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副担任

 シノン視点


 スカイ学院の入試終わりにトウヤ兄様と一緒にいた女性──ミシェルと呼ばれていた者を調べていたことがあった。それはひとえに兄であるトウヤが(ミスト)の特権を使って誰を呼ぶのかが気になっていたからだ。


 結果的に誰も呼んでいないみたいだったが、それが今朝突然“あの”ルシアさんを連れていた。


 ルシアさんは世界でも数人しかいないSランクパーティーの一人でパートナーであるルミナスさんとペアを組んでいる有名人。冒険者になり、あっという間にSランクに到達した凄いタッグなのだが、6月はルミナスさんが、7月はルシアさんがソロで活動するという不思議なタッグとしても有名だった。


 ソロで活動するくらいなら一緒に休んだ方が良いのでは?と皆思っていたのだが、毎年ソロで活動している方の機嫌が明らかに悪いことから今ではただストレスを発散しているだけだという認識となっている。


 しかし、今月はルシアさんどころかルミナスさんもお休みしている。そしてルシアさんがトウヤ兄様の特権を使ってわざわざ学院に来ている。──それもメイド姿で。


 どういうことでしょう?依頼でしょうか?ですが、今は6月なので例年ならルミナスさんが向かうはずです。それに、どんな依頼だろうと6月はルシアさんは受けませんし……。



 トウヤ視点


「ルシアさんはトウヤ兄様とどのような関係なのですか?」


 分からないことは聞くのが一番なのだが、それを本人に聞くだろうか?しかも僕ではなくルシアに。


「貴女はご主人様の義妹でしたか……」

「ご主人様?」


 ルシアが僕をご主人様と呼んだことを疑問に思うシノン。それを追及する前にルシアが一度僕を見てから言葉を続けた。


「そうですね……主従の関係、が一番適しています」

「主従?トウヤ兄様の眷属、ということですよね?」


 僕は一応半吸血鬼(ハーフヴァンパイア)とステータスを改竄しておりシノンはそれを出会った日に見ている。だからこそルシアの見た目がメイドだったとしても、眷属という関係だと考えたのだろう。そしてそれは当たっている。


「当たり、です。私はご主人様に拾って頂いたので、身も心も捧げているのですよ?」


 僕の腕を抱き締めるルシア。明らかに形を変えるそれをシノンに対して見せつけていた。


「なっ!身も……心も……ですか」


 整った顔を歪めるシノン。自身のと見比べるまでもなく完敗したのはシノンが幼かったことが大きいのだが、それでも悔しいものなのだろう。それが原因ではないかもしれないが。


「そのくらいにしといたら?ルシア。流石に大人げないよ」

「それもそうですね。すみません。やり過ぎてしまいました」


 落ち着かせる為に頭を撫でながら呆れたように伝えるとルシアはあっさりと自分の非を認めた。


 しかし、何が気に入らなかったのかシノンは更に不機嫌になる。


「もう!トウヤ兄様はどうしてそんなにルシアさんを構うのですかっ!バカッ!もう知りません!」


 シノンは走って行ってしまった。


「何か悪いことしたかな?」

「それは自分で考えなさい。私はシノンのこと追ってみるから」


 シオン義姉さんは僕の質問には答えずに走っていった。恐らく僕が追いかけないことを分かっていたのだろう。


「これで2人きりですねっ」

「もしかして、狙った?」


 満面の笑みを浮かべるルシアに僕はまさかと思い確認した。


「さて、どうでしょうね?」


 教室に入るとクラスの皆から視線を集めた。理由は簡単。存在隠蔽のスキルを使ってないし、ルシアがいるからだ。

 しかし、誰が話しかけてくる訳でもなく席に着くことが出来た。


「まさかトウヤがこのクラスの栄光の天気(グローリーウェザー)だったなんてね。通りでこっそり登校出来てる訳だ」

「まぁ、隠してた訳じゃ無いんだけど、わざわざ言うことでも無かったからさ」


 いつものようにギーランが話しかけてくる。彼はルシアの存在に驚いた様子は無い。いつも通りだ。


「今になってルシアさんを連れてきたってことはこの状況に相当参ってるんだ」

「まぁ、余裕無いのは事実だけど」


 恐らくギーランと僕とでは多少の齟齬が生じているだろう。それを僕は故意に生み出したのだから。


「僕より次期イニヒブル公爵家当主様の方が辛いと思うけど?」

「まあね。って真実の瞳(トゥルーアイ)で分かるからね?心にもないこと言っちゃってさ」


 嘘かどうかを見極めるその瞳は魔力を帯びて僕を射抜いていた。


「あはは。ギーランにとってはいつもと同じような気がするし、それを踏まえると僕よりは余裕あると思って」

「……どうやらその言葉は真実みたいだね。全く気を付けてよ。ただでさえ人間不信気味なんだから」

「……ギーランも苦労してるんだね」


 いつものように駄弁っていたら担任のミシュノ・ラナーフルが教室に入ってきた。


 ミシュノ先生は責任を取らされて退職くらいはしてると思ったけど。まぁ、正直他の先生でも結果は変わらなかっただろうから理事長が上手くやったのだろう。そもそも、栄光の天気(グローリーウェザー)ではないならランダムで振り分けされるのだからギーランの担任は有能であるはずなのだ。


「先日はすみませんでした」


 ミシュノ先生は開口一番頭を深く下げる。


「本来ならここにいるべきではないのですが、理事長のお陰で副担任として、よりいっそう皆さんを支えていく機会を得られました。これからもよろしくお願いします」


 いつもはもっと砕けた話し方なのだが、気合いを入れた結果、緊張してしまい敬語になったのだろうか。


 話が終わると前の扉が開かれる。ミシュノ先生が副担任だということは恐らく新しく担任になった先生なのだろう。金色の長い髪に金の瞳を持つ彼女は見覚えがある。勇者パーティに所属している聖女のリリアーナに似ているのはそうなのだが、こっちの世界──ルフトで、だ。

 それもそのはず、何せ彼女は6年間も勉強を教えてくれた先生──ユハナ・ホスタールなのだから。


「今日から(ミスト)クラスの担任になりました。ユハナ・ホスタールです。これからよろしくお願いします」


 約6年前から今年の2月に行われるスカイ学院の入試まで彼女は家庭教師としてロローシュ辺境伯家で雇われていた。やりたいことが教師ということならスカイ学院に来て働いていても何一つおかしな点はない。


 そう、働いているだけならば。


 おかしな点は何故このクラスの担任になっているのか、だ。


 今の一年生の(ミスト)クラスは重要視されている。原因は僕とギーランの男の魔法使いが2人もいるから。それを今年採用されたばかりの新人教師に担任を任せるだろうか?


 まあ、彼女には僕が魔法教えてたし、能力は申し分ないだろうから、つい最近まで僕の家庭教師をしていたってことを踏まえれば案外即決だったのかも。



 学院の話題は僕とルシアのことで持ちきりになった。先日まではリオが魔族領へ帰ったことに残念がっていたが、今日は僕の理想の彼女像が高すぎることに絶望している様子だ。ただ、絶望している理由はまだある。


「あ、あの!トウヤ様──」


 クラスメートの女子が話しかけてくるのだが──


「私のご主人様に何か用事ですか?」


 バタン


 凄まじい殺気が女子生徒を襲い、気絶してしまった。


 ……。


 僕は今ルシアの膝の上に座っている。それも、ルシアは僕の腰に腕を回しており、目の前に倒れている人がいても助けようとすらしない。まあ、加害者が被害者を助けるケースは珍しいと思う。だけど目の前で倒れているのに助けないケースも珍しいとも思う。


「先程からなんなのでしょうか。ご主人様は魅力的ですから話しかけてみたいと思うのは理解出来ますが、からこれ6人目ですよ?そろそろ学習して欲しいのですが……」


 3限と4限の間にある10分放課。保健室に運ばれた生徒はついさっき6人となった。とはいえ、既に復帰している生徒もいるので保健室が溢れる心配はない。


「それよりも僕はそろそろ離れて欲しいんだけど」

「そんな!私が邪魔だってことですかっ?」

「そうだね。次は移動しないといけないからね」


 先生とクラスメートからの視線が痛いし授業には集中出来ないのは全て僕の頑張りによりなんとかすることが出来るが、この教室で授業が行われないなら、ルシアに離れてもらう必要がある。


「……魔法実技ですか」

「当たり。確かユハナ先生の担当科目が魔法実技みたいだからさ。第一印象が悪いと良いことないから」


 魔法実技はひたすら魔法を使う。なので必然的に地下にある訓練場で行われる。ただ魔法を使うだけだが、体操服に着替えなければならないのでモタモタしてる時間は無い。さっきのクラスメートはそれを伝えたかったのかもしれない。結果は彼女が休むことになってしまったが……。


「ご主人様のお陰で今の仕事があると言っても過言では無いですし、サボっても大丈夫だと思いますよ?」

「そんなことしたら学院に通う意味が無いでしょ」

「そもそもご主人様が通う必要はありませんけど」

「……ほら、早くしないと遅れちゃうよ」


 既に残り時間は3分を切っていた。慌てて教室を出ていき透過と飛行、存在隠蔽のスキルを使用して更衣室に向かった。ギリギリ間に合ったのは僕がルシアの目を気にせずに着替えたからだろう。ガン見されたが、眷属なら特に問題は無い。

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