4月最後の
投稿再開です
パチッパチパチッ!
焚き火の燃える音がする。二時間刻みの見張りサイクルを四人で回して野宿する光景。
懐かしい記憶だ。
僕がまだ勇者パーティにいた頃の記憶。
勇者パーティは勇者、聖女(聖者)、剣聖、賢者の称号を持つ者の四人で構成されている。魔王が産まれる頃にしか作られないパーティだ。
年齢は特に指定してないが、今回は全員同年代だった。
聖女のリリアーナ・シャーノルン、剣聖のラミューラ・ミネティス、勇者のエヴァン・エルミラシル、そして僕、賢者のトウヤ・シエルローフの4人で構成され後に僕を除く3人になってしまうパーティ。
懐かしいな。同じテントで寝て同じご飯を食べて、かなりの激務だったけど、案外楽しかったんだよね。
荷物も空間拡張が付いてるバッグが4人分あれば十分パーティの持ち物や個人的な持ち物も十分入るし大きいものは僕の影の中へと入れられた。
シャワーは僕の水魔法とエヴァンの火魔法でお湯にしてそれぞれ浴びる事が出来たし(シャワーは4つに区切った天井が繋がっているボックスに入って魔法を発動させている)魔物の死体を売っているのでお金にも困らなかった。
勇者パーティが結成したのは僕らが7歳の頃、3年くらい経った後に僕が抜けた。
こっちの世界では5歳になると自身の才能を鑑定士に視て貰うのだ。それから2年かけて修行をしてこれからの伸び代などを鑑みて最も優秀な者が称号を手にすることが出来る。
例年の勇者パーティの年齢は15とかだったはず。最長が27で僕らが最少だ。これはどうでもいい話か。
こっちの世界ではレベルアップと努力によって魔法やスキルが覚えられたのだが、転移後の世界ではスキルポイントによって割り振る形になっている。
こっちの世界で身に付けた魔法などはスキルポイントを消費して習得する形ではない為、スキルポイントは減っていない。その代わりに才能のないスキルとか魔法はどう頑張っても習得することは出来ない。
まぁ、世界を行き来することが出来ないのだから今となってはどうでもいい事だ。
よく見張りしてる時に魔法の練習をしてたっけ?
今も夢で見ている僕は水魔法を操っていた。
魔法の熟練度を1日でも早く上げる為に暇な時や寝る前は必ず何らかの魔法を使っている。今でこそスキルポイント制になり魔法を自由に使うことにリスクがあることからやらなくなってしまった。
野宿する際の僕が最後の見張りの時は水魔法を使うことが多い。寝ながら魔法を使うことは出来なかったから最後の見張りの時だけ朝食を準備したら火を消す際に利用していた。
僕が朝食を準備し終え火を消すと同時に夢から覚める。
今日は4月30日。4月最後の日だ。つまり、レニーナは今日の夜に鬼人のネクミスと交代する日なのだ。
この6年間、月の終わり頃は一喜一憂する眷属がいる。今回は一喜の方がネクミスで一憂の方がレニーナというだけで、来月の終わり頃には逆にネクミスが一憂している。
因みに一憂するのは基本的に帰る直前。
既にナノルルから一通りの家具が送られて来たので反転シリーズの家具や無重力シリーズのアクセサリーは影の中へとしまってある。
僕が目を覚ましたことを察知したのかレニーナが僕の部屋へとやって来た。
「おはようございます。トウヤ様」
「おはよう、レニーナ。それよりも、準備は?」
「はい。既に整えてあります」
レニーナにナフルルの命令権を何とかしたいと相談したところ、無くすことは出来ないが、命令権を僕に移すことは可能らしく、それの準備を頼んでいたのだ。そして、その準備が終わるのが昨日の深夜だったという訳だ。
「じゃあナフルルを呼んで来てくれないか?」
僕は自身の眷属への命令は強制してしまうのでいつも何かしてほしい時はお願いする形で頼んでいる。
「そちらの方も既に済んでおります」
本当に優秀だね。僕の眷属って。
僕の眷属は経ったの12人しかいない。
吸血鬼は3桁以上もの眷属がいる為いつも僕の眷属は少数精鋭だと言われていた。まぁ、そんな簡単に増やせないだけなのだが。
「ありがとう。行こっか」
行くと言っても隣の部屋でナフルルが寝泊まりしている部屋だ。
扉を開けるとベッドに一糸纏わぬ姿でうつ伏せで寝転がっていた。その背中には魔方陣らしきものがある。
これは……命令権の上書きのやつか。
魔法具を取り外すのは既に脊髄神経に取り込ませている為、かなり危険だとのこと。故に命令権を魔法で弄り僕が主となるように上書きするのだ。
「さ、トウヤ様の眼が汚れてしまうので手短に終わらせましょう」
予め手順はレニーナから聞いている。人差し指を少し切り、魔方陣の中心に僕の血を数滴垂らす。
「ぅん!……ぁあ!……ぅぁ!」
魔方陣は紅い輝きを放ち次第に消えていった。その間ナフルルは喘ぎ声を漏らしていた。
魔方陣が消えるのにかかった時間は約1時間くらいだった。
ナフルルは暫く動けそうにない。幸いにも今日は休日なので問題はないだろう。学院があった場合には欠席しないといけないところだった。
ナフルルのことはどうでもいいと言わんばかりにレニーナが僕の方へ近づいて来た。
「トウヤ様、早く行きましょう?」
今年最後の一緒にいられる休日ということで、レニーナと出かけることになったのだ。
ただ、お互いに存在隠蔽を使用しているので、何かを見て回るくらいしか出来ず、物足りない感はあると思うのだが、レニーナは「トウヤ様と出かけるだけで満足です」と言ってくれている。
本当に眷属って僕にだけ甘々だよね。ナフルルのことなんて一欠片も心配してないし。
因みに存在隠蔽を使用している理由はレニーナの種族が幽霊ということや、知り合いに見つかりたくないという理由だ。
今のところナフルル以外には禁断の果実のチルリス・デーベロフルにしかバレていない。それも魂の契約書を用いて口封じをしてある為漏れることもない。
レニーナが少し前に調査として学院がある街(つまりこの街)を全て把握しているからなのか、エスコートを買って出てくれた為レニーナの後ろをついていく。
僕もレニーナも飛行スキルを持っているので、空から絶景を見ることも可能だ。まぁ、そんな絶景はあるとしたら夜になるだろう。
僕達は存在隠蔽と飛行のスキルを使い学院の外へ出た。
一般的に学院の外へ出るには面倒な手続きをしなくてはならない。しかし、各クラスに2、3人存在する特権持ちの生徒、栄光の天気である僕はそんなことをしなくて済む。
特権については各クラスによって違うことが多いがこの外出については時間制限や平日はダメで休日は良いなど細かいところは違ったりする。
因みに我がクラス、霧の特権では時間制限無し、平日も問題ないどころか昼休みだって可能だ。まぁ、今日は休日だから全ての栄光の天気は好きに外出出来るので今は関係ない話だな。
ん?
暫く2人でぶらぶらと歩く、もとい飛んでいたら違和感を覚えた。
数々のお店が立ち並ぶこの辺りは活気があるはずなんだが、心做しかいつもより活気がない様に見える。品物の値段や数もいつもとそこまで変わらない。しかし、なんだろう。どうも違和感を感じてしまうのだ。
「いつもと様子が違いますね。そう言えば、最近何故かやる気が出ない、という話を小耳に挟んだことがあります」
レニーナはこっちの世界ではフリーの諜報員として裏の世界で名を覇せているらしい。
諜報員と言ってもレニーナの観点からどのような情報をいくらで売るのかはしっかり管理してるし、レニーナを敵に回すとその組織は潰れるので何も問題はないらしい。実際に潰れた組織の数は少なくないんだとか。
以前、とある有名な闇ギルドのトップを敵に回したことがあるのだが、翌日にはそいつの極秘情報がばらまかれていた(住所やら家族構成や行きつけの店など)。そして、あっという間にそいつはどこかへ消えてしまったらしい。
これ以来レニーナを敵に回したら死ぬことになると噂が裏世界では有名になり厄介事も減ったのだとか。
僕の感覚としてはそんな恐ろしい感じじゃあないんだけどね。
僕の眷属は本当に僕にだけ甘々なので僕だけがそう感じているだけの可能性は高い。
僕達は夜まで出かけ別れたのは日付が変更する直前だった。
これでレニーナの出番はほとんど無くなることになりますが、この先完全になくなることはないと思います。




