ルフトの勇者
ふとこんな噂が耳に入ってきた。
勇者が学院対抗戦に出るらしい、と。
魔王がいるなら勇者がいる。それはルフトでもロノアでも共通の認識だ。しかし、今代のルフトの魔王は人間と手を取っている。つまり平和なのだ。そんな平穏な日常を壊してまで「勇者に魔王を討伐してこい」などと言う者は一部の貴族くらいだろう。
ロノアとは違ってステータスが閲覧出来るルフトでは生まれ持った才能で勇者かどうかが分かる。そしてこれは剣聖、賢者、聖女の3人も同様だ。ステータスを強制的に表示する方法は無く、あくまでも自己申告なので秘匿することも可能だが、そんなことをした事例は一度もない。なので、勇者たちはそういう星の下で産まれたのでは、とされている。
ヴィロナ視点
私が勇者と分かったときには既に世界は平和だった。魔王がいない訳ではない。だが、魔王を討伐する必要が無くなったのならば勇者パーティが結成される理由も無い。
しかし勇者というのはそれだけ強いということでもあるし、これから起こるかもしれない何かに備えるという意味も兼ねて勇者、聖女、賢者、剣聖の4名は同じマリン学院に入学した。
全員が同じ学院なのはパーティを組む場合、お互いに全く知らないよりもある程度は知っていた方が良いから。当然、学院対抗戦には勇者パーティ、などと言われ参加することになった。
勇者パーティは魔王を討伐することが出来る存在。それぞれが単独でも十分強い。それがパーティともなればいくら私たちが学生とはいえ、相手が同じ学生では相手になるはずがない。
対抗戦では勇者と剣聖は聖剣を使わないし、聖女と賢者も聖、超、特級魔法を使わないことになっているが、その程度では結果が変わることはないだろう。
「あまり面白そうではなさそうね。貴女もそう思うでしょ?」
「……」
私は自分そっくりの使い魔に話しかける。純白のドレスアーマーを着た戦乙女。喋れない訳ではないが、寡黙な彼女とは言葉が無くともある程度の意志疎通は容易に出来る。まだ出会って半年も経っていないにも拘わらず、まるで幼なじみのように不思議と考えてることが分かるのはやはり使い魔だからなのだろう。
「え、違うの?確かにイベント事にはハプニングがつきものだけど、結局、優勝は私たちってことは変わらないわ」
学院対抗戦は計16パーティでのトーナメント戦で開催地はスカイ学院になっている。アウェイかもしれないけど、勇者パーティが歓迎されない、なんてことは無いと信じたい。もし仮にアウェイでも私たちがそんなことで負けるとは考えられない。言ってしまえば魔王城なんて完全アウェイの場所で魔王と戦うことになるのだから負ける要素など無い。
「そう言えば、スカイ学院って男の魔法使いがいるらしいわね。気になるの?……え、そうなの!?」
コクン、と頷く彼女に少し驚きながらその真意を聞く。
「そ、それは、その、何?どういう意味なの?」
「……?」
「ただ単に珍しいから気になるとか、何かがありそうだから気になるとか、……とにかく色々あるでしょ?」
彼女はしばらく考え込んでから首を振る。
「直感、ね。忠告してくれてありがと。貴女の感はよく当たるもの。それだけで信用出来るわ」
何があるのかは分からないが、何かあるということだけは分かっている。何も知らないのと何かあることだけでも知っているのとでは、その違いは大きい。
「着いたみたいね。ほら、行くわよ」
馬車が止まり、窓の外にはマリン学院と同じくらい大きな学院が見える。恐らくはあれがスカイ学院なのだろう。
トーナメント戦は4ブロックに分けて4つの訓練場で平行して行われる。スケジュールは初日は午前に1試合、午後に2試合行い、4ブロックそれぞれの勝者を決める。翌日には各ブロックの勝者のトーナメントの準決勝その1を午前に、その2を午後に行い、更に翌日には決勝って感じの全3日間になっている。
私を含めた勇者パーティの面々は各自で当日に到着するので、もう既に午前の試合が始まっているはず。学生はそれぞれ教室にて光魔法で試合の映像が写し出されるので各学院の生徒や先生までもが今頃、教室にいることだろう。その証拠に校舎からは歓声が時折聞こえてくる。
「試合も気になるし、控え室はどこかしら?」
控え室はチーム毎に特別棟にある部屋で代用している。チーム名とメンバーの名前が書かれた看板が置かれている部屋が控え室のようだ。
既に私以外は揃っており、次の次に対戦するかもしれないチームの試合を観ていた。
「あ、ヴィロナ。遅いよ。もう終わっちゃったじゃん」
「え、そうなの?まだ始まって少ししか経ってないわよね?」
剣聖であるハロフィムが真っ先に私に気付いて声をかけてきた。
見渡してみれば画面が4等分にされ、それぞれが試合の映像を映しており、その内の1つが既に暗転している。
「それだけ強いってこと。前回の優勝チームのリーダーを務めていたラティアス・ノルザンシルの率いるチームだったはず」
「勝てそう?」
「愚問。勝つ」
賢者のウィレムアの言葉は淡々としており、あまり興味ないように感じるが、私自身も優勝を確信しているのでお互い様だ。
「早めに昼食にしましょう?ウォーミングアップの時間は確保しておかないといけませんし」
「ユティナスの言うとおりね。どんな戦いでも慢心せず挑まないと」
いつもよりも早い昼食を取りに食堂に向かう。場所は確か1階だったはず。
「トウヤさんはそれだけで良いのですか?」
「はい。試合前ですし、重たいのは遠慮したくて」
「それでも野菜だけはおかしい。お金なら大丈夫。私が奢る」
「大丈夫ですよコレット先輩。気持ちだけ受け取っておきます」
「でも、次の試合に勝てばもう1回戦あるんだし、何か追加で食べた方が良いよ。ほら、あーん」
「ちょっとライカ先輩!」
全く。公共の場で何してるの?
一体どんな人物なのかとチラリと見てみてすぐに目を逸らした。
「トウヤさん?どうされましたか?」
「どうやら見られてたようですよ。一緒に食べますか?お姉さん方」
広い食堂でそれなりには離れていた。それに見たのも長く見積もってもたったの2秒。それでも目を逸らす直前に目があった気がした。相手が声をかけてきた今それを確信する。
「それは光栄ですね。ロローシュ辺境伯の養子で学院に通う男性の貴方様直々のお誘いを頂けるなんて」
そう言ってユティナスは迷わず隣のテーブルをくっ付けに行った。
「貴女方は勇者パーティですし、今回の優勝候補筆頭ですからね。気になりますよ」
勇者としての活動なんて殆んどしていないが、有名にはなるのだろう。だが、顔まで分かるものだろうか?名前を知っている、とか聖剣を見たことがある、などでバレることはあるけれど、今回は名乗っていないし、聖剣を持ってきてすらない。
「なんで分かったの?」
私はつい気になって聞いてしまった。
「男なら勇者パーティに憧れるものですからね。調べるのは当然ですよ」
彼は微笑みそう答えた。それが私とトウヤの初めての会話だった。
ついに対抗戦が始まりました。
勇者は水色の髪で碧眼
聖女は銀髪銀眼
剣聖は赤髪金眼
賢者は白髪翠眼




