再会
僕のノーヴァンフロスの先端がグラスの眉間に向けられ、グラスの細剣が僕の喉元に吸い込まれるように向かってきた。
僕は眷属がいれば死なない。それはこの姿になって初めてソフィアを眷属にしたときになんとなく分かったことだった。
本来、無理やり魂を別の身体に移す行為などするものなら死ぬはずだった。事実僕とレネッフェ以外は死んでいる。僕だってソフィアが眷属になってくれなかったら死んでいただろう。レネッフェがどうやって生き延びたのかは分からないが、十中八九彼女の特殊スキルが関係してるはず。
そこで、ふと疑問に思う。僕は眷属がいる限り死ぬことはないだろうが、眷属はそうではない。エヴァンの身体を借りている今、死に直面するようなことが起きた場合どちらが死ぬのか。試してみる、なんてリスクの高すぎる行為は出来ない。出来るはずがない。
ルーエルはどうなるのかな。
全く姿を見せない使い魔のことを考える。僕が死ぬとしたらエヴァンの身体と一緒になるだろう。エヴァンは僕の身体だと能力が制限されるみたいなのでルーエルを呼び出すことは多分出来ない。
「ルーエル」
思わずボソッとそう呟いた。細剣が喉に届いた直後。白黒の翼の熊がその爪を使い強引に細剣の軌道をずらした。それと同時にノーヴァンフロスでグラスの仮面の上から眉間を撃ち抜く。それと同時に僕はノーヴァンフロスを消した。
「危なかったわね。私だから間に合ったのよ?感謝しなさい」
ルーエルがいつものように上から目線で言った。
「ルーエル、どうして。今まで何も反応がなかったのに……」
「それよ!トウヤがルフトにもロノアにも意識を移動させるから出てくるのにも一苦労なんだから!」
「それは……ん?ちょっと待って」
そもそも、どうしてルーエルはロノアにいるんだ?
ルーエルはあくまでもルフトで契約を交わした使い魔に過ぎない。それに、どうしてルフトとロノアの存在を知っている?
僕が2つの世界の名前はエヴァンから教えて貰ったもの。つまり、ルーエルが姿を見せなくなってからだ。
「なんで世界が2つあることを知ってるの?」
「私が血染めの天使熊のプリンセスだからよ」
「使い魔の中でも位が高いってことか」
会話が出来るだけでも相当珍しいけど、高位の使い魔はより知識を持っているということなのだろうか。
「私が何を知っていても良いでしょ!久々の再会なんだからもっと感動しなさいよ」
「そんな無茶な……」
出会って1ヶ月くらいしか経っていない時にいなくなったのだ。思い入れは少ないだろう。眷属がいたから、騒がしいペットがいなくなったから寂しい、なんてことも無かったし。あとは普通に忙しかったこともある。
「何よ何よ!だいたい、トウヤは私の扱いが雑なのよ。私はプリンセスなのよ?もっと丁重に扱いなさい」
「あくまでも僕の使い魔だろうに。まぁ、それはどうでもいいか」
僕はルーエルに構うのをやめて細剣が消えているので恐らくは死んでいるであろうグラスに視線を向ける。
細剣が魔剣だったのかな。フェイクの可能性もあるし、確認は必要か。死体蹴りする趣味は無いけど、下手に近づいて生きていた場合は目も当てられないし、仕方ないか。
「ちょっ、無視しないでよ!」
「くっ。もう限界か」
もう魔力がすっからかんだ。取り敢えずグラスは放っておいて、ラミューラを迎えに行きたいけど、ルーエルがいるならなんとかなるか?
ルーエルが以前禁断の果実の錬金術師であるチルリスを魔法無しで相手にしていたときを思い出せば戦力にはならないと考えを改める。
魔力は基本的には自然回復でしか回復しない。例外は魔力譲渡のみだ。
「トウヤ!大丈夫!?」
「大丈夫、とは言い難いかな」
身体が怠い。今すぐ何があるという訳ではないが、もう戦闘は無理だ。グラスは自分を倒せば脅威はないと言っていたけど、どうだろうか。
グラスは嘘を言っていたようには見えなかったが、完全に鵜呑みにするのは危険か。
ここに留まっていても仕方ないので慎重に進むことにする。何かあったら多少の無理をしてでもなんとかするしかない。
「とにかく進もう。でも慎重にね。魔力が無い今襲われでもしたら簡単に死にかねない」
「そんなこと分かってるわ。ほら、行くなら早く行くわよ」
「ほんとに分かってるのかなぁ」
本音を言うなら使い魔だけが入れる亜空間に入っていて欲しいのだが、少しの魔力消費すらしたくないので致し方ない。
ルーエルにグラスが生み出した植物を切り裂いて貰ってから進むこと数十分で僕たちは何事もなくグラスが言っていた地下2階層の一番奥らしき部屋に辿り着いた。
「ここ、だよね」
「地下2階で奥の部屋ってことなら多分そうよ」
「ルーエルと同じ意見だとここじゃない気がしてきた」
「ちょっとそれどうむぐぅ……」
「ここは敵地なんだ。そして僕たちは絶不調なの。静かにしてて」
「喧嘩売ってきたのはトウヤなのに……なんだか釈然としないわ」
扉をゆっくり開けるとそこには四肢を拘束され気絶しているラミューラがいるだけだった。
「拍子抜けね。結局グラスって奴の言ってた通りだったなんて」
「何かあったらもう太刀打ち出来ないんだから喜ぶところなんじゃないの?何で残念そうなのさ」
「だって私殆んど何もしてないわよ?トウヤの喉を貫こうとしてた剣の軌道を変えて伐採しただけよ?」
それだけで十分なんだけどね。
僕たちが騒がしくしていたからなのかラミューラが目を覚ました。
「エヴァン?助けに来てくれたのか?」
「いや、今はトウヤなんだ。今拘束を解くよ。ルーエル」
「全く、少しは私を労りなさいよね」
ルーエルは爪を器用に使いラミューラに傷1つ付けることなく拘束を解いた。
「あ、ありがと。で、こいつはなんだよ。トウヤの仲間ってことは分かるけど、アルアリン砦からここまでの道のりで出会ったにしては仲良すぎるよな?」
「向こうの世界で契約した使い魔だよ。なんでこっちに来れたのかは分からないかな。あと、僕はルーエルとそこまで仲良く無いと思うけど」
「えっ!そうなの!」
何やらルーエルが大きな声を上げているが、何かあればラミューラに戦って貰えば良いので放置する。
「そう言えば貴女はトウヤのなんなの?エヴァン、だったかしら?その人と間違えていたみたいだけど」
「間違えたのは仕方ねぇだろ。トウヤの本体の方で契約したんなら身体が違うことに気付けよ。見た目がまるで違うだろ?」
思わず後者の質問を答えてしまったラミューラ。けれどそれは仕方ないだろう。僕の眷属たちが異常なだけで普通の人は見ただけで今エヴァンなのか僕なのかを判断出来る訳がないのだ。
「ああ!ただのイメチェンだと思ってたわ。だって魔力の感じが同じで私を呼び出せた訳だし。本人確認なんていらないわよ。それで、トウヤとの関係は?」
イメチェンで髪と瞳の色、背格好までも変えるのは中々難しいと思うけど。だからルーエルは何も行ってこなかったのか。
「……トウヤは賢者としてオレたち勇者パーティに所属してたんだよ」
「ふーん。そうなのね。今のうちにトウヤの恥ずかしエピソードでも聞いておこうかしら?」
「ラミューラ。絶対に話したらダメだからね。そんなことしたらこの一件が終わったらラミューラの恥ずかしい昔話を酒場で話すから」
「話さねぇよ。それよりもオレの聖剣知らねぇか?」
そう言えばグラスはラミューラの居場所しか言っていなかったな。どうせなら教えてくれれば良かったのに。
「ラミューラの居場所だけ教えて貰えたから先に迎えに来ただけで、まだ全然探してないんだ」
「そっか。なら早速探しに行こうぜ」
「それは明日にしてくれないかな?明日はエヴァンに変わる予定なのと、もう魔力が無いからそろそろ休みたい」
まだまだラミューラは元気な様子だが、流石に僕の方は限界だ。
「あ、悪い。そりゃそうだよな。めっちゃ強い仮面つけた奴とあっただろ?」
「ああ。グラスのこと?辛勝だったよ」
「流石だな。そう言うことなら早く休めよ。オレが見張っとくから」
「そうさせて貰うよ」
ルーエルだと心許ないから多分のリスクを背負ってでもラミューラと合流したのだ。これでようやく休める。
ようやくルーエルの登場です。




