強制参加のチーム
エヴァンが馬車で移動している最中。僕は今、生徒会室にいた。予定通りならば月末に集まるはずが、今はまだ6月が始まって間もない。
集まった理由は──
「おい。この短期間に貴様は何をしてる。この私の耳にまで聞こえているぞ」
「クラスメートを多数保健室送りにし、新米教師を誑かす。挙句の果てにはあのルシアを連れてきて授業中イチャイチャする始末。厄介事の塊だな。先月までの大人しさはどうした?」
ラティアス会長の一言にハドロン副会長が“何”の部分を言葉にした。
「ルシアのことはともかく、前の2つは悪意のある説明だと思います。すべて不可抗力です」
「ふん。まあ、いい。そういうことにしておいてやる。集まって貰ったのは他でもない。今月末に行われる四学院対抗戦に参加する予定だったリオが魔族領へ戻ったことで1人分、枠が余っている件についてだ。新たに選考してもいいが、それでは決めるのに時間がかかる。楽なのは男子生徒が立候補することだ。今一度問うが、ハドロンとギーランは出るつもりはないか?」
「俺はパス」
「僕も遠慮しようかな」
嫌な予感がする。ただの雑談として僕の話題を出した、なんてことはないのだろう。それと、なんで僕には聞かないのかな?
「僕も「貴様が出ろ。トウヤ。あれだけのことをしたんだ。貴様に拒否権は無い」……分かりました」
流れに乗って僕も参加しない方向に持っていくつもりが、呆気なくラティアス会長に詰められてしまった。
「これで用件は終わりだ。トウヤ、貴様は女共と顔合わせでもするといい」
ラティアス会長に言われてやって来たのは星雲レストラン。初めて入ったのはスカイ学院の入試終わりに上位森妖精の眷属──ミシェルが見つけてくれた昼と夜で喫茶店とレストランが入れ替わり、ある一定以上の魔力がない人はここを出た後数分で忘れてしまう、という変わった特徴があるお店だ。
魔力を少しずつ吸われる仕様のこのお店は実力者しか来ない穴場と言っても過言ではない。そこに行けるだけでも頼もしい仲間のはずだ。
事前に待ち合わせの予定を組んでいたってことは僕の参加は最早予定調和だったということか。解せない。
「お一人様ですか?」
「いえ、待ち合わせを」
「そうでしたか」
店内を見渡すと優雅にカップを置く少女がいた。彼女と同じテーブルに後2人いるので恐らくそうなのだろう。
四人席で左奥が空いている。このテーブルは出入口から最も遠い左奥。つまり上座だ。
これは配慮なのか逃がさないという意味なのか。どっちだろう?
「すみません。僕はトウヤと言います。貴女たちがスカイ学院の学院対抗戦に僕と出る方々ですか?」
「その制服はうちの霧クラス、それに男性用のものですね。そう言え年が12の可愛らしい男の子が飛び級入学したと聞いたことがあります。……ああ、すみません。はい。私たちは貴方と同じチームで出ますよ。私はファイ・モルターナ。ファイで良いですよ」
僕の言葉に嘘が無いか服装と自身の記憶で判断したファイ先輩は僕の質問に答え自己紹介をする。それを見た2人も警戒を緩め自己紹介をした。
「私はライカ・ラーヴィット。ライカって呼んで欲しいかな?」
「……コレット・ウルヴェイン。立ってないで座るといい」
コレット先輩に言われ、僕は空いていたファイ先輩の隣、ライカ先輩の前の席に座る。
「何か頼みますか?貴方の分は私の奢りですから遠慮しないでください」
「そうですか?ではお言葉に甘えて。……何にしようかな」
「甘いものお好きなんですか?」
ファイ先輩からメニューを受け取りデザートのページを開くと横から覗きこんできた。
「はい。ここのは美味しいですよね。何度か来たことがあるんですけど、毎回何か頼んでます」
「そうなんですね。何かオススメのやつはありますか?」
「そうですね……期間限定のフルーツタルトとかどうですか?これ1人で食べるには多いですけど、今は4人もいますから」
「……ッ!それは私も気になっていた」
急に瞳を輝かせるコレット先輩。普通のフルーツタルトならミニもあるけど、この期間限定のやつはそんなものは無いのだ。
「トウヤさんの好きなもので良いのですよ?」
「えっと。すみません。正直な話、これが食べたくて提案しました」
ここには眷属とよく行くので初めて食べる訳では無いが、食べたいのは事実だ。……ちょっとお値段もするので申し訳ない気もする。
「そうでしたか。飲み物はどうしますか?」
「リンゴジュースで」
果肉入りのリンゴジュースは飲むというよりは食べる感覚に近い。僕が毎回スイーツと一緒に頼むものだ。
「お待たせ致しました。期間限定フルーツタルトと、リンゴジュースですね」
タルトは中央に、ドリンクは僕の前に置かれた。
タルトを待つ間。特に本題に入ることはなく、雑談をしていた。それは中途半端なタイミングで会話が途切れることを考えてのことだろう。だが、今はもう、誰かが介入するの可能性は限りなく低い。強いて言うなら眷属くらいだろうか?まあ、その場合は少し話し合う必要があるが。
「そろそろ本題に入りましょうか」
ファイ先輩の言葉に僕を含め皆頷く。早めにやることをやるのは賛成だ。タルトを食べ終わる頃には帰りたいし。
「まずはこのチームの代表はトウヤさんでよろしいですよね?」
「ちょっと待ってください。どうして、さも当然なことのように僕が代表なんですか?」
確認作業のような感じで言うけど、僕からすればファイ先輩が適任だと思う。
「男性がリーダーなのは普通ですよ?リオさんがいたら彼がリーダーでしたし」
「そうね。何かと優遇されることが多いし、女性がなるメリットはあまり無いかな?」
「トウヤがどうしてもと言うなら変えてもいい」
「大丈夫ですよ。リーダーなんて名前だけですから」
「そこまで言うならそれでいいです」
1日交代だからあまり面倒なことしたくないけど、名ばかりのリーダーをやるだけで優遇されるならやるしかない。これがエヴァンを助けることになればいいけど。
「次にチーム名です。何か案はありますか?」
「リオの時はどうしてたの?」
「それが、まだ決めてませんでした……」
どうやらメンバー選考が思いの外時間かかってしまっていたらしい。それと、リオが「名前なんかどうでもいい」と言ったので後回しになったのだとか。
「でも、私は考えていましたよ?スカイ学院のクラスは霧以外天候ですよね?」
「嵐は怪しいと思うけどなぁ。雨、曇はともかく」
「ライカは黙っててください。……そこで、雪というのはどうでしょうか」
「……何気なく自分の魔法が関連する名前にするの、良くない」
「コレット、貴女まで……」
「ファイ先輩が実質のリーダーなのでそれで良いと思いますよ?」
「そ、そうですか?では、雪に決まりですっ」
自分の考えたものが採用されて嬉しそうなファイ先輩が上機嫌でタルトを切り分ける。
「訓練場でお互いの魔法を見せるのは明日の放課後にするとして、何か共有しておいた方が良いことはありますか?」
「すみません。いいですか?僕、近々1日毎に記憶が飛んだり少し変なことを聞くかもしれません」
「……詳しく聞かせてくれませんか?」
「すみません。僕にも説明が難しくて。二重人格みたいなものだと思って頂いて構いません」
正確には能力も変わるけど、これはエヴァンと僕が両方使える魔法とスキルを使えばいい話だ。ステータスについてはレベル差があるし、学生のイベントくらいなんとかなるだろう。
「そうですか。ではそのように。それではここで解散にしましょう」
僕はタルトを食べてリンゴジュースを飲み干したら出ていく予定なのですぐに席を立つことはしなかった。先輩方もタルトや紅茶が残っているので誰も立ち去る気配はない。
そのまま同じテーブルで無言というのも不自然な話。親交を深めるためにも雑談に興じる雪であった。




