エヴァンと雪チーム
エヴァン視点
朝早くから入れ替わった僕は同じベッドにルミナスがいる事実に驚愕する。それを良しとしているルシアに対してもそうだが、トウヤがルミナスと寝ることを許容していることが、だ。
落ち着け。ルミナスが勝手に入り込んで来たか、不足の事態でベッドが足りない……いや、それはルシアがいない時点で違うか。とにかく何か事情があるに違いない。トウヤは僕たち眷属には甘いから大抵のことは仕方ないで済ますだろうし、可能性ならいくらでもある。少なくともルシアが何もしていないだけの理由はあるはずだ。
「ルミナス。起きて」
「……んー。この雰囲気はエヴァン?はぁ。もうそんな時間なのね」
「悪いけどトウヤとの約束だからね。それにしても流石だね。すぐに僕だと分かるなんて」
「これくらい誰でも出来るわ。そんなことより時間が無いから早くルシアを起こしにいくわよ」
部屋から出ると既にルシアは起きていて武具の手入れをしていた。中にはトウヤの物もある。
「~~~♪~♪~~♪今日はご主人様がダンジョンに潜る日ですし、しっかり磨いておきましょう」
「ルシア。ちょっといいかしら?」
「何ですか?今忙しいので後にしてください。エヴァンは早くご主人様と入れ替わりましょうね?」
一瞥もせずに僕だと分かる彼女は普通に異常だろう。見た目は同じなので仕草でバレるのは分かるが……足音だろうか?または僕を手入れしていた刀身に写して見たのかもしれない。
「それには同意だけれど、そうはいかないみたいなの。時間が無いわ。手入れしながらでいいからエヴァンに状況説明をしないと」
事前に連絡をしていないのでトウヤからの手紙は無いが、ルシアかルミナスにでも聞けばある程度の情報は把握出来る。ルミナスの言う通り、学院があるのでゆっくりしてはいられない。
「大したことはありませんよ。月末にある四学院対抗戦に向けて色々してるだけです。学院ではルシアも着いていくので困ったらそのとき聞いてください」
説明不足にも程があるが、学院でもルシアが一緒なのは心強い。それなら今すぐに根掘り葉掘り聞かなくてもいいか。
「放課後になればそうはいかないでしょう?最近だと訓練場に入れて貰えず、渋々帰ってくるわよね?最低限、雪チームのメンバーについては説明が必要よ」
「……そうですね。一応ご主人様が最低限の保険をかけていたみたいですが、迷惑をかけたくありませんし」
話を早々に切り上げようとしたルシアにルミナスが待ったをかけなければそのまま僕は放課後右も左も分からない場所に放り込まれることになっていただろう。
「元はと言えば貴女に原因があるのだからしっかりしなさい」
「分かっていますよ。では、取り敢えず名前と見た目は学院で探してからとして、チームでの役割を説明します」
どうやらトウヤは四属性も魔法を見せているらしい。闇と水を使えない僕からすれば、どうしてくれるの?と言いたいが、それを補う為に今ルシアが磨いている法剣ニルボロフで誤魔化すようだ。ニルボロフはトウヤが魔剣の次に強い剣として重宝している武器だ。それを僕に貸し出すつもりでルシアに預けていたのだとか。
それにしても、チームリーダーか。男がいるならその人がリーダーになるのが一般的だから変に断ることが出来なかったのかな?
実質的なリーダーはファイって先輩みたいだから大変ってことはないだろうし、特に問題は無い。
問題なのは戦闘での役割だ。そもそもルフトとロノア、両方の世界でも偏りの大きいステータスの種族がほとんどなので必然的にパーティのバランスが重要になる。元はリオという男子生徒が攻撃を得意とした嵐の栄光の天気だったのでそこに雨、雲、霧の先輩がバランスよくチームに入ったのだが、攻撃担当のリオの代わりが隠密に長けた霧の栄光の天気となれば誰が攻撃するの?という話だ。
勇者パーティでは構成とかはあまり気にしていなかったけど、魔攻とか攻撃は気にしていた。アタッカーがいないのは致命的な欠点のあるチームと言わざるを得ない。
「これ、僕がやるとするなら魔攻しか出来ないけど、大丈夫かな?」
「ニルボロフを使うのでなんとかなるのでは?」
「攻撃力足りるかな?トウヤって攻撃ステータスの倍率半減でしょ?防御が高い人だとそこまで効かないよ」
「それもそうですね。それよりも、そろそろ準備して行きますよ」
昼休み。雪のメンバー+ルシアで集まっていた。当然ながら僕は誰一人として顔も名前も知らないのでルシアに呼んでもらった。
「私達を集めた理由はダンジョン探索の件ですか?」
全員が集まって昼食を置いたのを確認して黄色──雲──の制服を纏う白髪で碧眼の少女が僕に聞いてきた。ざっくりとだが、容姿について聞いていた情報ならこの人がファイ先輩なのだろう。
「そうです。近くにダンジョンがあるとは言え、日帰りとなれば交通手段はどうするのかと」
飛行スキルで大抵のところへは飛んで行けるが、流石に4人も抱えて飛べない。まさか徒歩ではないだろう。
「それは私の使い魔に任せて」
僕の疑問に答えたのは緑色──霧──の制服、金髪、黄色の瞳の少女。恐らくコレット先輩だ。
彼女が指を鳴らすとどこからともなく大きなグリフォンが現れた。この大きさなら4人乗ることが出来そうだ。
「これ、初見で乗るのは結構怖いんですけど。事前に連絡してくれたら乗る練習とか出来たのでは?」
「大丈夫です。私にしがみつくか抱きしめられるか選べますよ?」
「流石にそれは遠慮しておきます。今回はルシアにでも送って貰いますよ」
トウヤの身体でファイ先輩に何かするのは僕としては抵抗がある。そして自然な流れでルシアも着いていくことが出来そうなのはラッキーだった。
「そうですか。ダンジョンは貸し切り出来ませんし、構いませんけど、くれぐれも私達の目的を忘れないでくださいね?連携の練習ですよ?ルシアさんに頼ってしまえば何のために来たのか分からなくなってしまいますから」
「分かっています。ルシアは近くにいるだけで、手を出しませんから安心してください」
放課後。僕は飛行スキルがあるので自力でも行けるが、ルシアに送ってもらう体でいくのでルシアに抱きしめられて飛んでいる。
前にはグリフォンに乗った先輩方が見える。目的地はハンターランクで言えば下から2つ目の青銅のダンジョンだ。初めは弱い魔物から慣らしていくのが普通だが、一番下の鉄では練習にもならないと判断してのことだ。
ダンジョンに足を踏み入れた僕たち雪は魔物を探しに奥へ奥へと進んでいく。
「幾ら青銅ダンジョンとは言え、こんなに魔物がいないことってある?」
青色──雨──の制服、毛先は黄色、他は赤髪の赤い瞳の少女。ライカ先輩が僕たちの感じてることを言葉にした。
もうすぐ1時間が経過するが、出会った魔物の数は両手で数えられる程度。明らかにおかしい。
「普通はあり得ません。これなら街の周辺の方が沢山いますよ」
「そうですね。少し前にルミナスと間引き依頼を受けたときは沢山いましたよ?」
何かおかしなことが起きている。この場にいる全員がそう感じてるだろう。ダンジョンより外の方が沢山魔物がいるなんて異常だ。
「とにかく今日はもう帰りますか。明日別のダンジョンに向かいましょう」
その後の帰り道でも魔物と遭遇することは少なく、倒した数は10だった。




