不思議な雨
エヴァンとの入れ替わりで情報交換を終えた後、僕は歯痒い思いをしていた。
エヴァンの危機に対して危機を伝えることは既に達成された今、情報の優位が無いなら、わざわざ僕と入れ替わる必要性が無い。
今やることは遺跡の調査か、ナフルルとネクミスと出かけるかの2択。
そもそもどちらともエヴァンの件には関係あると限らない。というか、出かける方は今考えれば一番どうでも良い気がしてきた。
極論を言えば僕がいらないのだ。ナフルルが状態異常にかかり、それを治してからもう一度かかりにいく。どう見てもナフルルの一人プレイである。
それを踏まえれば遺跡調査の方が良いだろう。まあ、こっちはこっちで眷属たちが頑張ってくれているので僕がでしゃばる必要無いと思うけど。一泊二日では完全に遺跡を調べることは難しそうなんだよなぁ。
そう言えばネクミスから気になる報告があったな。
先日、学院から帰って来てもネクミスがいなかったことがあった。どうしたのかと思い、居場所を確認したところ、丁度帰ってくる最中だったのでレニーナの時とは違い、迎えに行くことはせず「帰りが遅いのって珍しいなぁ」程度の感覚で何しに行ってきたのか聞いてみたのだ。
消えた文献と謎のスライム、か。そう言えば残っている文献はネクミスが読み漁っているから、それを手伝うのもありだな。まあ、ネクミスならもう終わってる可能性もあるけど。
ネクミスが持ち帰った資料は思いの外多かったみたいなので僕が学院に通っている最中に調べて貰っている。
「よし。ネクミスの息抜きって訳じゃないけど出かけることにしよう」
悩んでいても始まらない。取り敢えず今日は遊びに行く。僕がやることは何もないのだ。それは全て眷属たちがやってくれるからなのだが……代わりにご褒美を与えてるし、強制してる訳じゃないはずだけど何故か自らかって出てくれる。眷属にはいつもお世話になってます。
思い立ったが吉日。早速ナフルルとネクミスを連れて街へと繰り出した。
「どうしたの?何か悩み事?」
僕は今朝から様子がおかしいナフルルに声をかける。
「……少し、気になることがあって」
「気になること?もしかして、街の変化のことと関係ある?」
5月第二土曜日。先週とは打って変わって活気どころか治安すら悪くなり始めた。経済は回っているのだが、どことなく皆ご機嫌斜めのようだ。
「まあ、そうね。トウヤは知らないかもだけど委員会の仕事でこの街に出かけることがたまにあるんだけど、その際にも色々調べてたの」
へぇ。確かナフルルは諜報委員会だったな。仕事と平行して調べられるってことはやっぱり相当優秀なんだろう。
「だけど目立つ成果は無かったの。強いて言うなら徐々に住人の精神が汚染されていっていることね。その影響が私にもあれば良かったのだけれど、それも無かったわ」
「何の躊躇もせずに身体をはる貴族様ってどうなの?」
まあ、そんなこと言ってられない事態になりそうな予感はするけど。
「しょうがないじゃない。それしか方法が浮かばないんだから。揶揄するのは止めてよ」
「ごめんごめん。でも、気を付けてね」
「分かってるわ。それで、本題に戻るけど、おかしいと思わない?街のあっちこっちに行ったるのに全然状態異常にならないのよ?」
精神汚染はどんどん進行しているが、ナフルルにそれがかからない。可能性としては大まかに言えば既に精神汚染を一度かけただけで徐々に進行していく、ナフルルにかからないように制御しているなどが挙げられる。
「……厄介なことになってきたね」
「そうなの。このままじゃ私の作戦が成り立たないわ」
「打開策は浮かばないけど、なんとかなるかもしれないよ?」
一度しかかけないことは難易度的にも可能性は低い。だからかかるには何らかの条件があると考えた方が自然だ。
「ほんとに!?」
「まあ、時間かかるけどね。来週にはなんとか間に合わせるから」
「じゃあ今日は遊べるわね!」
「いつも遊んでたと思うけど。まあ、そういうこと」
とはいえ、本当に遊ぶだけって訳では無い。これまでは完全に遊んでたけど、これからは街の様子をしっかり見る必要があるのだ。
夕方。それまで僕たちは街の色々な場所を歩いてきたけど、特に変わった点は無かった。まぁ、なんとなく予想はしていたが、本当にに何もないとは……。
「そろそろ寮に戻る?」
「んー今日はどこかに泊まっていくつもりだからナフルルは帰っても良いよ」
鍵を取り出してナフルルに差し出すが、ナフルルがそれを受けとる気配が無い。
「どうかした?」
「それなら私も一緒に泊まるわ!」
諜報委員会の仕事や遊びでこの街に来たことは何度もあるだろうけど一日過ごすことは無いのだ。だから夜に出歩くことで何か分かるかな?と思い泊まることにしただけなのだが、まぁ、寝静まった頃合いで抜け出せばいい話か。
真夜中。ネクミスと一緒に宿屋の3階から飛び降りる。吸血鬼は本来夜行性なので実に清々しい気分だ。これで月が綺麗に見えたのならば文句無しだが、今宵は雲に隠れて仕舞っている。
予定通りナフルルは寝てるので早めに戻らなければ一体何を言われるか分からないので時間を無駄にしない為にも早速街を歩き回る。
「こうして夜に2人で散歩をするのは久しぶりですね」
今まで余り喋らなかったネクミスが僕に身を寄せながら話し掛けてきた。
「最近は学院もあるし昼間に行動することが多かったもんね」
「一緒にいることが出来るのがたった1ヶ月なのも原因だと思います」
「止めた方が良い?」
「私はそう思います」
ナフルルは従者が居ないから2人にするというのも悪く無い。
「学院があるから本当なら難しいけど、ナフルルの分の特権を使えば2人に出来るし、そうする?」
「何か懸念でも?」
「でもそうなるとナフルルも一緒に暮らすことにしないと面倒なことになりそうなんだよね」
僕の部屋に2人も部外者がいるのはバレたときが怖い。バレなければ良いという考えもあるけど、リスクが高い。
「彼女には一部屋与えておけば放置で良いかと。私たちは3人で一部屋でも問題無いですし」
「ネクミスって身内には優しいけど他にはとことん厳しいよね」
「誰しも同じようなものなのでは?」
「まぁ、僕も同じだから何も言えないけどッ!?」
突然雨が降りだした。それだけならば驚くことは無いのだが、その雨には魔力が込められていたのだ。更にこの雨は地面に触れた途端に霧になり辺りに漂う。
飛行スキルで飛び上がり辺りを見渡せばこの街にだけこの雨が降っているようだ。
「この雨は一体なんだ?」
僕たちに当たっても雨は霧になることはなく服が濡れてしまった。が、地面はカラッと乾いている。明らかに普通の雨ではない。
近くに人がいる訳では無いのでまだなんとも言えないが、恐らくこれは……
「生物だけに効果のある雨なのでしょうか?」
「みたいだね。どんな効果なのか気になるところだけど、殆どの家が窓を開けているから霧が中に入って来てるし、これはそういうことだよね」
まだ5月なので花粉症の人だっているだろうに、何故か開けてある窓。不思議な雨と霧。これがこの街に起きている精神汚染と無関係とは到底思えない。
雨はすぐに止んだので、せっかくなのでもうしばらく散歩してから宿屋へ戻るのだった。
500文字くらいの差で今まで短いとな長いとかって思ってましたが、実はそこまで神経質にならなくても良いのかなと思い始めました。




