待ちに待った入れ替わり
本当に待ちに待った入れ替わりです。
今日は放課後ようやく入れ替わりを実行する予定だ。
本当なら今日は休んで昨日の夜にでもやりたかったのだが、今日はまだ平日。明日になれば休日なのでそれまで待つしかなかった。
ただ、今日はあくまで確認の為のものなので昨日でも良かったのでは?と思うが、万が一にもすぐに戻れなかった場合のことを考えると今日の放課後がベストなのだ。
エヴァンを信頼してない訳じゃないけど、流石に入れ替わり直後で混乱している可能性が高いのに学院に通わせるなんてリスクが高過ぎる。
ならサボれば良いのでは?と思うが、その場合はお見舞いが面倒なことになる。それも追い返せないことは無いが、それはシオンとシノン、生徒会のメンバー、教師以外に対してしか有効ではない。
「なんだか今日のトウヤは心ここにあらずって感じだね。何かあった?」
ギーランが心配そうな表情で僕の様子を窺う。彼の持つ真実の瞳の前では嘘をつくことは出来ない為、言葉選びは慎重に行わなければならない。
「まぁ、ちょっと不安なことがあってね」
「悩み事か。聞いても大丈夫?」
「いや、これは僕の問題なんだ。あくまでも僕の我が儘だから」
「……そっか」
言葉を濁し触れて欲しくないことを匂わせることでギーランはそれ以上追及してこなかった。しかし、決して違和感が無くなる回答ではない。故に僕は次の言葉を発する。少しでもそれが無くなることを祈って。
「でも、恐らく来週。きっとおかしな行動をしてしまうかもしれない。だからそのときは支えてくれないかな?」
決してなんの根拠も無い気休めの言葉ではない。今回の一件が何事もなければそれは実現することは無くなる。しかし、何かあった場合、平日でも入れ替わる可能性がある。ギーランにはそのときエヴァンをサポートして欲しいのは事実なのだ。
「勿論。でも、そのときが来ない方が良いよね?」
「うん。だからあくまで保険だよ」
あくまで保険、されどそれは決して軽視していいものではない。あれば安心出来るし、それがリラックスに繋がることが多い。
実際、それが目的でギーランに頼んでいる為、本心からの言葉だ。故にギーランの真実の瞳にも引っ掛からない。
そして、僕は出来る限りの下準備を終えて待ちに待った放課後を迎えた。
今僕の部屋にはネクミスと僕の2人だけ。
入れ替わることでエヴァンが不安になると思ったから説明役としてネクミスを呼んだだけなのでナフルルにはソロで適当な魔物を狩ってくるように言ってある。そもそもエヴァンはナフルルのこと知らないし、居てもしょうがないでしょう。
因みに、シオンとシノンに関してはまだ何も言っていない。今日ギーランにサポートを頼んだのは2人には休日にも会えるが、ギーランとは学院でしか会わないので早めに伝えただけだ。すぐに終わる可能性も杞憂の可能性も十分存在しているので今日の結果で明日伝えるつもりだ。
「それじゃあ行くよ?」
僕はソフィアのアドバイスのお陰で得たスキル、上限突破(スキル)を発動させる。
このスキルはSPを560も使って習得したスキルで、このスキル以外のスキルは上限を一時的に越え効力が上がるというものだ。
これによって強化された眷属との命約の効果で僕とエヴァンの意識だけを入れ替える。
気が付くと目の前にはネクミスたちの姿は無く見知らぬ部屋のベッドに腰かけていた。
エヴァンはいつも身だしなみを整える際に鏡を使っている為、僕は周囲を見渡して鏡を探す。鏡を使って自分の(恐らくエヴァンだと思われる)姿を確認する為だ。
「……え?」
つい、疑問の声を上げてしまった。鏡を探す時に視界捉えた姿に困惑したからだ。
見つけた鏡で確認してみると以前見慣れていた綺麗な金の瞳は変わらない。腰まである金髪だって僕が転移した後に伸ばし始めたのなら別に不自然なことではない。しかし……
「……」
つい先程自らが発した声、胸元の膨らみ、服装など見れば見るほどこれは夢かと疑ってしまう。
「痛い」
頬をつねる際に触ったほっぺたは柔らかく傷つけることを躊躇わせるが、仕方ない事だと割りきってつねった結果、これが夢ではないことが分かる。
夢じゃない?だとしたらこれはどういう事だ?
エヴァンとの入れ替わりに失敗したのかもしれないとも思ったのだが、そもそも僕は自身の眷属以外と入れ替わることは不可能だし、鏡を探している際に僕の血液を発見したので、この体の持ち主はエヴァンだとは思う。しかしこれは……
「どう見たって女性の身体だよね?」
?視点
真っ白の空間に2つの世界の状況を確認出来る大きな水晶が幾つも浮かんでいる。そんな空間には銀色の髪と瞳を持つ美しい姉妹がとある水晶を見ている。
「ルフト姉様。どうやら懸念してたことが当たったみたいですね」
「ええ。ロノアの世界で勇者君が私の世界に転移させようとしてるときにもしかしたらとは思ってましたが、本当に実現するとは」
この世界は2つでセットになっているルフトロノアという世界だ。姉妹の女神はそれを半分にして自身の名前としている。
ただ、この名前は遥か昔、初代勇者が世界を行き来する際にそう呼ばれていただけで、2つの世界を区別する必要性が無くなった今ではその名前すら忘れ去られていた。
ルフトロノアのどこかの遺跡には何かしらの文献で名前くらいは残されている程度のもので、知ってるのは王族や公爵家、初代勇者所縁の地方の村くらいだ(地方の村では御伽噺として村人に広まっている)。
「ですが、何も問題ないでしょう。意識の入れ替わりを行ったところで何かすることは出来ないでしょう」
「ルフトロノアの特徴である魂の共通化はすぐに分かると思いますけど?」
「それで救えるのは少数でしかありません。そして、それに気が付いた初代勇者は何も出来ませんでした」
勇者といってもルフトロノア以外の世界から招くことは無い。
勇者というのは正義感の強く優しい魂に通常ならば2つの世界にそれぞれの器を用意するのを1つの世界だけに用意した者のことである。
故に1つの器に力を十二分に注ぎ込むことが出来、通常ならば2つに分ける際、多少の能力低下が発生するのだが、それすら無くなる。だからこそ勇者は強いのだ。
どうやらルフトロノアの住人たちはそれを選定しているようだが、全ての勇者は成るべくしてなっているのだ。聖女とか剣聖、賢者は力を少し優遇している程度だが全て予定通りの人物になっている。
「僅かな光の心しかない者ならばともかく、光と闇が半分くらいずつを持つ魂が片方の世界には光のみ、もう片方には闇のみを注いだものを見た時、彼も初代と同じくどうすることも出来ないでしょう」
光か闇に片寄っている魂ならば何も問題は無い。光に片寄っている場合は放置、闇に片寄っている場合は始末すれば良い。
しかし、それがどちらとも言えない場合、どうすることも出来ない。何故なら放置する場合は闇の方が犯罪を犯し、始末すれば心優しい光の方も死ぬことになる。そう、何の罪の無い人(片方の器の罪を共有するのなら話は別だが)を殺すということになる。
「しかし、彼は勇者ではありません。光が大半を占めている魂のみを生かすのでは?」
「その可能性は案外低いですよ?ロノアの今代の勇者は彼の眷属。眷属を大切にする彼がそのようなことをするとは思えません。それに、彼自身、器に注がれた光の方が割合が高いのでしょう?」
「それはそうですが」
ロノアの姉であるルフトは今のトウヤがどれ程稀有な存在なのかをまだ理解しきれていなかった。ロノアの管理する世界での出来事をルフトに把握しておけと言うのも酷な話なのでそれは仕方がない。
一方、ロノアの方は自身の管理する世界での出来事なので正確に把握している。
器を強引に写し変えられた。これは一見してそれほど難しいようには見えないが、実際にはこれは異常なことなのだ。
元々器とは魂からの力の供給に合った物である。それを強引に変えると魂と器が馴染むことが出来ずに数分以内に死ぬことになる。
つまり、基本的には魂と器が分離してしまうことは死を意味するのだ。しかし、トウヤは自身の魂を眷属と共有出来る為、眷属が生きていれば死ぬことは無い。なのでトウヤは器を強引に変えられたとしても即座に眷属を作ることで生き残ることが出来たのだ。
自身の魂を眷属と共有する事は高位以上の吸血鬼しかできない。更に本人は知らないようだが、トウヤが眷属を増やす為には相手を惚れさせる必要がある。器を変えることでも稀なのに器が高位吸血鬼で惚れてる女性が近くにいるなんて滅多に無いことだ。
これまで器の変更が成功した例は存在していないが、あの実験の成功者はトウヤを含めて2人だ。もう1人は器と魂の相性が悪かったのか、どこか狂ってしまっている。ロノアはトウヤもどこか狂っている可能性を懸念しているのだ。
「それに、彼の目的は今、ロノアの勇者ちゃんを救うことです。その際に必ず精神の影響を知ることでしょう。それは私達にとって悪いことではありません」
「それもそうですね」
この姉妹は決して全能ではない。故に姉妹で世界を管理しているのだから。だからこそこれからのトウヤの行動に期待を高めているのだった。
それぞれの世界に名前が無いのは少し変かなと思い、この章でなんとかしようと画策中です。
なんとなく我々の世界って地球ってなってると思ってるんですが、それって惑星としての名前だから他の世界が無いのに何で名前があるの?って思ってしまったからこの作品はこうなっているのですが、僕が知らないだけで、この世界にも名前ってあるんですかね。
個人的な意見で何一つ根拠も無いのですが、名前って同じようなものを区別する為に付けたり呼びやすいようにしたりするもので、普段呼ばないなら、名前は無いように感じるんですよね。




