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強行突破

 6月に入ってから1週間と少し。


 ロノアでの出来事が気になっていた頃。不意に視界が切り替わった。


 入れ替わるタイミングはいつも夜中だが、今回は早朝のようだ。まあ、疲れた身体を渡されてもどうせ寝るだけなので、起きてからでも問題ない。


 石造りの部屋には二段ベッドが2つあるだけで、他の家具はスペース的にも無い。明らかに4人一部屋なのでリリアーナとラミューラがいると思ったが、僕1人のようだ。


「?変だな。戦争……まではいかなくても、こういう場合って部屋がそう沢山ないと思ってたけど」


 レネッフェ相手に大勢で挑むのは悪手だと判断したのか?その考えなら分かるが、人類は個としての最大戦力であるエヴァンを依存し過ぎな気がする。つい先月エヴァンを咎人にしようとしていたにも拘らず、酷い手のひら返しだ。


 そんなことを考えながらエヴァンからの手紙を読むことにした。



 状況は正直に言えば悪い。レネッフェは既に王城へ向かっただろう。それも、リリアーナを連れて。ラミューラは魔王城跡地。方向としては真逆の場所だ。


 手紙に書いてある通り、今から動いてもレネッフェに追い付ける気がしない。それなら少しでも戦力を集める方が良いと言うエヴァンの意見に僕も賛成だ。僕からすれば王城が陥落しようが、知ったことではない。


「取り敢えず、行くか」


 やることは決まっている。なら、あとは行動するだけ。レネッフェを放置すれば被害はどんどん拡大していくことは分かる。だからこれは時間との勝負だ。


「とはいえ、正攻法で行くと今日中には終わらないか。死の森自体が攻略に数日かかるし、レネッフェに魅了されてるらしいから、もっとかかりそうだなぁ」


 死の森の中に入ると時間がかかるのならば簡単な話、上から通過すればいいのだ。


 簡単に聞こえるが、死の森の上空は魔力が乱れており、死霊系統の魔物がいる。空を飛ぶことは飛行スキルを習得した者なら可能だが、空中で戦闘は難しい。スキルならともかく、魔法を使うとしても魔力が乱れているので使い勝手は悪いし、接近戦をしようにも機動力が違うので上手くいかないだろう。

 そもそも飛行スキルの適正者が少ないということもあってパーティを組むのが普通のこの世界ではメンバー全てが飛行スキル持ちなんてパーティは稀だ。


 これらの理由によりエヴァンたち勇者パーティは正攻法で攻略したのだが、今の僕は1人だ。飛ぶことを躊躇う理由はない。


 僕はアルアリン砦の上から空へと浮かび死の森に向かって飛んだ。このまま風魔法で加速して速度を出してから突っ切ることも考えたが、レニーナと違い霊だからと言って実体が無い訳ではないのだ。だが、存在隠蔽を発動させれば避けて行くだけでいい。魔力の帯びたものは透過スキルでもすり抜け出来ないのでこれが最速だろう。


「うわ。結構多いな」


 死の森はその名前から分かるが、入れば死ぬ場所として有名な場所だ。開拓が止まったのもそれが原因で、年間多くはないが、死の森で行方不明になる冒険者やらハンターやらが一定数いる。それらがずっとここに留まっているとなれば視界に広がるこの数も頷ける。


 まるで王都にある大通り並みの数だ。これを避けて通ることは神経を使うだろう。


「他の方法なんて思い付かないし……やるしかないか」


 ゆっくり進むなら森の中を突っ切るのと変わらないどころか下手すると余計に遅くなりかねない。最悪ぶつかりながらでも進めばいいだろう。僕のスキルはエヴァンの身体に変わっても使えるから自己再生(超)で回復出来るし。


 僕は意を決して風魔法で自身を吹き飛ばすことで加速し死の森の領空へと侵入した。



 ラミューラ視点


「全く。何でこの僕が留守番なんてしなければならないんだ。理解出来ない。それも、この女の監視をしろ?冗談じゃないぞ。そんな雑用に僕を使うな」


 (あたし)は四肢を拘束して武器を取り上げられ質素な部屋にある椅子に座っていた。目の前でぶつぶつ文句を言っている仮面をつけた魔族と2人きりだ。


 くっそ。油断した。あそこの砦にスパイがいたのか?それとも既に落ちてた?どっちもあり得る話だ。


 二振りの聖剣は奪われここにあるのかさえ分からない。監視の魔族はエマモネス程の実力は無いが十分強い。少なくとも私が無手で勝てる相手じゃないことは確かだ。


 剣聖の称号を貰ったとしても剣が無ければとその真価は発揮出来ない。


「なぁ。坊っちゃん。トイレに行かせてくれよ。それと腹が減ったし、喉が乾いた」

「おい剣聖。貴様が置かれている状況を理解してないのか?別に僕は貴様が漏らそうが、どうでもいい。それと、飯なら今朝食べただろうが!」


 確かに今朝こいつの余り物のおかずやスープを与えられたが、あれから体内時計で8時間は経過している。多少の誤差はあれどそろそろ昼飯でもいいだろうに。


「いいのか?漏らしたら坊っちゃんまで臭いに苦しむはめになるぞ」

「ふん!部下に拭かせればいいだけだ。申し訳程度の布一枚をかけただけの姿なら、取り換えもそう難しく無い。貴様の服は適当に切り刻めば勝手に脱げるだろ」


 装備こそ奪われたものの、裸体にされることはなく拘束された。特に身体に触るわけでも無ければじろじろ見てくるわけでも無い。ただ偉そうなだけだ。


「だがまあ、そうだな。……この僕が一緒なのが条件になるか?女で貴様を抑えることが出来るほど強いやつは大抵出払ってるしな。非戦闘員なら残ってるが」

「坊っちゃんは変態なんだな。まあ、男なら仕方ねぇよ」

「はぁ?この僕が変態?人間なんて相手にするわけがないだろう。大体、この僕がいなければ今頃貴様はもっと酷い目にあっているぞ?」

「分かってる分かってる。それに関しちゃ感謝してるぜ」


 話してみて分かったが、こいつはプライドが高く偉そうなやつだけど、悪いやつじゃない。思いの外真面目に命令を守っているし、こっちの要望を出来る範囲内で叶えようとしてくれている。


「分かればいいんだ分かれば。おい!誰か女で手の空いてるやつはいないか!」


 彼が呼ぶとすぐさま魔族の女性が扉を叩いた。


「お呼びですか。グラス様」

「ああ。悪いが、こいつをトイレに運んでくれないか?当然僕も着いていこう」


 こいつ、グラスって言うのか。聞いたことねぇな。まあ、それを言うならこの見た目すら稀だからなぁ。もしかしなくても訳ありか?


 私は大人しく彼女に運ばれる。トイレに着いて個室の扉を開けたまま座らされるとグラスが顔を逸らした。その瞬間私は空間把握スキルで正確な位置を確認し……っ!


「おい貴様。何をしようとした?そんな安っぽい作戦にこの僕が引っ掛かるとでも思ったのか?」


 グラスが私の首を掴み身体を持ち上げた。


 何で私がスキル発動したのがバレたんだ!?それにこの力。不味い気道の確保が……。


 意識が遠くなる。朦朧とした頭で打開策を考えるが、そんな状態ではいい案が思い付くはずもない。


 ここで終わり、か。ごめん。エヴァン、リア、それとトウヤ。


 意識が落ちる寸前。どこからか大きな音が聞こえた。これが一体なんの音なのか考える時間は無く、そのまま気を失った。

高2の2学期って忙しいんですね。数学の中間の課題の量がエグいのですが……。

それはいいとして、新キャラの髪色とか瞳の色とか書いてないのは描写が上手くいかないので、別に無理して今書かなくてもこれからの戦闘の直前で書けばいいかなって思いまして。

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