お試し
僕はとりあえずこの身体が女性の理由を置いておくことにする。今考えても分かりそうに無いからだ。
「ん?あれは……何の本だろ?」
部屋を観察していたら机の上に1冊の本が置いてあった。手に取って表紙を見るとそれが日記であることが分かった。
誰の……って流石にエヴァンのか。
他人の日記を勝手に読むのは如何なことかと思うけれども、凄く内容が気になる。
「ダメだな。我慢しなければ」
時刻は夕方過ぎ。今から何か行動を起こすことは難しいだろう。そもそも今回はちゃんと入れ替わりが出来るかの実験だったのだ。本格的な事は明日の予定だ。
「それにしても、ネクミスは事情を聞けたのかな?」
あちらの様子が分からない以上ある程度の時間を潰してから戻るのが良いだろう。
「一応夕食前くらいになったら戻るか」
それまで入れ替わったこの身体で出来ることを確認しておく。
エヴァンは剣と魔法を合わせて戦う魔法剣を好んで使っていた。一方、僕は基本的に魔法オンリーで護身用に短剣を扱える程度だ。
何が言いたいかというとエヴァンと僕とでは扱うスキルが違うということだ。
エヴァンの身体なのでもしかしたら、エヴァンの魔法剣の技を扱うことが可能なのでは?という淡い期待をしている。
しかし、流石にここで暴れる訳にもいかない。そこで、僕が使えなくてエヴァンが使える魔法を試してみることにする。
確かエヴァンは光、聖霊、魔法を使うことが多かったはず。他にも使える魔法があったとは思うけど、後で教えて貰えばいいか。
とにかく今はその3つの中から魔法を試してみる。
まずは光魔法の5級の光源を使ってみる。すると、光輝く球体がひとつ、僕の目の前に現れた。
次にエヴァンは使えないが僕は使える魔法を試してみる。やることは闇と影魔法を合成させることで使える収納魔法だ。
自身の影に適当な物を入れて取り出すことに成功するどころか、僕の身体(本体)の方で入れていた物までとりだせた。
「……?どういう事だろう。収納魔法が共有出来るのは流石におかしい」
収納魔法は眷属でさえも同じ空間を繋ぐことは不可能のはず。だとすればこの現象は何だ?
「後で他の眷属とも入れ替わって試すか」
この件は保留にして、他にも魔法を使ってみた結果。全て問題無く使えた。次はスキルだ。とはいえ、僕はエヴァンのスキルを全て知ってる訳では無いからこの検証が役に立つ保証は無い。これをやるのはあくまで暇だからだ。
「とりあえずは僕しか持ってなさそうなやつを……って勝手に身体を傷付けるのはダメだろ」
飛行とか透過などのスキルはエヴァンだって持ってるし、無さそうなのは吸血鬼特有のスキルくらいだ。それも特定の武器以外無効化とか眷属に関係するものだからすぐに試せない。
「まぁ、エヴァンへのお土産として収納魔法の中を漁るか」
とはいえ、そこまで高価なものなど持っていないんだよな……いや、丁度良い物があったな。これを幾つか置いて行くか。それと、手紙も残しておこう。
エヴァン視点
「……!?一体何が……」
自らが発した声がいつも聞き慣れていたものと違うことに困惑する。
「この声、聞き覚えがある」
「それはそうでしょう」
「!……貴女はネクミスさんですか?」
聞き覚えのある声がしたと思いその方向へ視線を向けるとトウヤの眷属で、既に彼と一緒に異世界へ行ったはずのネクミスがいた。
「その通りです。……確認ですが、エヴァンさんですか?」
「ええ。そうですよ。と言ってもこの姿で……ってあれ?トウヤの身体?」
そう言えばこの声だってトウヤのものだ。
「一体どうして」
「それについて説明する為に私がいるのです」
「なるほど。相変わらずトウヤは心配性だね」
「ええ。全くです。まぁ、そこも良いところなのですが」
ネクミスからの説明を受けた僕はトウヤの懸念が当たっていることに苦笑いをするしかなかった。
魂の繋がり、ね。そう言えば僕が異世界転移の方法を探しているときにそんな文献を目にした記憶があったはず。
どんなものだったか思い出そうとしていたが、ネクミスの言葉によってそれどころでは無くなる。
「それで、実際のところどうなんですか?」
「どうって言われても……そんな事実は無いよ」
言えない、決して。元々分かりきっていたことなのだから、覚悟は出来ている。生半可な気持ちで僕がトウヤをこの世界に転移させた訳では無いのだから。
「そうですか。ではこれからもトウヤ様が魂の繋がりについて調査されるでしょうから貴女の方でも何か調べておいてください」
「ちょ、ちょっと待って!これからもトウヤと入れ替わるの!?」
調査するということは十中八九僕の身体を使って行うだろう。それ自体は特に問題は無いのだが、僕は今月までにトウヤの死体を王様に献上しなければ咎人になるのだ。それを知ったトウヤが首を突っ込まない訳がない。とはいえ、そういうところがトウヤの良いところなんだけど。
僕が何故それを受け入れようとしたかと言えばそれは僕の体質(?)が関係する。
僕は物心ついた頃に性別が変えることが出来た。とはいえ、僕は元々女の子として生きてきたからいつもは女性の姿だったのだが、男の方が勇者に相応しい程の力があった為、今まで男性として生活していたのだ。
勇者としての役割を終えるまでは、と我慢していたのだが、それももう今月で終わる。勇者パーティは解散するのだ。だからそれに合わせて女性としてひっそりと暮らす予定だったのだが、さて、どうしたものか。
「分かったよ。今日はもうこれで終わり?」
「はい。夕食前に戻る予定です。……それまで少し時間がありますね。せっかくですからステータスを確認してみますか」
「すてーたす?」
ネクミスから説明を受けてステータスを表示してみる。が、上手くいかない。出てくるのはトウヤのであろうステータスだけだ。
この魔眼の中に鑑定眼があるかな?
眼に魔力を込めてみると僕のステータスが見えた。
―――――
名前 エヴァンジェリン・シュエルローフ
性別 両性 レベル 500
種族 人間(勇者)
攻撃 137500
防御 100000
魔攻 162500
魔防 100000
素早さ 125000
スキルポイント 670
スキル
神威(男)
神々の義眼(女・左眼)
魔法剣
飛行
存在隠蔽
透過
縮地 レベル4
空間把握 レベル4
魔力消費軽減 レベル4
魔法耐性 レベル4
物理耐性 レベル4
全属性耐性 レベル4
状態異常無効化
魔法
聖霊魔法 1級
結界魔法 1級
雷魔法 1級
光魔法 1級
風魔法 1級
吸血鬼上位皇族の眷属No.9
主人のステータスの2割をプラス
主人の魔法、スキルの中でどれかひとつだけランダムで授かる。
主人と居場所がお互いに分かる
主人に逆らうことが出来ない
―――――
「これは便利だね」
これを見れば自分が出来ることが一目で分かる。
「私のはこれです。まぁ、勇者であるエヴァンさんと比較すると見劣りしてしまうとは思いますが」
そう言ってネクミスは自分のステータスを私に見せて来た。
―――――
名前 ネクミス・シュエルローフ
性別 女 レベル 450
種族 鬼人
攻撃 6750
防御 598500
魔攻 2250
魔防 2700
素早さ 2250
スキルポイント 570
スキル
鬼の戦王
存在隠蔽
空間把握 レベル4
状態異常無効化
縮地 レベル4
魔法耐性 レベル4
攻撃吸収
魔法
雷魔法 1級
火魔法 1級
闇魔法 1級
吸血鬼上位皇族の眷属No.5
主人のステータスの2割をプラス
主人の魔法、スキルの中でどれかひとつだけランダムで授かる。
主人と居場所がお互いに分かる
主人に逆らうことが出来ない
―――――
ネクミスのはかなり偏ってるステータスなんだ。まぁ、僕も少し偏ってるけど。
「基本的にステータスは種族によってひとつのステータスに偏るものです。人間はそれすらなく、全てに劣る代わりにスキルを沢山持つというのが常識らしいのです」
ステータスはレベル×10×(4+種族補正)の値になるもので、種族補正は特定のステータスに振られるが、それ以外は個人差でステータスが変わるらしい。それを踏まえると僕は全て25倍という破格の数値だ。
「それでは、そろそろ時間みたいですね。また明日の朝方に入れ替わると思いますが、問題ありませんか?」
「……大丈夫」
「それでは、さようなら」
ネクミスの言葉を最後に一瞬で元の身体へと戻った。
なんとなく部屋を見渡すとトウヤからの手紙が机の上にある日記付近に置いてあった。
「ま、まさか中身を見られたってことは……無い、よね?」
そんな希望を抱きながら僕は手紙を開いた。
『親愛なる我が眷属エヴァンへ
2人でしか話したくない内容があるかもしれないから何かあったら手紙でも交換日記でも用意してくれると助かる。因みに、日記はまだ読んでないから安心して。ネクミスからある程度は聞いてるとは思うけど、エマモネス・ドライハイムが生きている可能性があるから注意してね。これからも入れ替わると思うから注意事項とか使えるスキルなどを教えてくれると嬉しい。直接は会えないけど元気でね。
追伸
エヴァンの身体でも何故か収納魔法が使えたから血液を補充しておいたよ。
トウヤより』
いや、冒頭の親愛なる我が眷属って(笑)でも、日記は読まないでくれたのか。それに、血液の補充は結構ありがたいな。
元々最低限の量しか貰っていなかったから長くて後十年の命だと思っていた。
吸血鬼とその眷属は不老長寿だが、眷属に限っては主の血液が無ければ1年ほどしか生きられないのだ。
さてと、僕の方でも色々調べてみるか。どうせ暇だし。
コンコンコン
「エヴァン。そろそろ夕食の時間だぜ」
ノックをして扉の前で剣聖のラミューラが声をかけてくる。
僕は男性に変えると「分かった。すぐに行く」と言い、着替えてから部屋から出た。




