ハンター試験
ナフルル視点
6限目の終わりのチャイムが鳴り響き、放課後の始まりを告げる。たまに連絡等があったりするが、今日は無いようだ。
放課後は部活や委員会に行く人が多いが、私の所属する諜報委員会は特にやることはない名ばかりの委員会だ。
栄光の天気には特有の委員会というものが存在する。男性なら生徒会を優先するが、女性はそれらの委員会に所属するものだ。
霧は諜報、嵐は風紀、雨は保険、雲は生徒会の下部組織である執行だ。
この中で忙しいのは2つ。風紀と執行だ。生徒会は主に仕事を執行に任せているし、風紀は見回りをするから。
逆に諜報は情報が足りず風紀が中々手が出せない生徒を調べ、それを風紀に渡し仕事を全う出来るようにする。こういうことは滅多にない。たまに先生から依頼が来ることもあるが基本的には仕事はない。保険はそもそも怪我人を治療する先生の補佐なのでこれも基本的には仕事はない。
「それじゃあ、行こっか」
私のご主人様であるトウヤ様がみんなが教室からいなくなった頃にそう声をかけてくる。
「そうね」
ご主人様に対してかなり態度が悪いけれど、トウヤ様が素でいいとおっしゃるのでこうしている。
私達がやって来たのは街にあるハンターのクランだ。
中はお世辞にも綺麗とは言えない所で、正面にカウンターとその左右には階段があり、右側には買い取り所、左側には酒場がある。
トウヤ様は気にする様子もなく、カウンターへ向かうが、酔っ払ったおっさんに絡まれてしまった。
「よぉ兄ちゃん。ここはお前みたいなひょろいガキが来ていい場所じゃ無いんだよ!」
既にランクが白銀になっているトウヤ様に絡むなんてバカだな、と思っている者は受付嬢と一部のハンターだけだった。
「ほら、そこの姉ちゃんと金おいて帰りな」
私に被害が及んでからトウヤ様はそれまで気にする様子が一切無かっただが、男の方を向いた。
「そう言うの、止めた方が良いと思いますよ?程度が知れるので」
「なんだとこのガキ!」
男が使い魔を召喚する直前、トウヤ様からのプレッシャーが男を襲ったのか酔いが覚め変わりに顔が真っ青になる。
トウヤ様は何事も無かった様に私に笑顔でカウンターへ行くように促した。
トウヤ様に付いてカウンターにいくと綺麗な赤髪の受付嬢が対応してくれた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「……彼女のハンター試験を頼むよ」
「彼女、ですか」
「あくまで女性のことを指す意味だから!」
何故か眼が鋭くなった受付嬢にトウヤ様が必死に説明している。
彼女のことが好きなのでしょうか?
「信じますよ?試験の内容は模擬戦です、こちらへどうぞ」
案内された場所は学院の訓練場のように魔石と魔宝石によって造られており、耐久性は申し分無い。面積も模擬戦程度なら問題なく行える程には広い。
中央には試験官と思われる女性がいる。
「来たわね。早速だけど実力を示して貰うわ」
ルールは基本的には何でもあり。時間制限は30分以内で行う、とのこと。
試験官は自身の使い魔を召喚すらしておらず武器も持っていない。体術や魔法、スキルのみで戦うのだろうか。それでも十分戦うことは出来るが、手加減されているようだ。
一方、私は腰にある刀の柄を軽く握り始まった瞬間に火魔法の付与出来るように準備している。
トウヤ様は端の方で観戦し、受付嬢は審判を行う。
コインが宙を舞い地面に落ちるのを合図として私は刀に魔法を付与して加速させ抜刀する。
試験官は刀の軌道を見切ったと言わんばかりに自信満々に刀が当たらないすれすれのところを駆け抜けて来る。
私は冷静に火魔法を応用して強引に刀の軌道と自身をねじ曲げて左側に回り込みながら試験官を狙う。
本来ならばあり得ない軌道で迫り来る刃に対して試験官は左腕を盾にして右手で攻撃しようと仕掛けてくる。
一対一でこの状況にならば試験官は私に大ダメージを与えることが出来たでしょう。しかし、ここには私の他に使い魔である黄昏の針鼠のリエリスがいる。
リエリスは私の幻影魔法とリエリス自身の能力により姿を認識されることなく試験官の死角から針を一本だけ飛ばした。
この針には相手を麻痺、毒、眠り、またはその複数の状態異常にさせる。確率的には耐性を持たない者は麻痺と毒と眠りはそれぞれ九割で、耐性レベル1なら七割五分、レベル2は六割といった感じで一割五分ずつ減っていく。(レベル5なら一割五分)
これは針一本当たりの確率なので複数当たればその分状態異常になりやすい。圧倒的豪運があればなんともないが、そんな人は滅多にいない。
これは後から知ったことだが、この試験官は状態異常耐性レベル3がある為、各状態異常に対して四割五分という決して高いとは言えないが、それは特に問題無い。
そして、今回は毒と麻痺にかかる。これにより急激に力が抜けた試験官はその場に倒れた。
「そこまで。流石ですね。これなら白銀まではやっていけますよ」
一見して運が絡んだこの試験。実はこうなることは試験が始まる頃には分かっていた。
私のスキル、未来予知レベル4によって断片的な未来を知ることが出来る。レベルが上がるにつれて予知出来る内容が増え、質が上がる。
今回予知したのは針一本でどの状態異常になるのか、だ。結果はこの通り。
「ですが、まずは経験を積んで貰う必要がありますので鉄からです。試験合格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
私はトウヤ様を見るとトウヤ様はこちらに歩いて来て微笑みながら褒めて下さった。
「おめでとうナフルル。これで無事にハンターの仲間入りだね」
「うん。ありがと!」
私は極自然な流れでトウヤ様を抱きしめようとしたのだが……いつの間にか受付嬢がトウヤ様を抱っこしている。
「何をしようと思ったのですか?死にますか?死にたいようですね。殺しますね?」
殺意を私に向けて飛ばしてくる。どうやら彼女はただの受付嬢では無いようだ。
「ま、待って待って!それはダメだよ」
「ですが、抱擁などという過激なスキンシップ未遂ですよ?」
受付嬢はトウヤ様を抱っこしているにも関わらず、私を咎めてくる。ただのハグで罰せられるのは流石に理不尽過ぎる。
「それくらい誰しもするでしょ?仲間なら当然のことだし」
「……その通りですね。申し訳ございません。私になんなりと罰を」
お、重い。彼女の愛が重すぎる。トウヤ様も苦労しているんですね。それなのに、私の世話を焼いてくれて……本当に私は運が良い。
私は産まれながらにまるで奴隷のような人生だったところを救われた。私は自由こそ無かったが、他の貴族と結婚する為、決して暴力やセクハラなどはされなかった。
それでもあの頃はとても苦しかった。
少しでも役にたたないと!
私自身は別に貴族と結婚したい訳では無い。けれど、トウヤ様は貴族。それも辺境伯の養子なので、結果的には貴族と結婚したいってことになってしまう。
まぁ、倍率高そうだし、そもそもトウヤ様の奴隷なのだけれど。
一応この国には男性の魔法使いのみ一夫多妻制度が適応されるので、なんとかならなくはないかもしれない。が、眷属の方々が認めないだろう。
それなら奴隷である私なら内緒であんなことや、そんなこともシてもらえる可能性が!
今のところ1度も手を出されていないのが、現状である。
それを理解することで意識を現実へと戻した。
「なら、どんな罰がいいのさ」
「勿論、性的な「却下。そもそも罰を下される側があれはダメとかこれが良いとか罰の内容を決めるのさ」
どうやらトウヤ様が色々考えたのだが、彼女がそれを拒否しているようだ。
「しかし!トウヤ様の周辺調査禁止だとか、持っている空間記憶媒体を全て消去しろだなんてあんまりです!」
……それはトウヤ様が嫌がるのは当たり前のことじゃない?
「じゃあ、ナフルルとパーティ組むからその手続きをお願い」
「……くっ!仕方ありません。分かりました。ではパーティ名はどうしますか?」
ただの頼み事のような気がしなくも無いけれど、トウヤ様は甘いですね。
「う~ん。後で決めるよ。とりあえず今日は帰るから、ナフルル行こっか」
「どこかで魔物を狩らなくていいの?」
外へ向かうトウヤ様の後を追いかけて隣に並んで歩く。それと同時にトウヤ様は私に歩幅を合わせてくれる。
「ナフルルの実力が無い訳でも信用して無い訳でも無いけど、僕とパーティを組んでからの方が良いからね」
これでは結局トウヤ様に迷惑がかかってしまうのですが、私が拒否する選択肢はどこにもありませんね。




