ルシアとルミナス
レネッフェ・ニーヴェルハックを筆頭とした魔王軍の残党から宣戦布告を受けて僕は相当頭を抱えていた。
今月に仕掛けてくるだろうから悠長に構えている暇は無い。レネッフェの相手を出来るのは魅了が効かない僕しかいないけど、流石に一月も入れ替わったままとなってしまえば来月もあるルミナスはともかく、ルシアには申し訳無さすぎる。
と言うのも、今月からナフルルの特権を使って一緒にいる眷属を1人増やした。禁断の果実という錬金術師の組織が何やら学院付近で動き回っているので、ナフルルの付き人がいないなら折角なので使ってしまおう、という判断だ。
交代は毎月1人ずつしていくことにした。状況を把握している眷属が1人いれば情報の引き継ぎが随分と楽になる。
ネクミスは一月一緒にいたので今月くる予定だったルシアと来月の予定だったルミナスを呼ぶことにしたのだが、そうなればローテーションする際に一番最初に変わるルシアが不遇になってしまうのだ。
それに加えて、僕とエヴァンが入れ替わった状態で今月を終えることになったら本当に可哀想だ。
ならいっそのこと今月は無しにしようか。と思ったのだが、禁断の果実が動いているのに能力を制限されたエヴァンを一人にするのはリスクが高い。
そんなことを考えながら宿屋に向かっていたのだが、僕の視界が急に切り替わった。何が起こったのかと辺りを見渡せば肩と背中は出ているが、胸元は一切露出させていない服装のルシアとローブ姿だが、背中が少し出ていて上に何かを羽織るルミナスがいる。それに加えて僕自身見慣れた服装をしているとなれば考えられることは1つ。
僕の身体に戻ってきたのだろう。
「何がどうなったか説明してくれないかな?」
僕は道端で入れ替わりをするほど肝が座っていない。そんなことをすれば何かしらのトラブルに巻き込まれることになりかねない。だからこそ宿屋とかの休める場所でしか入れ替わりは行っていないのだが……。
「どうもこうも無いわ。私達のことをほったらかしで、エヴァンの身体を使って何やってるのよ」
「そうです!ご主人様はルシアのことが嫌いになっちゃったんですか?」
2人とも僕に詰め寄ってくるが、本当にどうしたのだろうか?
「2人とも落ち着いて。別にやましいことなんてしてないから。僕が眷属のことを嫌いになる訳ないでしょ?」
2人を宥めてからもう一度何が起こったのかを聞くことにする。
「それで、何で入れ替わりが起こったのか知ってる?」
「ああ。それはエヴァンがとあるスキルを習得したからよ」
「とあるスキル?」
ルミナスに詳細を求めると今度はルシアが答えてくれた。
「はい。どうやらご主人様とエヴァンが入れ替わっている間にどうすればエヴァンからも入れ替わりが出来るのか考えてたみたいです」
「それでSPを使ったスキルの習得ってことか」
「正解ですっ。名前は主人との命約。ご主人様の眷属との命約の類似スキルで、性能の割には必要SPが少ない有用スキルです」
内容的には僕の眷属との命約というスキルの効果をエヴァンだけ強化する能力で、授かるスキルの数を増やしたり、ランダムではなく指定して選べたりするようだ。そして重要なのは僕と自由に入れ替わりが出来るようになったということ。
「賭けだったんですけど、ご主人様が眷属と入れ替わりが出来るなら対象をご主人様だけにしてみたところ、なんとかなったみたいです」
眷属との命約のアレンジってことか。ならそこまでSP消費は激しくなかったのだろう。
「そんなことより!今月は私達の番よね?なのになんでエヴァンの身体使ってたわけ?」
「そうですっ!こんなに可愛いルシアとルミナスが来るんですよ!?」
ベッドから起き上がって壁にもたれ掛かっている僕は四つん這いになって詰め寄ってくる2人から逃れる手段を持ち合わせていない。
「それが──」
2人にレネッフェが表舞台に出てきてエヴァンでは荷が重いから入れ替わってたことを伝えたら──
「それは私達を放っておく理由にはならないわよね?」
「そもそもご主人様はエヴァンを依怙贔屓し過ぎですっ!。幼なじみがそんなに良いですかっ?」
「そ、それは……」
幼なじみが大切なのは確かだが、それを正直に話せばあらぬ誤解を招かねない。
「これは罰ゲームね」
怒られている側の僕にルミナスの容赦ない宣言を覆すことが出来るはずもない。が、なるべく軽い罰になるように言葉を重ねる。
「僕に出来ることで、人様に迷惑かけないようにね?」
「それは大丈夫よ」
そう言ってルミナスはベッドに入り掛け布団を捲る。つまり一緒に寝ようということだ。しかし僕のベッドは3人共に寝られる程大きくない。
「ルシアは良いの?」
「私は学院に着いていきますからっ」
「い、いや流石にそれは逸脱「着いていきますからっ!」……はぁ、分かったよ。1日だけね?」
押しきられる形でレネッフェの件だけでなく明日のことでも頭を悩ませることになってしまった。
んっ。何これ?僕はいつの間に抱き枕なんて使うようになったんだ?それに、柔らかいし、良い匂いが……!?
「あんっ!」
耳元で聞こえたルミナスの喘ぎ声に意識がクリアになる。
今は6月に入ったばかりなのだが、何故かルミナスが薄い掛け布団しか要らないって主張したから仕方無くルミナスの用意した物をかけて寝た結果、やはりそれでは少し肌寒く、ルミナスの方へ身を寄せていってしまいこうなってしまった。
今思えば全てルミナスの手のひらの上だったのかもしれない。添い寝の要求から僕に非があるから強く出れないことを良いことに僕から引っ付くように仕向けたのだ。
無理矢理引き剥がして起こすのも悪いし、しょうがないなぁ。
ルミナスは一糸まとわぬ姿なのが感触で分かるが、お互いに抱きしめているので見えてはいない。僕が寝た後に脱いだのだろう。
ルミナスの脚と腕を使って僕を逃がすまいと抱きしめてくる。これが全身で僕を感じたいが為の行動だと思うと、つい頬が緩んでしまう。
どうせこのままなら、と思い、手をルミナスの頭へと移動させ優しく撫でる。それに反応してルミナスの吐息が鼓膜を揺らした。
数分間撫でていると不意に手が止めた。
「ルミナス。起きてるんでしょ?」
耳元で呼んでも起きる気配が無い。そんなことはお構い無しと言わんばかりに僕を抱きしめる力を強くする。
寝ていますと言わんばかりの無視だが長い期間過ごした仲なのだブラフなのはすぐに分かる。
「撫でて欲しくないの?」ボソッ
「……」
「それとも、お仕置きされたいのかな?」ボソッ
「~~っ!」
夜目が効く僕にはルミナスの耳が赤く染まっているのが見える。そして僕の声に悶えていることも分かった。
「フーッ」
「ッ!」
息を耳に吹き掛けるとビクンッビクンッとルミナスの身体が反応する。
「あーむ。れろれろ」
「ひゃっ!んっ」
耳を食べるとルミナスは思わず声を出してしまう。
「興奮してるの?ショタコンなのかな?」
「ち、違うわ。貴方だから──」
「ほら、起きてた」
「~~っ!」
思わず反論してしまったルミナスは僕の言葉に顔を背けてしまう。その顔は真っ赤だ。
「甘えるのは良いけど程々にね。取り敢えず、顔でも入って来たら?」
ルミナスは黙って頷き部屋から出ていった。
「ルーエル。……ダメか」
最近使い魔であるルーエルが僕の呼び掛けに答えてくれない。
正確にはエヴァンと入れ替わりをしてからだ。
ルーエルにも事情があるのだろうか?しかし、今まで使い魔が召喚に応えない、なんて聞いたこともない。
心配なのには変わり無いけど、最近喚んで無かったから拗ねてるだけって可能性もあるんだよなぁ。
時間の無い朝なので悩み事は置いておき僕は緑色の──霧の──制服に袖を通す。
顔を洗ったりして身支度を整えるとルシアの様子をみる。
「ルシア。準備は順調、
か……な?」
「あっご主人様。今行きます!」
「ねぇ。本当にその格好で行くの?」
「そのつもりですが……何か変でしょうか?」
「い、いや変じゃ無いけどさ」
「……?」
疑問符を浮かべるルシアの姿はフリルがふんだんにあしらわれたメイド服だ。それも相変わらず肩と背中は出しているが、黒タイツを穿いており、肩が出てるだけで手首まで裾がある。これだけなら一見問題は無さそうだが、背中は綺麗な白い肌しか見えていない。つまり付けていないのだ。
「あっ!もしかして、気になるんですか?大丈夫ですよ?ルシアの身も心もご主人様の物ですから触れさせませんっ」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「ご主人様はルシアの揺れるそれを誰にも見せたく無いのでは?」
戻ってきたルミナス口を挟んできた。
「あ、お帰り」
「お帰りなさいルミナス。それは今更ですよ?そもそもご学友の方はほとんどが女性だと聞いております」
「なら何でなの?」
ルミナスはあっさりと反論を認め僕に聞いてきた。
「ルシアとルミナスは冒険者だったよね。しかもSランクの」
「そうですが、何かありましたか?」
「Sランクって言うのは相当箔がつく。つまり有名人なんだ」
冒険者は国が運営しているギルドに所属している。ギルドの恩恵を受けるのなら当然、義務もルールも存在する。その義務のひとつが緊急依頼だ。
緊急依頼はギルドがすぐに対処しなければならない魔物を討伐するというもので、強制参加である。Sランク冒険者は強制参加を免除されるが、ひとつ下のAランクは強制参加。そして、Sランクは緊急依頼に多大な貢献をした者のみがなれる。つまり少なくない者の命を救ってきたということになる。逆に有名にならない方がおかしい。
「そんなルシアがあろうことか定期的に休んでいた時期に僕の特権を利用してメイド姿で学院にまで来たとなれば、『お前は何者だ!?』なんてことになるだろう?」
「で、ですが、正体を隠すとなるとご主人様に近づく者が……」
「え、もしかして僕が恋人を作らないようにルシアが牽制したかったの?」
「そ、その通りです」
僕の為にしようとしたことが裏目に出ると知ったルシアは明らかに落ち込んでいた。
そんなルシアに感化された訳では無いが、それも悪くない。リオが学院を離れた今、このスカイ学院には4人しか男子がいない。当然僕にアピールする女子が増える訳で、それを考えればルシアの存在は僕の理想がそれほどまでに高いというアピールにもなる。それに、エヴァンのサポートも出来るだろうから、むしろ最適解な気さえしてくる。
ルシアが正体を隠したところで僕が栄光の天気であることがバレるし、どうせなら──
「いいよ。元々は罰ゲームだし、どうせなら今月はルシアと学院を過ごすことにするよ」
お待たせ致しました。因みにですが、ストックは相変わらず2、3話なので投稿頻度は変わりません。
話が長くなるにつれて設定が多くなるので中々難しくて。個人的には中々いい感じになりそうな章です。上手く書ければの話ですが。




