魔剣
グラスの位置は魔力で分かる。だけど、僕が普通に見えている訳ではなく、魔力を視ていることがバレたときはどうしようもないハンデになる。魔力を帯びていない武器で戦うなり、厄介なことは多い。そして、それに気付くのも恐らくは時間の問題だろう。
「そう言えば貴様。その剣は聖剣では無いが、聖剣はどうした?まさかとは思うが、この僕を相手にまだ手加減しているのか?」
沸々と煮えたぎるようにグラスから魔力が溢れる。それはグラスの心情をそのまま現した結果なのだろう。
「とんでもない。ただ、今は使えないだけさ。グラスも魔剣はどうしたの?仮にも僕は魔王を倒したんだ。侮ってもらっては心外だね」
すると何を思ったのかグラスは不意に笑い出した。
「クックック。ハッハッハッ!この僕が相手の技量も分からない雑魚だとでも?安心しろ既に魔剣は使っている」
グラスが接近してきたと同時に後ろから植物が僕の行動を制限するかの如く枝葉を伸ばす。
僕とグラスを結ぶ道に寄り添う形で左右と上が塞がれる。それを切り落とし左に避けると全速力で飛ぶ。
僕の目的はグラスの撃破ではなくラミューラの救出。彼女と2人でなら僕1人より楽に攻略出来ることだろう。
僅か1分もしない内に頭部を強打した。何にぶつかったのかと触ってみれば、これもまた植物のようだ。
なんだこれ、魔力がほんの少ししか無い。いや、魔力が吸われてるのか?
つい先程まで頭から霊にぶつかりまくっていたお陰で怯むことなく追ってきていたグラスの刺突を避ける。
「これで分かっただろう。貴様は僕を倒すしか無い」
空を飛ぶことが出来るのはかなり強力なアドバンテージだ。いかにグラスが跳ぶことが出来ても結局は放物線のように落ちる。追撃が出来なくては決め手に欠けるはずだ。
不意に僕の高度が下がる。必要魔力量が急に増えた感覚に襲われ体制を崩し困惑しているとその隙を逃さずグラスの細剣が僕を左横から貫こうとしていた。
右側は剣を持っているので敢えて左から狙ったのだろう。この対応の早さからしてもグラスが何かしたのは明白だ。
左腕で細剣を受けることを決めた僕は魔法を唱えようとするが、これもまた魔力消費量が上がっている。構わず僕は急いで魔法を発動させた。
ザアザアと雨が降る。ここは地下で、当然空は見えないにも拘わらず降るどしゃ降りの雨のせいで辺りはずぶ濡れだ。僕以外は、だが。
視界を曇らせていた砂は地面に落とされ僕を避ける雨すぐに止みは僕の視界をクリアにしていた。
「仮面、着けてたんだ。それでも見えてたってことは、視ることが出来る特殊スキルか、その仮面が魔剣ってところ?」
「バレてしまったか。視ることに関しては僕の特殊スキルだ」
「そうなんだ。なら仮面はなんで着けてるの?」
「質問ばかりするな。こっちは全身ずぶ濡れなんだ。早く風呂に入らないと風邪を引く」
「それは悪いことをしたね」
さっき急に高度が下がった理由が分かった。天井にある植物。あれが魔力を吸っているのが視えた。多分これも特殊スキルか、魔剣の能力。魔剣を使ってると言っていたから、恐らくはこれが魔剣の能力なのだろうが、魔剣本体はやはり細剣だろうか。仮面かもしれないけど、魔剣は大半が剣の形をしているから魔剣と呼ばれているのだ。わざわざ仮面を着けていることから仮面が魔剣のように思えてくる。
いや、どっちが魔剣でも関係ない……訳じゃないけど、どちらも警戒することには変わらない。幸いにも左腕の傷も貫通してるけど、治りそうだ。魔力消費激しいけど、グラスが最後みたいだし、出し惜しみはしない!
「お詫びと言ってはなんだが。僕の切り札を見せてあげるよ」
漆黒に染まった杖。上の方の先端には真紅の宝玉が埋め込まれている。
もしかしたら取り出せないかと思ったけど、問題ないようだ。
「これが僕の魔剣。死宝の狙杖ノーヴァンフロスさ」
僕は宝玉が無い方の先端をグラスに向けた瞬間にグラスが飛び退いた。次の瞬間にはグラスの後ろにある植物が丸い穴が空いていた。
「よく避けたね。仕留めたと思ってたのに」
「勇者であったはずの貴様が何故魔剣を使える!?」
「そんなことはどうでもいいでしょ」
今度は宝玉のある方をグラスに向けて魔法を放つ。
「黒い弾丸」
無数の弾丸がグラスに降り注ぐ。逃げ場の無い弾幕にグラスは植物を盾にするが、防ぐことは叶わない。最低限急所のみを重点的に守ることで事なきを得たが、グラスの身体は生きているのが不思議なほど出血をしている。足は何ヵ所か弾丸が貫通して穴が空いており立つことが出来ずに倒れる。腕も同様に穴が空いていた。
「まだ生きてるんだ。遺言でも聞こうか?」
「神秘の……しず、く」
ゆっくり歩み寄る僕。グラスは僕の問いかけに何かを口にした。するとあっという間にグラスの傷が塞がり瞬く間に僕の視界が細かい何かでいっぱいになった。どうやら魔力を帯びているようでグラスの居場所は分からない。
またか。時間稼ぎと僕の魔力を削ることには有効だろうけど、もう遅いよ。
再び雨を降らせようとした途端、身体が酷い倦怠感を覚える。
もう時間か。早く終わらせないと。
どしゃ降りの雨が降り、視界が回復するとグラスを探す。見つけた先は僕の背後だった。
僕はノーヴァンフロスの下の先端をグラスの額に向けグラスは細剣を僕の喉元に向けていた。
グラス視点
僕はレネッフェという娘がエマモネスの魔剣を発現させたという噂を聞き僕も魔剣欲しさに王国への侵略を協力した。
なんとか魔剣を発現出来たは良いが、まさかの待機命令が下り手持ち無沙汰だった。
そんな時に剣聖と呼ばれる女を人質として預かるように言われた次の日には勇者が現れた。
僕の特殊スキルは眼に関わるものが殆んどで、魔剣はそれをサポート出来る能力だった。
様々な効果の植物を生み出し操る魔剣──針葉剣リーヴィア──で瓦礫に紛れさせた滞空時間の長い花粉で相手の視界を塞ぎ僕は特殊スキルのお陰で相手の位置を把握出来る。
それからも自由に操れる植物だったり、硬い植物、魔力を吸い取る植物とを駆使して有利に戦っていたが、勇者の魔剣であっという間に戦局が変わった。
勇者が魔剣を使えるものなのか?勇者は必ず人間がなるものだ。そして魔剣は魔族に発現するもの。聖剣は勇者が使い、魔王は魔剣を使うのが当たり前だった。
一体あの勇者は何者だったか。死に行く僕が知るすべはもうどこにも無かった。
今回は少し短いですが、そこそこ良い要素があったと思います。(グラスの魔剣や特殊スキル、トウヤの魔剣など)
これからはルフト側も動き始めますのでお楽しみに。




