いにここまで連れてきたの?」
「半分はそうかな」
「もう半分は?」
「ちょっとだけ頼みたいことがあるんだ。少しの間だけでもいいから聖剣に頼るのを辞めて欲しい」
「え?」
何でそんなことを言うのか理解出来なかった。聖剣がなければ私は剣聖たり得ないのに。
「それは無理な相談だなぁ。私から聖剣を取ったら何が残るって言うの?」
「でも、今まではまだ強敵と出会ってないからなんとかなってきただけで、このままだと──「黙って。話はもう終わりだから。先に帰ってる」
それからしばらくして、トウヤの懸念していたことが当たった。聖剣に頼りきりになったことが弊害になり魔王討伐への足取りはどんどん重くなっていった。そして、私の心も……。
魔王を討伐してからオレは聖剣を使うことが極端に減った。それからエヴァンの身体に乗り移ったトウヤに出会うまでにオレは剣聖について調べていた。一応最後の四天王を探せという命令はあったもののエヴァンが乗り気じゃないみたいで、殆んど3人の行きたい場所を巡る旅だった。
勇者パーティの物語は大抵魔王を倒して世界に平和が訪れました、で終わる。数多く存在する勇者パーティの中でも選ばれたパーティの物語を広めているのは子供向けに調節しているからなのだろう。オレが今回調べたかったのはその他の勇者パーティの方だ。
調べていて分かったことは剣聖は途中で命を落とすことが多く、闇落ちすることもあったのだとか。闇落ちするのはたった一例だったが、これが一番興味を引いた。
闇落ちするのは剣聖がとある吸血鬼を命懸けで倒した直後。すぐに勇者が倒したようだが、仮にも勇者パーティの一員である剣聖が何故そんなことをしたのか。
もうひとつ気になることがあり、剣聖だけは闇落ちまではいかないまでも素行が悪くなることが多い。4人の内の剣聖だけが、だ。
剣聖と他の3人の違いは何なのか。それは恐らく聖剣の数だ。実際オレは聖剣を使わなくなってからは変わった様子は無い。魔王討伐のときに修行として聖剣を使っていないときもそうだったからそう思い至った。
そうと分かれば今度は聖剣を調べた。エヴァンが使うエルメドートとオレが扱うユニヴェルクとノンエラスは一体どんな違いがあるのか。結局それが何なのか分からなかったけど、戦うことで悪影響を及ぼす事は確定だろう。
オレはそんなことを思い出しながらエマモネスに聖剣を向ける。
「ユレイニアが破られればその程度か?」
「はぁ、はぁ。言ってろ!」
二振りの聖剣があればユレイニアの猛攻を難なく対処することが可能だ。
「出来なければこれは使いたくなかったが、仕方ねぇ」
そう言ってエマモネスが取り出したのは赤い液体が入った小瓶だった。
ゴクン
エマモネスがそれを飲み干すと雰囲気が変わった。
エマモネスは何を飲んだんだ?ある種の補助魔法だとは思うが、あんなの見たこともねぇ。
「それが切り札ってことか。だが、多少ステータスが上がった程度でオレとの差が埋まると思ってんのかよ!」
オレが駆け出すとエマモネスはユレイニアをクロスさせながら振るい、道を阻む。聖剣で断ち切ることは出来たが、何だ?この感覚は。
それからも無数の糸を切り裂き、エマモネスへ攻撃を浴びせるが、未だに致命傷を負わせることが出来ていない。
そうか分かったぞ、この感覚の正体が。心が濁っていくのが早いのか。
聖剣を使い続ける代償とでも言うのか、それが大きくなっている。このまま長期戦になるのはダメだ!
「小賢しい真似してくれるじゃねぇか」
「……」
もうエマモネスはオレの言葉に反応しないようだ。奴は能力を上げる為だけに全てを賭けたのだろう。その甲斐あってかユレイニアの強度や速度が上がっていることでオレは苦戦を強いられている。
チッ決めきれねぇな。ユレイニアを使った立体的な動きと手数の多さが厄介でこっちが思うように攻撃出来ねぇ。
だがエマモネスの動きに慣れてきたのは確かなのでユレイニアが蔓延る空間を強引に突き進み、移動に使おうとしていた糸を先に切るとエマモネスに聖剣を突き刺した。
エマモネスの口からも血が溢れる。二振りの聖剣を抜き血を払ってトウヤたちを追いかけようとしたが、エマモネスがユレイニアで無理やり身体を動かしオレをこの場に留めようとする。
「まだ戦えるってか?冗談キツいぜ。身体に聖剣ぶっさしたのによ」
例え瀕死だったとしても見逃す訳にはいかねぇ。コイツはここで殺しきる!




